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転生ライフオンライン〜ネタ枠種族の『ハードエルフ』はチュートリアルからハードモード。  作者: 末廣刈 冨士一
第四章 急転直下なチュートリアル
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第41話 出し尽くしたチュートリアル。


ちと長いです


 視界が紅く染まっていく。


 元々不気味だった『異世界の森風景』が更にと禍々しさを増して見えた。

 紅くなった視界により変じた色合いだけが原因ではない。樹々の形までもが歪んで見える。


 これは…身体の震え…痙攣?によるものだろうか。視界がガクガクとブレて…それで歪んで見えているようだった。


 なのに映る景色の鮮明度は増していく。よく分からない現象だ。実際に視力が良くなっているのかもしれない。


 目だけではない。肉体の全てが作り変えられていく。今や一本しかないこの手を見れてみば、それが良くわかる。


 手が縦長に伸びていく。手の平が分厚さを増し、メキメキと気持ちの悪い音を立てて伸びていく、指もそうだ。全ての関節の間が伸びていく。太さも増しているようだが伸びた分、それはわかりにくい変化だった。どうやら伸び切ったらしい指の先…見る間に爪がバリッと剥がれて落ちた。その代替えとして…は大袈裟過ぎる赤黒い爪が現れ、肉と血を絡ませ生え伸びていく。


「イギッグウゥゥゥゥゥ、…パゴオおッゴバアアアアアア!」


 何者かの、身の毛もよだつ絶叫が至近から聞こえてきた。絶叫なんてもんじゃない。これはきっと臓腑の底から伝播した激痛にのたうつ時に、全身が発する『音』に違いない。


 その『音』は、


 皮が裂け、裂けた箇所からブルンと肉が盛り上がってはみ出す度に響いて聞こえた。

 そのはみ出した肉がなおも膨張をやめずバツンと自ら弾け割れる度に響いて聞こえた。

 その惨状を覆い隠すべく裂けた皮膚が再生しても、それをまた膨張する肉が裂き直す。それが繰り返される度に響いて聞こえた。


 そんな『肉の暴走』に耐えられなくなった骨がボキボキと砕け怖気が走る度に響いて聞こえた。

 これもまた砕ける度に繋がり合って太さと長さを調整した。調整しては気に入らないのか何度も滅びと再生を繰り返した。その度にやはりあの『音』が響いて聞こえる。


 その『音』が響く度に脳の血管がブチブチと千切れ飛んでいくような頭痛に苛まれる。

 もういい加減に止めろと叫んだつもりが声にならなかった。

 あの『音』だけが耳に届く。聞こえる度に肺が痛み喉の奥が裂けたように痛ん……


 ……いや、これはどうやらやはり『音』じゃない。『声』だ。それも、俺の声らしい。このおぞましい肉体の変質を見れば納得もいく。気付いてみれば…そうか。この痛みも俺のものなのか。


 ?


 何故痛みを感じているのにそれを他人事として処理しているのだろう俺は。矛盾過ぎる感覚だ──戸惑い──だが苦痛ら(・)し(・)き(・)コレは終わらない。肉と骨と皮の変質は終わらない。大改造はまだ途中……。


 メリメリと口内で歯が揃って伸びゆくのが分かる。

 どんな形に生え伸びたのかと舌でまさぐってみればやたら鋭利に尖っている。これは牙だ。歯は牙に変じていた。

 というかそれを確かめているこの舌自体、分厚く太く長くなっていた。

 それら質量を増した口内に押し出されるようにして顎の形状が変わっていく。上顎も、下顎もだ。

 口腔内部及び外部の拡張により口角の肉と皮膚がバツンと音を立て裂ける感触。それに慄いていると…。

 今度は額。それを包む皮膚を割り裂いて何かが生えのびていくのを感じた。角?触角?見えないし、こんな現象経験なんてあるはずがない。なので生え伸びたそれが結局何であるのかは分からなかった。とにかく何かが生え伸びたのは分かった。


 『変異』はまだ終わらない。


 視界は更に紅さを増して…いや赤黒い何かが視界にかぶさっている。これは…


「アアアアアアオオオオォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 この赤黒い蒸気…これはどうやら俺が吐いた息?…であるらしい。

