キープ
朝の通学中、いつものように露出ポイントを貯めるため、スカートを持ち上げていたら人に見つかってしまった。
「!!?」
見つかったのは、ピンクの髪をした正統派の美少女だった。
「む、虫がスカートの中に居たんだけど……気のせいだったのかな?」
わざとらしくスカートを払い歩き出すが、歩く先へと回りこみ少女は手を広げた。
『わざとらしい!でもそれがあざと可愛い 名無し』
「待って、ネトア!」
「……何ですか?」
名指しで呼ばれた。
最初は名前を呼ばれて驚いたが何のことはない事に気付いた。
生徒会長をしているんだし、学園に通う人なら俺の名前を知っていても不思議ではなかった。
俺は見た事無いんだけど……
「お願い、黙っていて頂戴……ネトア」
訳がわからない。
【露出していた事を】黙っていて【欲しかったら、何か金目の物を】頂戴
遠回しに脅されてるんだろうか、と思いながらも、少女が青ざめた顔で震えているので……。
「どうしようかなあ?」
何の事か解らないが、とりあえず余裕たっぷりに言ってみる事にした。
はわわわ、と顔色を変えて、頭を下げるピンク髪の少女。可愛らしい。さすがエロゲだ。全体的にレベルが高い。
「私、まだこの学園に居たいの。お願いネトア……」
ぐすぐすと涙を落とす少女に、悪いことをしているような気がしてきた。
「どうしたの?ネトア」
「のんびりしていると遅刻するよ」
クレアとラレアが通りかかった。
『ここで泣かせたな、と糾弾されて王子から婚約破棄されたり、国外追放されたりするんだよね。テンプレだよ カミカ』
『無いわ、そんなテンプレは無いわ…… 悪役令嬢』
クレアがじっとピンク髪の少女を見つめて、あれ?と声をあげた。
「ネトア、アロワお兄ちゃんじゃない?」
「アロワお兄ちゃん……?」
「ほら、一回生の頃の一年上だったアロワお兄ちゃん。伯爵家のアロワお兄ちゃんだよ」
クレアが、何で気づかないの?とクレアはもどかしそうに言う。じっとピンク髪の美少女を見る。
一緒に遊んでいたアロワの事を思い出そうとするが、普通に男だった気がするんだけど……。
「ねえ、クレア。アロワお兄ちゃんは女性だったっけ……?」
確かに、アロワはピンクの髪だったけど……。
「男だよ、ネトア。私達で、服を脱がせたじゃない」
「そんな事したっけ!?」
『そこは、よく解らん。もう一回脱いだ所を見れば解るかも、だろ ゼウス』
『黙れ…… 悪役令嬢』
「うん……。僕、男だよ。でも、料理人になりたくて。料理科は女性限定だから……」
女装して、女性限定の料理科に通っている、と……悲しそうに言うアロワ。
「何でばれてないの!?ありえないよね?ありえ……」
もう一度アロワを見る。目を潤ませたピンクの長髪、アロワはある意味女性よりも女性らしく。
ゲハゲハ言って大股で歩く女性よりも、より女性らしかった。
ぶっちぎって美人だった……。
「まあ、それはそれとして……。」
『男の娘! カミカ』
男の娘!じゃねーよ!お兄ちゃんって呼んでた奴が女装して通ってんだぞ、何でだよ、誰得だよ!
「それでも女性ばかりの科に潜り込むというのは、ダメだと思……」
「お願いします、ネトア様」
そういうアロワは、何というか可愛かった。この怯える表情、俺を様付けで呼ぶ所。
「何でもするから、お願いネトア様」
俺を誘っているんだろうか。
「よし、採用だ。今日から君は私のメイドだ。優秀なパタンナーを探してたんだ」
鷹揚に服飾のお嬢様っぽく言ってみる。
「ネトアは何を言ってるの?」
アロワに素で返された。悲しい……。
『言ってみたかったという気持ちは解るが、虹の言葉を惨事で出すのは痛い行動 カラス』
『うるさい黙れ! 悪役令嬢』
もう一度、アロワを見る。伯爵家、ぱっと見美少女、俺の幼馴染。
「あ、あの……ネトア?」
じっと見つめていると、アロワは目を逸らす。どことなく、頬が赤い気がする。
『これ、フラグ立ってね? 悪役令嬢』
『男の娘と絡むぱっと見百合ゲな展開だねっ カミカ』
「ダメだろう、このまま、女子生徒に男を紛れこませるのはいけないと思う」
ラレアが顔を顰めて言った。
「アロワお兄ちゃんは料理のお勉強をしたいんでしょう?ネトア、黙っていてあげようよ」
クレアがアロワを庇う発言をする。
生徒会の多数決は、真っ二つに分かれた。まあ二人しかいないんだけど。
「で、どうするの?」
クレアに促され、俺は少し考えた後、アロワの不安そうな仕草にくすぐられ……決断をする。
「キープ、見なかった事にしよう。私は気付かなかった」
賛成していないからもしもの時は責任を取らないが、あえて敵を作ろうとはしない。
そんな玉虫色な意見を出した後、クレアとラレアの責めるような視線を遮るように俺は歩き始めた。
『陵辱展開よりはマシだけど、第一希望は百合ゲって事だね カミカ』
『同時攻略して、最後の選択肢でロードするのは軟弱者だ 名無し』
『いいじゃん……効率的で 悪役令嬢』