第9話:お願いと美味い話
ガリガリと頭を掻いて、俺は苛立たしげに息を吐く。
「分かったっ! 分かったよ。行きますよ。行けばいいんだろ。救ってくるよ。だから、さっさと生き返らせてくれ。あと、寿命も元に戻してくれ」
「あ、そういう言い方します? 折角、私達はU沢さんの為を思って提案しているのに?」
「本当に生き返る気、あるんですか?」
こっ、の野郎共。
俺は必死に怒りを堪えた。これ、絶対にこめかみに青筋浮かんでいるやつだわ。
「わ、分かりました。すみません。ご提案、有り難うございます。精一杯頑張らせて頂きます」
精一杯に、笑顔を浮かべる。
「ええ、ご理解頂けて、私達も嬉しいです」
「頑張って下さいね。U沢さん。私達も応援してますから」
一変して爽やかな笑顔を浮かべてくる死神二人。ここでこんなにもイイ笑顔浮かべられるのが、本気で恐いよこの子ら。
「ただ、ちょっとお願いがあるんだけど?」
「お願いですか?」
首を傾げる白花那姫神に、俺は頷いた。
「ああ、今度の転生先について何だけど。また、世界観的には中世ヨーロッパ風味な。剣と魔法のファンタジーな世界っていう認識でいいの?」
「ええ、そういう感じになりますね」
「それで、魔王を倒せばこっちに戻って、生き返らせて貰えると? 寿命も元通りで」
「はい、その通りです」
俺は唸った。
「あのさ? それなんだけど、今度は召喚先の世界の人達に、俺のスキルについては黙っておいて貰えない? 突然あんな事言われたら、そりゃ相手も警戒するし。かといって、それで殺されかかっちゃ堪んないしさ」
「それも確かにその通りですね。今回は、秘密裏に潜入して、正体を隠して魔王を討伐しに行ってますみたいな感じでいきましょうか?」
「うん、それがいいと思う。あとさ?」
「何でしょうか?」
「前に、そこの高美蔓姫神さんにも言ったんだけどね? 連絡とかのときはちゃんと話をさせて? マジで人との会話が減ると、その分精神的にも削られていくから」
ネットで動画見たり、ゲームで遊んだり出来れば、まだもう少し違うのかもだが。
あれはマジで堪える。
一人暮らしで交流も無く、趣味を持たないご老人が、あっという間に痴呆が進行する理由が分かる気がした。
「そうですね。その節は、本当にご迷惑をお掛けしました。高美蔓姫神先輩からもキツくお叱りを頂戴しました。今度は、私からも小まめに様子を伺わせて頂きます」
「分かってくれればいい」
「また、飢えたU沢さんに先輩を襲わせるわけにはいきませんし?」
「そこは、蒸し返すなっ!」
何でこう、こいつら一言多いんだよと。
「あら? でも今度は人肌に飢える心配も無いかも知れませんよ?」
そう言って高美蔓姫神は自身の頬に手を当て、妖艶な笑みを浮かべた。
「どういう意味だよ?」
高美蔓姫神が、口の前に手を当て「ここだけの話」みたいな仕草をしてくる。
「今度の異世界にはですね? 何と、女性型の魔物もいるんですよ?」
「はあ。だから何だと?」
何が言いたいのかと。俺は首を傾げた。
「んもぅ。とぼけちゃってえ。つまりは、サキュバスとか、セイレーンとか人魚とかいたりする訳なんですよ。しかも、そういうのが人間を襲っている訳です」
俺は、押し黙った。
こいつの言いたいこと、分かってしまった。分かってしまうのが悲しい。
「根が真面目で誠実なU沢さんは、スキルを悪用して罪もない一般人を襲うような外道な真似が出来ないって事はよく分かってます。けど、魔物相手なら?」
ごくりと、俺は喉が鳴るのを自覚した。
サキュバス。サキュバスかあ。いや、うん。正直嫌いじゃないよ。いやむしろ好き。
「勿論、ナニしても全然問題ありませんよ? 異世界の世界の秩序を乱すわけじゃないですから、罰則とかの対象外です」
「あ、そ、そう? そうなんだ。ふ~ん?」
おかしい。何か上手く声が出ない。
別に、期待しているとかそんなんじゃないけどっ!?
「で、でも所詮は魔物だろ? 見た目もどうせ、ブスに決まってんじゃん?」
そうそう、何をどう言おうが相手は魔物なのだ。
あまり、人間的に近い見た目とか期待してはいけない。いや、だから期待なんてしてないけどっ!?
「あ、参考資料がありますよU沢さん」
そう言って、白花那姫神はスマホをこちらに向けてきた。俺はその盤面を覗き込む。
「あちらの世界で暴れているサキュバスを一体、撮影したものなんですけど」
無言。
いや、これ無言になるしかないやろ。
スマホには女の上半身が映し出されていたのだが。
頭に二本の角が生えてる。耳は長く尖ってる。肌の色は灰色っぽい。うん、これだけで普通の人間じゃ無いことは分かる。
それでも、美人。なんつーか美人。ちょっとキツめで性格悪そうな感じだけど、それがかえって男の嗜虐心を煽りそうな。と、同時に被虐趣味のある男にしてみれば、思わず女王様とか呼んじゃいたくなるんじゃないかっていう顔立ち。輝くような金髪。
でもって。おっぱいが大きいっ! もう一度言おう。おっぱいが大きいっ! しかも奇乳レベルの大きさではなく、均整の取れた美しいお椀型。もうこれ、芸術作品? 俺、今までこんなに綺麗なおっぱい見たことねえよっていうレベルの高レベルおっぱいだった。 もうほとんど紐だろっていうマイクロビキニで乳首が隠されているのが、かえっていやらしい。
「どうですか? 参考になりました?」
顔を上げると、死神の二人は物凄いドヤ顔をこっちに向けていた。
く、悔しいっ! でもっ! うん。って頷いちゃう。




