第41話の前に…NPC達の平行線。 〜ロンプフェーダとカウントーの場合。
投稿、一日遅れました(汗)
しかも唐突に新キャラ登場回です(汗)
あと、最近文字数気にしてなくてゴメンナサイm(_ _;)m
「………………………ここは…スピリの村…で、合ってますよね。ロンプフェーダさん…。」
と、呆然として呟いたのは冒険者風の男。
魔力強化やスキル付与などがふんだんに施された装備を見ればこの男が上級以上の冒険者であることは誰の目にも一目瞭然である。そんな剛の者ですら、対処として呆然とするしかない…そんな風景が彼らの目の前には広がっていた。
「…………………ええ。そのようですね。カウントーさん。」
ロンプフェーダと呼ばれたのは商人風の男。
ただただ重い声で答えるのであった。熟練の冒険者であるカウントーとは対照的に線の細い商人風であるその男の回答はやはり対照的で落ちつき払ったもの。
だが、目の前にある風景を見て動揺しないのは不自然だ。
『まるで、予め知っていたかのようだ』と感じると同時に『まあいつもの事か。』と思い直しつつカウントーはこの、何かと自分を指名してくれる依頼主に判断を仰いだ。
「今回も訳知りなようでロンプフェーダさんは。早速教えてくれますか?これってどういう状況なんですか?」
一見すればこの何の変哲もない商人風の男が並々ならぬ胆力の持ち主であり、異質なほど博識で、意味不明なほどの情報通であることをすでに心得ているカウントーであるので、わざわざ自分で考えるような事はしない。
それはそれで怠慢として人の目には映るのかも知れない。だが、『これも一つの信頼頼係だと俺は思うんだ。』と泣く泣く割り切るカウントーなのであった。
「…あのねカウントーさん。あなた私の護衛として今ここに居る訳ですよね?であるならこういう不測かつ不穏な事態で『どう対応するべきか』を進言してみたりするのも、あなたの役目でもあるのでは?なんて私は思ってみたりするのですが?」
無駄と知りつつ嗜めてみるロンプフェーダなのであったが
「はい。だから無駄なやり取りはやめましょう。ロンプフェーダさん。この俺の『特級冒険者の嗅覚』が判断したのです。『あなたに聞くのが最速かつ最適であるのだ』と。ああ、こんな愚鈍な俺にも一つだけなら分っていることがあります。
あなたがこんな辺境まで来たのはあの坊やが関連しているのでしょう?何でも、将来あなたが発行するつもりの『偉人伝』に名を連ねるであろう神童くんで、名前は確か…」
「…ジン君ですね。幾つか訂正しておきましょう。偉人伝を出版する予定は確かにありましたけどその偉人伝には彼が打ち立てるであろう偉業以外に盛り込むつもりはありません…いえ。ありませんでした………偉人伝の出版は今、この瞬間をもって断念します。」
「え?あの神童君はやはり…死んだのですか?」
カウントーはロンプフェーダの言葉を疑うということをしない。奇妙奇天烈な依頼ばかりをする依頼主で、勿論、商人であるのだから嘘だってつくロンプフェーダである。しかし、嘘をつく必要がない時に彼が言う言葉には、無視出来ないモノがあるのだ。
『この人が言ったことは全て実現してしまう。』
それがカウントーが思うこの商人の印象であり、彼と出逢ってから今までを思えば、それは今でも事実であり続けている。
それでも聞き返してしまった。あの少年がそんな簡単に死んでしまうとは考えにくい。だが……
「…いえ、スミマセン。…死んだ…のでしょうね……。」
今目の前に広がっている風景を見れば一目瞭然というものだった。きっとあの、ジンという名の少年は死んでしまったのだろう。
カウントーは目の前に広がる、『スピリの村であったのであろう更地』を見やりながら、4年前のある日を思い出していた。
カウントーはその、『ジン』という名の少年に会ったことがある。このロンプフェーダによる調査依頼でこの村を訪ねたことがあったのだ。その時に出会った。必然として。
妙な依頼だった。いや、このロンプフェーダの依頼で妙でなかったことの方が少ないのだが。
