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最終話 これからも続く時間

18日目は佐伯さんの妹様よりツイッターにて、触手ランドセル幼女のイラストをいただきました!

ありがとうごさいます!! 

 アヤメと籍をいれて、すぐに結婚式をあげた。

 一緒にいられる時間を大切にしたい。

 そう思って、会社は長期の休暇を取った。



「パパ、パパ!」

 仁葉が背伸びをして、手を広げてくる。

 甘えん坊というか、抱っこされるの好きみたいなんだよな。


 抱き上げて、それから頬を押しつけてみる。

 ひげがジョリジョリするよといいながら、仁葉は嬉しそうだ。


「仁葉はパパが大好きだな」

 俺と仁葉の様子を見ながら、アヤメが目を細める。

 最近、アヤメは自分で立てなくなってきたので車いすだ。

 今日は調子がよかったので、外へと出てみた。

 

 春の訪れを告げる空気と、爽やかな青空。

 絶好の散歩日和だ。

 公園には桜の花がいっぱい咲いていた。


 ちなみに、まことがアヤメの車いすを押してくれている。

 真とは、小学校近くの喫茶店で再会することができた。

 元々親がなく、喫茶店の手伝いをしながら施設で過ごしていたらしい。

 

 家族で遊園地にも行ったし、南の島へも行った。

 楽しいと思えることは、何でもしたいし、やってあげたいと思う。



 遊具の近くにきたところで、仁葉を降ろす。

 真と車いすを押す係を交換した。

 

「仁葉ちゃん、ブランコで遊ぼうか。押してあげる」

「うん!」

 気を利かせてくれたんだろう。

 真が仁葉の手を引いて、俺達から離れていく。


 アヤメの車いすをベンチの側によせ、そこで休むことにする。

 背もたれによりかかり桜を見上げれば、はらはらと白い花びらが降ってくるのが見えた。


 桜は満開だ。

 綺麗すぎて現実感がない。

 横を見れば、アヤメも桜を見上げていた。


 そっとアヤメの手を握る。

 触手じゃなくて、俺の手で。

 アヤメの手は冷たくて、俺の手のひらに収まるほど小さかった。


「アヤメ」

「ん? なんだ?」


 その横顔が桜の中に消えそうな気がして、ふと怖くなった。

 昔からアヤメがもっていた棘のようなものが、今はない。


 何もかも受け入れたような、落ち着いた雰囲気。

 それが逆に怖かった。

 

「好きだ。大好きだ」

「……最近の君はそればかりだな。好きという言葉は、そんなに気軽に言葉にするものでもないだろう」

 真顔で言えば、こほんと咳払いしてアヤメが言う。

 耳まで赤い照れた表情を、じっと見つめる。


「思ったときに言わないと、後で言っとけばよかったって思うだろ」

「……戸惑うんだ。こんなにも幸せでいいのかと。君にここまでの愛情をもらえるなんて、正直思っていなかったから」


 うつむいて、指先をいじりながらアヤメは言う。

 前よりも女らしい表情。

 それが俺のためのものだと思うと、やっぱり手を伸ばさずにはいられない。


 頬をなぞるようにして、髪を耳にかけてやる。

 潤んだ目で見てくるのが可愛いが、キスはしてやらない。


「それはさ、俺に期待してなかったってことか?」

「そういうわけじゃない。君がここまで私を好きだと思っていなかったんだ」

「つまり、俺の気持ちを見くびってたってことだろ?」


 アヤメは愛されることになれてない。

 自分なんかが好かれていいのかとか、俺の時間を使わせてしまっているとか。

 無意識なんだろうけど、そんなことを思っている気がしていた。


「嬉しいなら、喜んどけ。それで私も好きだって返して、甘えろ。全然足りない。今俺に何をしてほしい?」

 アヤメの唇を指先でいじりながら、答えを待つ。

 

