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クエスト24:エピローグ ~そして伝説を築け~

 大魔王孝明(たかあき)を滅ぼした。

 はずなのに次の瞬間にはまた立ち上がって今度は仲間になりたそうな目でこっちを見てきた。

 仕方ないので連れて行く事にした。

 ラーダトゥムの町の正門前まで戻って来た。

 そして今に至る――


「……で、『今はまだ城に入らない方が良い』って、どういうことなんだ?」


 お祭りムードに沸くラーダトゥムの町の様子を遠くに眺めつつ、僕は孝明に尋ねる。孝明のその忠告が気になって、僕はまだ町にも足を踏み入れず門の前で待機しているんだ。

 シンディ達三人には町の屋台で軽い食べ物でも買ってきて貰うようお願いして今は別行動としている。孝明と二人きりじゃないとできないような話もある訳だし。


 ちなみに、孝明の同行についてだが一応人畜無害の大魔王ということで納得して貰った。世界を荒らしまわってたモンスターは魔王デスドラースの管轄だったし、孝明が魔王を玉座の間から追い出してからはモンスターの増産が止まってむしろ世界平和に寄与してたことになるし。

 で、聞くところによるとどうやら僕が邪神官ゲドを倒したおかげで中ボス枠が一つ開いてようやく魔王を押し出せるようになったとのこと。間接的に僕の行動も役に立ってたようだ。

 それはさておき、話の続き。


「うむ。今ラーダトゥム城に入ると、エンディングが確定してしまう」


「……それに何か問題が?」


「考えてもみろ。今のお前だとローザ姫と結婚できない。よしんば結婚できたとしても、子供が生まれない。つまり……続編が発売されない!」


「……あ」


 そういえばそうだった。このゲーム(ラビドラ)のエンディングは、主人公の勇者とローザ姫が結婚して幸せに暮らすもので、オリジナル版ではその二人の子孫達が続編での主人公となり、新たな冒険が始まる。


「つまりエンディングは一旦保留にして、裏迷宮(ラビリンス)に挑戦するのを俺は提案する!」


「裏迷宮(ラビリンス)……あのぽんこつ女神か」


 ぽんこつ女神――別名駄女神とも言う――は裏迷宮(ラビリンス)のボス的存在で、基本は人類に対して友好的なんだけど力試しと称して戦うことができる相手だ。そして勝てば何か一つ願いを叶えてくれる。

 但し、裏ボスだけあって超強い。行動内容としては勇者の攻撃力と魔法使いの多彩な属性攻撃と遊び人のフリーダムさを足して二で割ったような感じだ。

 子守唄でパーティを眠らせたり(時々自分自身も寝る)、駄洒落や謎の踊りでこちらの戦意を削いだところに≪雷神剣・改≫とかの極悪非道技を情け容赦なく叩き込んでくるので油断するとすぐに人が死ぬ。油断しなくてもレベル70に届かないような雑魚は容易く禿げ散らかされる。


「そう。あのエッチな本をくれるエッチな女神様だ!」


「いやまあ選択肢の一つにあったけどそれだけで判断するのも!」


 ゲーム時代はその“お願い”の内容は選択肢式で、「新たな迷宮(ラビリンス)に挑戦したい」とか「強力な装備品が欲しい」とか色々あるんだけど、その中に「エッチな本を下さい」というスタッフの正気を疑うものが入ってるんだ……