 のど奥から張り裂けそうな痛みを感じる度、口腔内の尋常じゃない震えを感じる度、聞こえてくるこの絶叫の尺に比例してこの赤黒い霞は濃度を増しているようだったから多分そうだ。


 このようにして視覚は『紅黒』に支配された。嗅覚は『血臭』により支配されている。味覚はやはりの『血の味』に支配されていて、触覚は言わずもがな、依然として『苦痛』に支配されている。そしてやはり聴覚は『絶叫』に支配され…


「あは。」


 いや、もう一つ…。今、聞こえた。絶叫とは違う音。声。


「あははは。」


 俺以外の何者かが発する声だ。こんな風に笑う余裕は今の俺には無い。


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」


 狂ったような笑い。まだ聞こえる。これは……ああ、どうやらこれは目の前にいる細目の男が放ったものであるようだ。


「良かった…」


 そうか。良かったのか。それは良かったな。…ん?何が、良かった?


「ああ良かったぁっ!……したっスね!ジンさん!『魔人化』、したっスねジンさん!?これはとんでもなく見込み有りっス!流石はネースとピノエラの息子!流石はエルフとドワーフのハーフ!」


 俺の事を言ってるのか?誰だっけコイツ…。


「流石は生まれついてのイレギュラー!レベル2にしてこの領域にまで辿りつく異例の異常さ!こんなのほっとける訳ないっスよ!ああ…ホントにっ!ゾクゾクする…っ……ようやく、ようやくここまで……っ!………というか『精霊化』しなくてホントに良かったっス」


 何がそんなに嬉しいんだ。


 さっきから何を言ってんのか全然わからな…つか、『ハーフ』エルフとドワーフのハーフだからな俺は。だからの『ハードエルフ』で……そうだよ。父さんはハーフエルフで、確か母さんがドワーフで…ん?父さん?母さん?…どんな人だっけ…てゆうかコイツ誰だっけ?お前誰だよ?なんて憎たらしく笑うんだよコイツは。お前…ホントに誰だよ?


 どんだけ憎たらしい顔で笑っているのか……かなり気になるので凝視してやりたい所だけどこの視界は、中々定まってくれない。 

 視線の運びからは男への憎悪があるように感じられるのだが、今はそれどころではないらしい。何かを探しているのだろう。


 ……ん?


 アレを探してるんじゃないか?

 ほらさっき視界の隅に映っていたぞ?

 ちゃんと見ろ…そう。アレ。

 アレ…お前の腕じゃないのk……あ。


 アレ、あの腕。俺の腕だ。ずっと育ててきた俺の腕だ。俺と一緒に育ってきた俺の腕だ。なんであんなところに…

 ああ、そうか、俺か。この化け物って俺なのか。そりゃそうか五感そっくり共有してて俺じゃないとか思うのが異常か。


 ほら早くあの腕拾えよ『俺』。ちゃんと拾えルか、見守っててヤルから───俺が消えルまデ。


  …! ああそウだッた。


 オれ、もうスグ消えルンだっタ。


 ほら、ダ から、さっサと拾エ。


 ォ れは、も、うす、グ 消エ るんだカ羅。


   そのマえに…

 

 

「ああ…そうはいかないっスよジンさん」


 ジ ん? 誰ダそれ?あ、………オレ、か?


「そうそうまだ留まって貰わなきゃ。消滅しちゃ駄目っス」


 あ?だ、ダカら、ダ、誰だよお前。そそ、その細目を見てるとイラッとするなぁぁまあいいや今お前が持ってるそれ俺の…なんだっけ…ああそうだそれ俺の腕だぞ?だから返…


 コアァ!ボッ!ゴオオおお……


 オイオイ何してんだ火をつけてなにをするつもりだよ俺の腕だってそれ…え?なんで返してくれないんだコイツ、というより何で俺の腕燃してんだコイツ。パチパチと音立てて燃え盛ってよく燃えるなあ俺の腕…つか燃えていいのか俺の腕なんだよ元に戻せよちゃんと弁償しろよなそれ俺の腕なんだから。