「……君は、昔より意地悪になったな」

「まぁ、モンスターだらけの世界でたくましくなったからな。欲しいものは、自分で手に入れるっていう思考になったかもしれない」


 アヤメは少しむくれている。

 怒っているわけじゃなくて、照れくささを隠すポーズ。

 こういう子供っぽいことも、俺の前ではするようになった。


「その……キス、してほしい」

 恥ずかしそうに、アヤメが言う。

 アヤメの口からその言葉を言わせたことに満足して、ご褒美をあげる。


 幼い頃から側にいたのに、知らない面をどんどん見つける。

 時間は全然足りちゃいない。


 この一瞬も、空気も景色も記憶も何もかも。

 時を止めて、 閉じ込めてしまえる箱庭があればいいのにと――思うことがある。


「パパー! ママー!」

 仁葉の声ではっと我に返って、唇を離す。

 声のした方を見れば、真が苦笑いしながら仁葉の目をふさいでいた。


「お兄ちゃん、どうして目隠しするの? パパとママにお城見てもらわなきゃ!」

 どうやら仁葉と真は、砂でお城を作ったらしい。

 アヤメと顔を見合わせて笑う。


「どんなお城を作ったんだ?」

「パパにも見せてほしいな」


 アヤメと俺が言えば、仁葉がこっちだよと先導する。

 まるでぴょこぴょこと跳ねるウサギのように、元気いっぱいで落ち着きがない。


「あのね、真お兄ちゃんが王子様でね、仁葉がお城のお姫様なんだよ!」

「……へぇ?」


 楽しそうに仁葉は説明してくれる。

 思わず、低い声が出た。


 何度か仁葉と公園で、砂遊びをしたことがある。

 そのときは、俺が仁葉の王子様だったんだが……いつの間に真になったんだろうな?


「ぷっ……ははっ! 雄仁今からそれじゃあ、仁葉が嫁に行くときが大変だな」

 俺の考えていることがわかったらしい。

 アヤメが横で大爆笑している。


「嫁とかまだ先の話だからな! 仁葉を守れるくらい強くてたくましくて、機転が利いて優しい男じゃないとダメだ!」

「真はあの世界でうまく立ち回っていたし、とても働き者で賢い子だ。仁葉にも優しいし、細身に見えるが体力もある」


 焦る俺の前で、アヤメが真を褒めちぎる。

 いい子だというように、真の頭を撫でた。


「真が大人びて見えるから、歳が離れているように見えるが、実際は3つしか変わらないし丁度いい。それに仁葉は真が大好きだよな?」

「うん、真お兄ちゃん大好きだよ!!」

 煽るようにアヤメがいい、仁葉が惜しげもなく大好きだと口にする。

 

「真、仁葉は」

「大丈夫ですよ。妹としか思ってませんから」


 必死になれば、その様子に真までもが笑っていた。

 仁葉もよくわかってない様子で笑って、つられて俺も笑う。

 気づけば皆で笑っていた。



 いつか訪れる未来の幸せを思い描いて、笑う。

 高揚した気分のなか、ふとその未来にアヤメがいないと気づくと。

 胸は――やっぱり苦しくなる。


 でもきっと、振り返ったときに。

 こうやって過ごした今は、絶対に消えたりしない。


 ただ、だらだらと過ごしてきた二十数年よりも。

 今この時のほうが、ずっと価値があって、尊くて、愛おしい。

 それに気づけたことが、きっと俺の幸せだ。

 

「おい、雄仁?」

「パパ? どうしたの?」

「あれ、もしかして泣いてます……?」

 アヤメと仁葉、真をまとめてぎゅっと抱きしめる。

 

 モンスターはいなくても、苦しいことがいっぱいの自由で不自由な世界。

 この世界で、俺はこれからも生きていく。

 たとえアヤメがいなくなっても、ずっと。



「大好きだからな」

 気持ちを伝えれば、皆がそれぞれ返してくれる。


 大事なものが、うっかりすり抜けてしまわないように。

 辛いことから目を背けて、今を蔑ろにしないように。


 大切な人が大事にしたいと思うものを。

 自分の好きなものを、守りながら生きていこう。


 両腕の中にあるぬくもりを、しっかりと感じながら。

 そんなことを思った。


 本来はイラストをもらった数だけ、話数を続けていくつもりでしたがこれにて最終話です。すみません、4枚これば凄いよねと甘くみておりました。まさかこんなに描いていただけるとは思いませんでした。

 イラストをくれた方も、読んでくれた方も、本当にありがとうございました!!


★2017/02/20 誤字等を修正しました。内容に大きな変更はありません。

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