何の調査依頼だったかというと『スピリの村で一番目立つ子供が誰で、どんな子供だったかを調査して欲しい』というものだった。
奇妙な依頼であるのは毎度のことだったのだが、馴れているはずのカントーから見てもアレは特に異質な依頼だった。なのでよく覚えている。
『相変わらずだよなロンプフェーダの旦那も。……今回もまた珍妙な依頼をよこしてくれたもんだ………つってもまあ、これまた報酬がべらぼーにいいんだから断れない。』
そんな風にぼやきながらのんびり単独で魔物や盗賊を滅ぼして回るという非凡な道程の末、スピリの村に辿り着いたカウントーは、とりあえずの初動として情報収集をしてみた……のだが。
村人達は一人目から『ああジンに用なのかい?』と逆に聞いてきた。
そこからはどの村人に聞いても、『目立つ子供と言えばジン以外に思いつかない』…もしくは『おいてめえ、その子供に何の用だ?』…というような、明らかに特定の誰かを庇っているような回答しか返ってこなかった。
戦闘能力だけでなく、精神的な部分で冒険者的資質が特に高いカウントーとしては、俄然興味を覚えたものだ。
そして実際に『ジン』に会った時は後悔した。
第一印象が酷すぎたのだ。
(あ。負ける俺。戦ったら絶対負ける。)
自分はこの子供には勝てない。確信に近くそう思ってしまったのだ。
当時既に上級冒険者としてクランを構えていた自分がだ。いや、上級だからこそ分ってしまった。
軌道に乗れば実入りはいいが、冒険者という稼業では彼我の実力差を測れない人間は簡単に死んでしまえる…。
やたらとちんちくりんに見える不相応なサイズの、やたら臭い装備を着用して、剣を振り回しながらそのやたら美しい水色の髪をなびかせて走り、やたら愛苦しい顔は息一つ乱していない…どの角度から見てもチグハグな印象しか見受けられない、そんな少年を見て『勝てない』と思ってしまった。しかも当時の彼は11歳だった。
不意に突きつけられたその敗北感に反発するように、唐突に湧き立ったのはその少年への不信感。それは不快感になり、忌避感になり、やがては嫌悪感にまでなっていた。
鮮明に覚えている。自身の中で急激に成長していくそれら負の感情を。そしてそんなものをどう処理したらよいものなのかと、深く混乱してしまった事も。
だから『もういい。このまま調査続行だ』となし崩し的に会話を持ちかけてみればさらなる衝撃を受けた。少年はこう言ったのだ。
『あの…僕のこと…嫌ってましたよね?なのになんで急に話しかけ……あ、あ、スミマセン…っえと、気にしないで。馴れて……ああだから!別に…うん。僕は怒ってないから。…てアレ?……何を言いたいんだ僕は…』
不意打ち過ぎる対応だった。勿論激しく動揺したし、恥ずかしくもあった。
20代も半ばを過ぎたいい大人が、何の罪もない少年を何の理由もなく一方的に嫌っただけでなく、内に渦巻くそのゲスな感情までも気付かれてしまったのだから。その上で気まで遣わせてしまうとは…もう、完敗だった。
一握でペースを握られた。こんなことはロンプフェーダと初めて会って以来の経験で、特級の魔物と相対した時以上に狼狽えてしまった。
言われた後、自分が何を言って返したのか覚えてもいない。会話を取り繕う事に必死だったことだけは覚えている。
そのまま逃げ出したくもあったが思い留まり話してみれば、このジンという少年はその年にして既に【称号】持ちであるのだということが分かった。
しかも相当数の【称号】を付与されているとのことだった。それら詳細な称号名は明かさなかったがその効果の大まかな情報を教えてもらった時は思わず
『うへえ』
と、唸ってしまった。今思えばこれまもまた失礼極まりない。なのにそんな自分を見ても少年はあっけらかんとしてそれら称号によりもたらされる艱難辛苦を面白可笑しく話してくれたのだ。
『なるほど…嫌われる効果の称号に不運に遭遇する効果の称号か。そんな称号があることは知っていたが……それを同時に、しかも複数の重ねがけとなると確かにとんでもなく厄介だな。道理で俺はさっき……あ、ああ、いや、忘れてくれ…。』