 あ〜あ〜なんだよ黒焦げになってんじゃん俺の腕これじゃあもう再生も出来ないしお前だって弁償出来なくなっ…オイどうすんだよ俺の腕もう戻らないぞさすがにそんなのいいのかよ俺の腕俺の腕俺の俺の俺の腕俺の腕腕腕良いわけねえ俺の腕お前オイお前誰だっけこんな酷いことをするお前は誰だっけ許せないと思ってた確かにでも誰だっけ誰だっけこの細目コイツどうしてオレの腕を…どうしてくれようコイツどうしてやろうどうしたらいい ─そんなの決まってるっ……コロスっそうだころす殺す殺す殺した後でちゃんと殺す殺す殺す殺す前にも殺す殺す殺す!殺す!!思い出せそうだソウダコイツは…




「そうそう許しちゃ駄目っス。まだ消えちゃ駄目っスよ。」




 ──こいつはクラフ…「ッッガアアあァアア!!!」







 そこからは一方的だった。


 俺の脚は恐ろしく強化されていた。踏み込めば地表を大きくめくり上げ、それでは足らずと衝撃波を巻き起こし背後を雑に破壊しておいて、それを単なる『一歩』とした。


 俺の爪は切り裂いた。えぐった。大樹を。大樹の硬さも重厚さも感じることはなかった。いとも容易く切り裂いてえぐることが出来た。


 俺の拳は大地を割った。その衝撃は一層下にある巨岩にさえ伝わり砕いて散らせた。それら飛び交う残骸の全てを俺の尻尾(?)は薙いで払って弾き飛ばして弾丸に変えた。


 駄目押しにとブレス(?)までも吐いていた。どうやって吐き出したのか分からないがその焔に触れたものは全て宙空から地に落ちきる前に塵芥となって風にさらわれ消えた。我ながら頼もしい限りだった。それら破壊の技の全てを…




「あはははははははははは!」




 クラフトは避けた。


 どれほどに速度を速めてもどれほどの重さを乗せてもどれほどに回転を上げても、俺の攻撃はクラフトを素通りした。しかもクラフトは避けた上で全ての攻撃にカウンターを被せてきた。しかも、素手で。


 俺が攻撃を繰り出すたびに、それに倍する速さと重さと量の攻撃が降り注いでくる。殴られ。蹴られ。投げられ。焼かれ。凍らされる。それでも『俺』はやめない。攻撃をやめない。クラフトを殺すことをやめない。諦めない。諦められない。殺す。殺さなくては。



 クラフトを殺す。



 必ず殺すっ!



 絶対に殺すっ!



 そうだ…



 この世界に転生(ダイブ)して今まで…そうだ!乗り越えられなかった試練はなかった!だから!


 この世界に転生(ダイブ)して今まで!やると決めてやれなかった事などなかった!だから!そう、だから、殺せるはずなんだ!


 そうだよ!出来る筈なんだよ俺!頑張ってきたんだよ俺は!ここはゲームの世界だけどっ!そんなの知ってたけど!それを知ってて!これがどんだけ今更な努力かって知ってて!現実の世界では誰からも評価されない、全く無意味な努力だって分かってて!それでも俺は…


【ジン】


 それ、でもっ!今度こそってっ!やり遂げたいって!何か一つでもいい!見出したいって!やり直すキッカケが、見つかるかもって!こんだけリアルで厳しい世界で頑張れたなら!こんな俺でもって!


【ジン…ジン!】


 父さんが厳しかったよ母さんは不思議ちゃんだし師匠はエロいしで困りもんだったよ。

 村の人は憎らしかったな。色々と酷い目にもあったよ。ゴブちゃんは手強いし狼くんはその上しつこいし課せられた運命はどれもえげつなくてどれもこれも理解不能でそれでも……っ


【ジン!頑張れ…!】


 それでもみんな!今では大好きになれた!バッドみたいなヤツまで愛おしく思えるようになったんだ!ボンズの痛みを測り知ることも出来たんだ!そしたら一周回って自分の醜さだって、やっと気付けくことが出来て…やっと理解出来て…っ!


【…!…ジン!ジン!!頑張れ!頑張れえっ!】


 …俺、俺、俺…成長っ……なあ?俺、成長出来た…そうだろう?