「まあエッチな本も魅力だが、今ならきっとゲーム時代に無いお願いもできるはずだ!」


「成程……つまり元の世界に帰りたいとか?」


「いや、現状を打破するのに最適な選択肢はこの一手!」


 ばばーんと効果音が入りそうな勢いで孝明はポーズを取ると、


「すなわち、ローザ姫を男にしてしまえば全てが解決する!」


「なんでやねん!」


 ずびし! と【筋力】255を如何なく発揮して突っ込みを入れる。孝明は「おぶっ!」とくぐもった声を漏らした。


「ま、待て! 最後まで話を聞け! 要するにローザ姫を男にすればお前と結婚できる! 子供だって産める!」


「いやしないから! 産まないから!」


「くっ、我が侭な奴め! 勇一はラビドラの続編と自分の貞操とどっちが大事なんだ!?」


「貞操というかゲーム一本よりは自分の人生の方が大切だよっ!?」


 ボケとツッコミの応酬が続く。ただ孝明は昔からこんな奴だったから、こういうやり取りも久しぶりにできてちょっと楽しいのは事実だ。


「まあ、シンディ達が良いって言えば、裏迷宮(ラビリンス)に行ってみるのは反対しないけどね」


「うむ。勇一はまだ消化してないイベントが色々あるからな。ここで冒険を終わらすのは勿体無いだろう」


「未消化イベント? ……そんなのあったっけ?」


 裏迷宮(ラビリンス)絡みを除くと行ける範囲の町や村は全て制覇してるし、洞窟や塔も踏破して主だったアイテムも獲り尽くしてるし……

 僕が腕を組んで考え込んでると、孝明がまた得意げにウザいポーズを取る。


「うむ。やはりこう『女になったら今までは単なる悪友だった男友達に異性を感じてしまってドキドキ。ボクどうしちゃったの?』とか『その男友達に着替えを見られていや~ん』とか、女体化前の自分を知っている相手が存在する故のお約束のイベントというものがあるだろうが!」


「だからそういうのはもういいって言ってるのに!?」


「そんな可愛い姿になったのに勿体無い事を言うもんじゃない! 勇一の態度は貴重な資源の浪費だ! 世の中には折角美少女になれたと思ったら囚人服着た小汚い男の姿のままで、なのに何故か周囲からは女子と認識されるような恵まれない事例だってあるんだぞ!」


「いやちょっと本格的に何言ってるか分からないから!」


「まああれだ。俺が仲間に加わった以上ビシバシしごくからな! まずはミニスカートで歩き方の特訓からだ!」


「あ、それもうやった……」


「何だとォ!? 俺の居ない間になんてうらやまけしからん!」


 などと孝明が吼えていると、買い出しに行ってたシンディ達が串焼きやらサンドイッチやら飲み物やらを抱えて戻って来た。


「なんか盛り上がってるようだけど、おねーさん達はお邪魔かな?」


「あ、いや、重要な部分は話し終えたし今後の方針のこともあるからみんなにも聞いて欲しいかな」


「りょーかい。じゃあ、これ適当に分けて食べて」


「ありがとう……って、孝明は食えるのか? そのローブの中はがらんどうに見えるけど」


「うむ。中身はギャランドゥだが問題ない」


 なんか人名になったし。それはそれとして孝明が串焼きを一本手に取って口に相当する箇所に運ぶと、突っ込んだ部分が闇の中にすっと消える。取り出すと先が半分程、串ごと消失していた。


