12日目 倉庫からの脱出
12日目はあいり様よりツイッターにて、触手ランドセル幼女のイラストをいただきました!
ありがとうございます!
触手って、空気必要ないんだな。
人間だったら、とっくに酸欠で死んでるぞ!!
いや、まぁそもそも。
人間なら瓶詰にされること自体ないんだけどな!
仁葉心配してるだろうな……。
地下だからか、光がなくて時間の経過がよくわからないけど。
たぶん今、丸一日以上経ってる気がする。
それにしても。
あのショタエルフ、偉そうだったな。
思い出したらムカムカとしてきた。
というか、気づいたことが1つあるんだが。
あのショタエルフ、アヤメのことをエルフだと思い込んでるみたいだったな。
アヤメは不定形って自分のこと言ってたけどなぁ。
そんなことを考えていたら、俺の体が振動し始めた。
内側から震えるこの感じ。
一体なんだろうと考えて、俺の体にしまってある端末だと気づく。
そっか、端末あったじゃん!!
これで助けを求めよう!!
体から取り出そうとして、気づく。
倉庫には一見誰もいないように見えるけど、研究員が潜んでいる可能性があるよな。
俺を捕まえて、アヤメをおびき出すことを諦めていないかもしれないし。
念には念をいれて、やっぱり電話は取らない方がいいよな。
せめてメールとかできたらなぁ。
そうだ、体の内側に意識を集中させればどうだろう。
端末を隠したまま、メール打てたりしないかな?
元々目がどこにあるかよくわかんない体だし、できる気がする。
そうと決まれば、まずは丸くなって触手をしまってと。
眠っているかのように装いつつ、体の内側に意識を集中させて……。
おっ、見える。
自分の体の中にある端末が見えるぞ!!
さっきの着信はアヤメからだったのか。
そして今は、2月14日の17時と。
丸1日以上経っちゃってるな。
昨日の夜はアヤメから電話なかったのに、この時間に電話か。
しかも俺、マナーモードに設定した覚えないんだけど。
……まぁ、いいや。
仁葉に心配しないでって電話したいけど、取り上げられてる可能性があるな。
俺が帰ってこないなら、電話してくるだろうし。
とりあえず、アヤメにメールを送ってみるか。
“機関に捕まったから、メールしかできない。どうしたらいいと思う?”
この文面で送ってみる。
すぐに返事がきた。
“やっぱりな。君の位置が学校から動かないから変だと思った”
端末の位置情報で、俺のことはお見通しらしい。
さすがというべきか、話が早い。
“仁葉がどうしてるかわかるか?”
“端末の反応からすると、局長と一緒だな”
仁葉が、あのショタエルフと!?
嫌なことされてないだろうな。
俺だけじゃ飽き足らず、仁葉にまで何かする気か。
“安心しろ。局長は仁葉に手を出さない。私に似ているからな”
信用できないと思っていたら、続けてメールが送られてきた。
“局長は私に惚れているんだ”
まぁ、なんとなくそんな気はしていた。
やっぱり面白くない。
“局長とはどういう関係だよ?”