 出来た筈なんだよこれはゲームだけどここはゲームの世界なんだけどそんなこと知ってるけど…でも、俺、頑張ったし、これからも頑張るしっ!!俺、頑張るからっ!もっと頑張るからっ!もっともっと頑張れるからっ!だから…っ!


【ああ、あああ…ジン、ジン、頑張れ頑張って!ジン…!


 なのに、なのに…なんで…なんでだよ…なんでだよおお! 


【…ジン……………うわあああ!クソ…っくそおお!クラフトおお!死ねよ!お前!早く死んでくれよ!死ねよおおおおお!】


 そうだよ…死んでくれよお……殺されてくれよお…っ!なんでなんだよ…なんでこんな…あんまりじゃないか……酷えよおぉ…全部、全部だよ…全部出し切ったじゃんか…それに、たくさん…沢山、沢山っ!なあ!?俺、沢山、なくしたじゃんか…なあ??


【ジ…】


 【称号】も!『四元魔力の理論』も!【スキル】の全部も!『狂戦士化』も!『【魔脳】の暴走』も!今まで数え切れないほど重ねてきた戦闘経験も!みんなへの想いも!【バッド】だって力を貸してくれて、スキップなんて裏ワザ使ったんだぜ?その上、こんな……こんな化け物になってまで…全部だよ…ありったけの全部を注いでんだよ俺…なのに…なんで…


 どうして…どうしたら…こんな…



「あはははあははははははははははは!」



 どうしても…届かない…なんて…なんでこんな…こんな、馬鹿なことっ、あるかよ…こん な、ムゴいこと…


【ジン…っ?】


 ああ…


【ジン!しっかり…っ!】


 やっぱ、俺は…


【ジンっ!】


 …そ(・)う(・)なのか?


【ジン!違うっ!それは違う!ジンっ!ジ…】


 …やっぱ…


【ジン…っ!】


 …駄目なのか?


【ジン…っ違うよっ!ジンは…っ】


 …俺…俺は……ボ クは…『僕』 なんかが…


【駄目!ジン!駄目だよ!ジン!あ…ああ…っ】


 『僕』なんて…


【ああ…ジン…ジン………っ】




 『僕』はやっぱり…結局の、







「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」







 ───負け犬───










 ああ…






  『もう、諦めた…』





 そう、思ってしまった…。




 思ってしまったその時には、僕は地べたに這いつくばっていた。


 これは…何という象徴的な姿勢であることか。膝を付いて、腰を浮かし、頭を地面に擦りつけていて…これではまるで、土下座だ。

 誰かがいる。背後に。誰かが、僕の首根っこを掴み、僕の頭を地面に押さえつけて、この惨め極まりない姿勢を強いているのが分かった。でも抵抗は出来ない。


 何故抵抗しないのだろう………


 自然と視界に映るのは…この腕……ああ、『僕本来の腕』、だ。化け物然としたあの禍々しいカタチではもうなくなってるこれは、僕の腕だ。これこそ僕の腕だ。


 その腕に神経を這わす。動かそうとする。でも指先一つ動かせない。身体全体がそうだ。動けない。これは押さえつけられているからでも、ましてやボンズにかけられた催眠術の効果が残ってのことでないのは分かっている。


 精も根も…『魔力も』尽き果ててこうなっているのだ…。


(本当に…そう か?)


 さっき、僕は【人外化】を制御出来なくなり正真正銘の化け物に変貌した。


 あの形態は魔力を相当に消耗するらしく、魔力の生産スピードがそれについていけなったんだろう。そのせいで、ただでさえ常日頃異常な程の負荷を強いていた僕の魔炉は、遂に限界を迎えた。


