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教訓:水場でふざけてはいけない

「どうして、助けてくれないんですか!!」


 雑草女神であらせられるミント様が、お怒りだ。

 そのあまりの剣幕に、馬なのに正座を強いられている。

 結構な体重があるので、足が痛い。


「いや、水に入ったから、テンションが上がって、ふざけてるのかと……」


「そんなわけないでしょう!? 私、ちゃんと助けを求めましたよね?」


「そこも含めて、ネタなのかと……」


「ちょっとは真面目に考えてください!! ふざけていて、誰かが溺れ死んだら、どう責任取るつもりですか?」


「ふざけていたのは、ミントさんのほうで……」


「だから!! 私は、おぼれていたんです!!」


「まあ、それでもいいですけど……。それにしても、ミントさん。神様なのに、泳げないの?」


「私は水関係の神じゃないし、今まで機会が無かったから、泳げなくてもしょうがないんです!! それに、神は溺死したりもしないから何も問題ないんです!!」


「じゃあ、何で怒ってるわけ?」


「私はユニさんに、助けを求める人を見かけたら、ニヤニヤしてないで助けるぐらいの慈愛の心を持っていただきたいだけです。あなたには、人として大事な物が欠けています!!」


「馬だけに?」


「そのドヤ顔をやめろ!! 上手いこと言ったつもりか!!」


 顔を真っ赤にして、ミントが地団太を踏み始める。


 ミントちゃんったら怒りすぎて、口調が崩れちゃってるわ。嫌だわ、最近の娘はキレやすくって。神様なんだから、もうちょっと落ち着きを持ってもらいたいものね。


「まあまあ。ミントちゃん、落ち着いて。神様なんですから、人目を気にしてください。ほら、そんなに怒ると可愛い顔が台無しですよ。涙とか鼻水も出ちゃってますよ」


「フッー! フッー!」


「ほら、深呼吸して。スッー、ハッー。さん、はい。スッー、ハッー」


「フー、フー……。スッー、ハッー。スー、ハー」


 バカめ、罠にかかりおったわ。


 今、我々がいるのは、池のすぐ横。

 そして、その場所にあるのは、池だけじゃないんだぜ。


 くらえ!!


「おいしい、おいしい、串焼きだよ!! 焼きたてジューシーだよ!!」


 串焼き屋台のオヤジが、こちらの喧嘩など我関せずと、商売に励んでいる。


 やっぱ、商売人は根性が違うわ。素直に尊敬する。馬と雑草女神の池ダイブからの醜い言い争いまでを見て、ピクリとも反応しないとは、相当にタフなメンタルの持ち主だ。いや、オヤジの『黄金の精神』についての賛辞は、今はいい。


 それよりも、用があるのは屋台から漂う香ばしい串焼きの匂いだ。


 ズビッ! ジュルジュル!!


 ミントの口から、涎がたれた。くく、いくら拭おうと、溢れだす涎は止まりはせぬわ。我が身を持って体験しているので間違いないです。


「いいですか、だいたい……」


 馬鹿な、まだ止まらないだと!? 

 

 うわ!! 爽やかな香りの唾をすごい飛ばしてくる。くそ、地味に仕返ししてくるな。このまま、喋らせるのは危ない。さっさと黙らせよう。


「はいはい。その話は、もうおしまい。今、我々がやらなくてはいけないのは、ここでこうしていることではないはずです。違いますか?」


 グ~、キュルキュル。


 ミントが盛大に腹の音を鳴らす。その切なそうな音を聞いて、ミントは恥じ入るように小さく頷いた。




「お金持ちに売りつけよう」


 やはり、これしかない。何度、考えても、角を買えるだけのお金を持つのは、お金持ちだけだ。だが、市場にはそんなお金持ちはいなかった。


「それは、最初に出た結論ですよね。そのお金持ちがいないから困っているわけで」


 やれやれというジェスチャーを加えて、ミントが馬鹿にしてくる。くそう、ミントのくせに生意気だぞ。


「違う。発想を変えるんだよ。金を持っていれば、どんな存在でも良い訳」


「良く分かりませんね。何が言いたいんですか?」


「この町に、売りつけよう」


 公的な機関なら、個人よりお金を持っている可能性が高いだろう。すでに、予算がないかもしれないけど。でも、営業の過程で有力者に会えれば、その人に売りつけることもできるわけだし。


 どう転んでも、売れる可能性が出てくる。少なくとも、ここでボーっとしているよりはずっとマシなはずだ。


「行政か権力者に売りつける気ですか。いいでしょう。私もああいう連中が大嫌いなので、せいぜい高く売りつけてやりましょう」


 多分、過去の経験から来ている発言だろう。この娘、結構、世知辛い目にあってるからな。


「でも、それって完全に八つ当たりですよね」


「ええ。でも、一矢報いたいんです」


 戦意を高めるミントを背に、町で一番大きな建物を目指す。ほどなく、白い大きな館に到着した。門前には、ちゃんと専属の門番がいて、いかにもといった感じ。


 おそらくは、あそこに町の支配者がいるのだろう。


 門の前に立つと、すかさず門番が寄ってくる。

 なかなか機敏な動きだ。働き者だなぁ。


「ここは領主様のお屋敷だ。関係のないものは帰れ!!」


 開口一番、帰れコールとは失礼な。こっちは曲がりなりにも神様同伴だというのに。


 よかろう、神に楯突いた事、後悔させてくれる。


「無礼者!! こちらにおわすお方をどなたと心得る。植物の女神様であらせられるぞ!! 頭が高い!! ひかえおろう!!」


 こちらの突然の恫喝に、門番は口をパクパクとさせている。よし、このまま押し切ってやる。


「女神様は、領主殿との面会をご希望である!! 直ちに、取り次がぬ場合は、神罰が下ることになると心得よ!! さあ、返答はいかに!!」


 一気にまくし立てて、相手に思考する時間を与えない。大事なことは、兎に角、勢いだ。


「で、ですが……」


「さあ!!」


「わ、わかりました。少々、お待ちください」


 勢いで、押し切るコトに成功した。これで、第一関門は突破だ。だけど、これからが本番。気を引き締めて、かからねば。


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