「ふむ。なかなか美味いな」


「味判るんだね……」


 僕も串焼きを一本貰ってはむはむと食べつつ、さっきの裏迷宮(ラビリンス)の話をみんなにする。


「へえ、女神様の待つ迷宮(ラビリンス)ね、おねーさんは是非行きたいわ。このメンバーで旅するのって楽しいし」


「わたくしも、新たな戦いが待ってると聞けば行かないわけには参りませぬ!」


「……私も付き合うの。『寺院』に戻っても意外とヒマなの……」


「みんな、ありがとう……」


「何言ってんのよ。あたし達とユウちゃんの仲じゃないの」


「うむ。麗しい友情だな。そしてその友情はいつしか百合の咲き誇る愛情の花畑に――」


「ならないから!」


「……なんか大魔王殿、『寺院』の俗物連中と同じような感じがするなの……」


「うん。でもルナも時々同類だから」


「……がーん。なの……」


 ショックの受け具合を見るに、もしかして今まで自覚無かったのだろうか……


「さて、いつまでもこんな所で話し込む訳にいかないし、日が暮れる前に出発しよっか」


「……え。フォロー、無しなの……?」


 明るく言い放って立ち上がるシンディをルナは悲しげな上目遣いで見上げる。なんか小動物的で可愛かったのでとりあえず頭を撫でておいた。


「うむ。続きは温泉街にでも行ってゆっくりと風呂に浸かりながら話すとするか。言っておくが俺は脱ぐと凄いぞ、暗黒物質(ダークマター)的な意味で」


「それ、温泉に溶けてお湯が黒くなったりしないよね?」


「大丈夫! 人体には無害だ!」


「お湯に色が着くだけで大迷惑だよ! 僕達までアネル出入り禁止になっちゃうじゃないか!」


「くそう、俺をのけ者にして裸の百合ライフを楽しむつもりか!」


「……心配には及ばないの。勇者殿はなかなかガード固くて、まだ無垢な蕾のようなもの、なの……」


 ルナは何故こういう話題になると生き生きとして眼鏡を光らせるのか。


「とにかく、出発するからみんな天空雀に乗り込んで」


 よじ登る際のアングルの問題があるのでまず孝明を押し上げてから天空雀の背中に乗り込んだ。


「じゃ、もうしばらく宜しくね」


 雀の首の後ろを撫でると、いつものように一声チュンと鳴いて離陸。沈みゆく夕日に紅く染まる空を、もう特に急ぐ用事も無いのでゆっくりと羽ばたく。


「さあ、行こうじゃないか! 俺達の伝説はまだまだ始まったばかりだ!」


「え、大魔王の伝説を作るの!?」


 なんかボケキャラが増えたせいで突っ込みが今まで以上に忙しくなった気がするぞ。

 まあでも賑やかな旅は大歓迎だ。これからの新たな冒険に心を躍らせて、まずは温泉街に向けて天空雀の進路を取る。


 視界の先で、僕らを祝福してくれるかのように、一番星がきらりと輝いた。



<あとがき>


 以上を持ちまして、女勇者ユウの物語は一旦完結となります。

 裏迷宮編まで続けると、TS主人公(ユウ)が男に戻ってしまうという大暴挙になりかねないので、構成上ここで締めるのが最善と思いました。

 最後までお読み頂きました方、ブックマークやpt評価や感想を下さった方に最大級の感謝を申し上げます。

 途中で合わずに引き返された方にはごめんなさい、次はもっと精進します。



 小説書きの経験は昔にゲーム系の二次創作を幾つか書いておりました。

 なのでまずは、「なろう」の形式に慣れることと、二次創作から完全オリジナルへの足がかりを意識しての作品のつもりでした。

 ある意味「1.5次創作」みたいな位置づけかも知れません……


 言うまでもないとは思いますがモチーフにしたゲームは国民的RPGの竜を探索するアレです。それも私の魂の原点である3と5の比重が高めです。

 一応、未プレイの方でも全く判らないことがないようなるべく説明を交えつつ本文を書いてきたつもりですが、文章表現や説明が不足しておりましたら「この表現が解り辛い」「このネタが良く判らない」「なんでここでこのキャラがこんな行動取るのが判らない」等お聞かせ願えればと思います。今後の作品作りの糧にさせて頂きます。

 もし拙作を機にゲームの方に興味を持たれましたら、そちらは自信持ってお勧めできる名作ですので老若男女問わず一度は是非プレイしてみて欲しいと思っております。


 それでは、貴重なお時間をこの作品を読むのに充てて下さったことに、今一度感謝を申し上げます。ありがとうございました!



※2015/8/1の活動報告にて、「元ネタ解説集」なるものを投稿しました。宜しければ併せてご覧下さい。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/590758/blogkey/1207589/




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この小説の著作権は著者:TAM-TAMに帰属します。

無断での転載・翻訳は禁止させて頂きます。

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