 どうやら僕の魔炉はオーバーヒート現象に直面してそのまま自壊してしまうくらいならと、緊急停止することを選んだらしい。


 これは、『魔力枯渇』と呼ばれる症状とはまた違う。


 気絶だけでは済まない。『魔素を魔力に変換し、無毒化する』という、魔炉本来の機能までが停止してしまった、非常に危険な状態だ。それが解る。


 つまり魔素という、人体にとって有害な物質に僕は今、晒されていて…

 しかも、魔力が供給されていないもんだから【スキル】だって使えず、なのでそのパッシブ効果も途絶えてしまっている状態だ。


 完全なる生身。無防備。無力。


 勝敗は決した。完全にだ。


 殺されようと、殺されまいと関係ない。

 僕を待っているのは魔素中毒による確実なる死。

 そう、僕は『負けたんだ』と悟った。

 完膚なきまでに。

 正々堂々と真正面から叩き潰された。

 身の程を知らされた。

 なんとも言いようがない。

 表現が見つからない…。


 この徒労感。喪失感。


 …………全放棄。


 自暴自棄すら出来ない、深い深い底で感じる無力感。

 すなわちゼロ。


 わかり易く言えば絶望。


 そんな風にして僕が大人しくなったのを認めると、クラフトは僕の首筋から手を離した。


 呆気なくもそのまま去っていった。

 僕に一言も、一瞥もくれる事なく、

 鼻唄なんて混じらせて

 クラフトは、この場を後にした。


 僕は放置された。


 放置された僕はただ見ていた。


 騎士(仮)達の残骸の中に埋もれて見えなかったけど、

 運良く生き延びていたらしいザンダハの襟首を掴んだクラフトがそのまま引き摺り連れ去っていくのを。


 僕は黙ってそれを見送った。


 彼らがいなくなった後も僕は、ポツンと倒れ伏したまま、惨めな土下座の姿勢のまま、ただ震えていた。


 そう。【スキル】が停止したままなのだから、僕は今、現実世界の僕と姿形以外は何ら変わらない『僕』でしかない。

 貧相で、情けないあの『負け犬』と何ら変わらない…生身の存在になってしまっていた。


 だから震えている。


 いつも頼りにしていた【精神耐性】も今は休止状態。


 だから震えている。


 そう、僕が震えているのは完全に『恐怖』によるもので、それは今の特殊な状況がそうさせているのだと、思っていた。


 許せないと思っていたアイツラをただ見送った。

 必ず仇を討つと誓っていたのに。

 なのに僕は、アイツラを、息を殺して見送った。


 みんなの仇を必ず討つと誓っておいて。

 それが出来ない不甲斐なさも忘れて。

 自分の片腕までもぎ取られて。

 その上でコテンパンにのされて。

 いい所など全く無しなまま。

 それを反省する事すら忘れて


 恐怖して、見送った。

 

 それしか出来なかった。


 出来ないまま…… 


 どれ位の時間が経ったのだろう…

 いつの間にか、停止したはずの魔炉が活動を再開していた。

 僕は魔素中毒による死から逃れることが出来たようだった。

 なのに、喜びも安堵もない。

 結局クラフトは何を企んでいたのか?

 それも全く分からないままだ。

 なのに、モヤモヤする事すらなく


 今もまだ僕は『動かない』を続けている。


 魔炉が回復したなら【スキル】も復旧したはず。【精神耐性】も復旧したはず。


 それでも僕は動けなかった。


 【精神耐性】を始めとする、僕が頼りとするスキル達が復活しても、僕は 恐怖したままだった。


 恐怖に縛られ動けないまま。


 へっぴり腰の土下座姿勢を崩すことすら出来ないまま。


 決定的に刻まれてしまった。敗北感』を。


 ベッタリとはりついて拭い切れない。『恐怖』が。


 それをただ呆然として見つめることしか出来ない。


 だから。


「バッド……」


 もう、僕はこう言うしかなかった。


【………うん…ジン、大丈…「バッド…スキップ」】


 白状した。逃避したいと。


【ジン…でも「頼むよバッド」】


【じ、じゃあスキップするならいつまで「頼むから!」】


「頼むよ……」 


 報告できる戦果は皆無。


 僕は、敗北して、消えない恐怖を刻まれて、


 そして、これから逃げるつもりだ。


 父さん。母さん。村のみんな。

 思い浮かばなかった。

 ゴメンナサイ…… 

 それすら思えないまま。


 全部から目を逸らして


【分かったよ…ジン。… … …スキップ…。】


 受け入れ難くなってしまった全てから…

 目の前にある全ての現実から…


 僕は


 また逃げ出してしまった。

 


明日も投稿できそうです♪

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