“局長と研究員だ。それ以外の何物でもないぞ”
本当かよ。
それにしては、やけに慣れ慣れしい感じだったぞ。
そう書こうとしてやめる。
やきもち焼いてるみたいだしな。
“私が好きなのは君だけだからな”
触手を動かさないでいたら、ふいうちでそんなメールがくる。
悔しいことに、嬉しいと思ってしまった。
“ふーん、そうか。あいつお前をエルフだと思ってたみたいだけど”
“私はエルフのふりをしていたからな”
なんてことないふうを装って、尋ねてみる。
少し間があって、返事がきた。
研究所のトップは代々エルフで、エルフのほうが待遇がいい。
そのためアヤメは、エルフだと偽っていたらしい。
“本来の私は不定形。何にだってなれるが、それを知るのは君と仁葉だけだ”
なるほど、局長だけじゃなく、皆アヤメをエルフだと思っているのか。
だから、俺と一緒にいた咲子さんも捕らえられたんだな。
納得したところで、アヤメと脱出の相談をする。
囚われの身のまま、瓶詰の中で干からびるのはごめんだった。
◆◇◆
アヤメと話し合った結果、手下のモンスターを呼ぶことになった。
でも呼ぶのは、蜘蛛じゃない。
昨日テイストコピーで、俺の一部を取り込んだモンスターだ。
蜘蛛だと目立ちすぎるから、別のものをという話になった。
《助けにこい……助けにこい……》
この想いよ届けと、心の中で念じる。
フクロウのやつ、来てくれるかな。
不安なんだけど。
〈助けろ助けろって、うるさいぞ!!〉
呼びかけていたら、男の声が俺の頭の中に響いた。
いきなりのことに、思わずびくりと身を震わせる。
《俺の声が聞こえるのか!?》
〈さっきから助けろってうるさいんだよ! さては昼ごはんに食べたフクロウ……触手食ってたな!?〉
どうやら俺が呼び寄せたかったフクロウは、他のモンスターに食べられていたらしい。
しかも、意思疎通が可能なモンスターのようだ。
俺の触手、舐めたり食べたりすると意思疎通ができるんだっけ。
別に相手が近くにいなくてもいいんだな。
蜘蛛に遠くから指令飛ばせてたし、今更といえば今更なんだけど。
《俺、何もしてないのに捕まっちゃってさ。助けにきてくれないかな》
〈なんでオレが。面倒くさい! どこに捕まってるんだよ!〉
あれ、ダメ元でお願いしてみたけど来てくれるのかな?
もしかしたらいい人なのかもしれない。
《指定区域内の学校だよ》
〈あぁ、エルフ共の作った箱庭か。まぁ、頑張れ〉
ただの興味本位だったようだ。
なんだか「エルフ」という言葉に、馬鹿にしたニュアンスを感じた。
機関の人ではないのかもしれない。
《娘と引き離されて、地下の倉庫に入れられちゃったんだ。頼むよ》
反応はない。
しかたないな。
《助けがくるまで、ずっと叫ぶことにするか。助けて助けて助けて……》
〈あぁもう! うるさいわかったよ!! 行けばいいんだろ、行けば!!〉
泣き落としをすれば、彼が承諾してくれる。
俺の粘り勝ちだった。
◆◇◆
まだ名前も知らない彼が助けにきてくれると、信じることにして。
仁葉の方をどうにかしないとな。
保護を頼みたいんだけど……機関の人間は信用できないし。
悩んで、少年に依頼のメールを打つ。
喫茶店で好きなように助っ人を投入していい。
だから、仁葉を助け出してくれと破格の報酬でお願いすれば、少年は快く引き受けてくれた。
じっと瓶の中で、時を待つ。
しばらくすると、派手な破壊音が聞こえ、地面が揺れた。
えっ、ちょっと待って。
地震!? 天井が崩れてきたんだけど!!
バリバリとすさまじい音を立て、建物ががれきに変わる。
地下の天井があったところから、金色の巨大な目が見えた。
夕焼け色を背景にこちらをのぞき込んでいるのは――真っ赤な竜だ。
《見つけた。お前か》
竜は俺の入った瓶を見つけると、親指と人差し指の先でつまむ。
校舎を腕の一振りで破壊できそうな、巨大な竜がそこにいた。
彼が指先に力を込めただけで、俺の入っていた瓶は割れてしまう。
《それで娘はどこよ?》
《ち、近くの公園にいるようです》
思わずどもる。
かなりのド迫力だった。
蜘蛛だと目立つからと思ったのに、こっちの方が十分に目立ってしまっている。
下では機関の人と思われるエルフや触手が、慌てふためいていた。
竜は彼らの攻撃を無視して、公園へと向かう。
少年は、仁葉をちゃんと救い出してくれていた。
「パパ!」
《仁葉! 無事でよかった》
親子の再会もそこそこに、竜は少年ごと仁葉を拾い上げると翼を広げる。
《とりあえずこの区域から出るぞ。捕まっとけ》
そう言うが早いか、彼は空へと飛び立った。




