創業
「お待たせいたしました。領主様がお会いになりたいと申しております」
下手に出るようになった門番に案内され、屋敷の庭に通される。
さすがに、馬を家には上げてくれないか。まあ、こっちとしても、廊下に飾られている高い花瓶なんかを壊さないように身を小さくして歩かないで済むだけ、気が楽だ。
それに彼らは、『馬が従者』という認識になっているんだろうから、ミントだけ呼ばれるということもない。ボロを出さずに済むから、その点は助かる。
庭では、筋骨隆々の大男が大ぶりな剣を振り回していた。
あれが、領主か。しかし、お客を迎えるに当たって、この態度はどうなんだ。神様でなくとも怒るんじゃないかな。
「いや、申し訳ない。日課の素振りが終わっていなかったもので」
領主が豪快に笑って、頭を軽く下げる。
う~ん、その態度はマイペースなのか、威嚇なのか。まあいい。とりあえず、今は謝罪を受け取っておこう。この分の埋め合わせは角の代金に上乗せさせていただきます。反論は受け付けません。
さて、これから女神様をダシに角を高値で売りつけてやろうとすると、頭の中に声が響いた。
(ユニさん、マズイですよ。)
こいつ、直接、脳内に!?
(ふざけてる場合じゃありませんよ。あの男、神様か、少なくとも、その眷属ですよ)
エッ!? それは、マズイ……のか?
(今までのように、植物の神様なんていう嘘は通用しません。どうします、逃げますか?)
いや、ウソではないだろう、ウソでは。……ホントでもないけど。
だが、それが分かっているなら、他にもやり方がある。
まあ、任せておきたまえ。
(ホントですか? 詐欺容疑で逮捕とか、嫌ですからね)
この言葉を最後に、ミントとの脳内会議は終了した。
しかし、失礼なヤツだ。いたって、真っ当な商売をしている者を捕まえて、詐欺師呼ばわりとは。ここは、前世で聞きかじった営業トークで、きっちり売りつけて、汚名返上といこう。
「どうも、はじめまして! わたくし、『株式会社 ミント牧場』の営業をしております。ユニ・ワイズマンと申します。この度は、貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございます。このような体なもので、お名刺を差し上げることもかないませんが、ご容赦ください」
周りにいた領主サイドの人間が、みんな、ポカーンとしている。領主もしばらく、動きを止めていたが、すぐに復活した。
どうやら、話の流れが分かるらしい。神様社会と日本社会が少なからずリンクしているのが、なんだか嫌だが、今は、それどころではない。
「あ、いえ。お気になさらず。で、今日はどういったご用件で?」
明らかに領主としての物言いではない。
神様用の商談モードといったところか。
「はい。本日、ご紹介させていただきますのは、弊社が自信を持ってお勧めする商品、『ユニコーンの角』でございます。こちらは、大自然の恵みを受け、豊かな自然の中をのびのびと自由に駆け回って育ったユニコーンから採取する一級品です。美味しい空気と清涼な水、地味豊かな野草を食べて育ったユニコーンは、まさに健康そのもの。お客様に『安心、安全』にお使いいただける商品となっております」
「なるほど、それで?」
「ご存知のように、『ユニコーンの角』は、傷や病気の治療、解毒など幅広い用途にお使いいただけます。なかでも、弊社の商品は、あの有名な『バルバリ様』にも長年ご愛顧いただいている商品です。信頼と実績から申しましても、他社の商品とは、モノが違います」
「へぇ、あの『蛮族の神様』の……」
ふう、バルバリ様が結構な有名人だったようで、一安心だ。これで、「バルバリ? 知らない子ですね」なんて言われたら、とんだ赤っ恥を晒すところだった。
あんな神様でも、役に立つことってあるんだな。今度、居そうな方角に向かって、適当に拝んでおこう。
「でも、そうなると……、お高いんでしょう?」
よし、ちょっとは興味を持ってくれたみたいだ。深夜通販の相方みたいな反応だが、そこは、まあ良かろう。売れれば良かろうなのだ。
「いえいえ、今回かぎりのお試し価格!! 金貨50枚!! 金貨50枚にて、ご提供いたしております。産地直送ですので、送料、手数料等はいっさい頂きません」
「エッ!? GP払いじゃないんですか? か、買います!!」
なんだ、GPって?
でも、まあ売れれば何でもいいや。金貨50枚とか、とんでもない大金だしな。これで、当面は生活費に困らない。さらに言えば、今度こそ、ちゃんとした奴隷をゲットできるかも知れない。
あ、その前に金貨の袋で、ミントの頬を往復ビンタしてやろうっと。
大慌てで、金貨を入れた袋を部下に取りに行かせた領主が、満面の笑みで、こちらに向き直る。
「それで、角はどちらに?」
「こちらになります。お確かめください」
そういって、頭を下げてみせる。どうだ、
角の採集まで体験出来るのは、珍しかろう。
またしても、領主は動きを止めたが、すぐに再起動した。
慣れてきたのだろう。
「動かないでくださいね」
そう言うと領主は、腰に差していた片手剣を抜き放つと、角の根元に一閃をいれた。
うお、危ないな。
興奮気味なせいで無茶なことをされたが、大口のお客様だ。
仕方が無い。多少のことには、目を瞑ろう。
「私は『剣の神』の孫、エッジというものです。今後もお立ち寄りの際には、是非、また角を売ってください。お願いします」
剣の神様の関係者か。どうりで、剣を人様に簡単に向けるわけだ。相応の自信が彼にはあるのだろう。剣を向けられる方は、そんなこと知ったこっちゃないが。
「はい。ご愛顧いただけるように、努力いたしていく所存です」
玉虫色の回答をして、初めての飛び込み営業が終わった。後に残ったのは、沢山の金貨とちょっとの疑問、心地よい疲労感だけだ。
よ~し、早速、このお金で、ちょっとお高めな宿屋に泊まって、たらふく旨いものでも食べちゃうぞ。
背中のミントが袋を懐に隠して、キョドキョドしている。気持ちは分からないでもないが、余計にトラブルを招きそうなので止めなさい。堂々としていればいいのです。我々は、そのぐらいの仕事をこなしたわけなのですから。
さあ、初仕事のお祝いに宴会だ!!