話す内に分かった。先程の不信感や不快感や忌避感や嫌悪感が、全くの誤解であり、瞬く間に溶け落ちていくのを。
カウントーはこのジンという少年のことをいつの間にか人として好きになってしまっていたのだった。
『将来うちのクランに入らないか?』不用意にそんな事を言ってしまった自分。少年が持つ厄介過ぎる称号を思えばクランの長である自分が軽々と口にして良い言葉では……決してなかった。…でも言われたジンの表情は見るからに嬉しそうで…
『……その時は新しい装備をプレゼントしよう。』これを聞いた時のジンの表情は見るからに微妙なもので……どうやら悟られてしまったのだろう。
(だってすげー臭かったんだ。許せ…っジン…)
4年前に一度会っただけの、今は亡き天才少年に向けカウントーが懺悔していると不意に涙がこぼれ落ちそうになっていたりして…すると。
「いや、まだ死んでませんよ。そう簡単には、彼は死ねない。恐ろしく、というより哀れなほど、タフなのでね。ジン君は。」
ロンプフェーダによる訂正の言葉に一応の安堵をしたものの、色々と腑に落ちないカウントーは問うた。
「またそうやって訳知りな感じを………そう言い切るということはジンの身に何が起こったのかご存知だったんですか?じゃあ何の為にこのスピリの村…はもう無くなってますけど……ここに来ようなんて思ったのです?」
「カウントーさんは朝起きた時、まずは何をしますか?」
「またそうやって…」カウントーは言いかけた言葉を飲み込んだ。
そして答えを探す。ロンプフェーダの真意を聞き出す時はこの、一見すれば無駄にしか思えない問答に付き合わなければならない事を知っていたからだ。
「勿論朝飯を食いますけど…」
自分なりに真面目に答えたつもりだったのだが
「それだけ?本当にそれだけですか?真面目に考えて答えて下さい。」
ロンプフェーダは気に入らなかったらしい。この段階でもう既に少々ウンザリしてしまうのだが、カウントーは長年の付き合いでこのロンプフェーダのウザさには耐性が備わっていた。なので、素直に言い直す。
「…え〜、そうですね。顔を洗って歯を磨いて服を着替えて装備の点検、着用、そして仲間と飯を食いながらその日の予定を話し合います。これは拠点でも出張先でも変わらないですね。」
ただ『朝起きたら何をするのか』について語る為に、ここまで言葉を選んで話さなくてはならない。
……正直凄く面倒臭い。
……でも金の払いが、すこぶる良い。
それがロンプフェーダと付き合う上でのジレンマであった。だからこの男から奇妙奇天烈な依頼があった時は基本、クランの長であるカウントー自らが単独であたるようにしている。他の者には任せられないからだ。
ロンプフェーダはロンプフェーダで自覚でもあるのか、カウントーの身体が空いていない時は『奇妙奇天烈でない方の依頼』に差し替えてくれもする。…一応気を遣ってくれているらしいのだが…。
そんなロンプフェーダに対する『めんどくせーな』という気持ちが顔に出ないように気を付けるカウントー。
「そうですね。優秀な人ほど、起床したあとは毎日同じ行動を取ろうとするものです。それは意固地なほどに。それでも毎日同じであるとは限らない。いえ、同じなんでことはあり得ない。朝起きた時の姿勢がいつもと違うかもしれない。ベッドから起き出す時いつもより身体が重く感じることだってあるでしょうし、靴を履く時結んだ靴紐がいつもより弛かったりするかもしれない。顔を洗っても目ヤニが少し残っていたり、歯を磨く時間がいつもより短かったり着替えた服の襟元がチクチクとして気になってたり装備に不具合がなくても、その装備では対応出来ない魔物に出会うこともあるでしょう。身体が資本であるのに朝食の味に満足出来ず残してしまう事もあるかもしれない。打ち合わせをする中、昨晩の深酒が原因で仲間の一人が必要な情報を言い漏らす可能性も皆無ではない。
もし、これら全ての不具合が同じ日に重なったら?
身体が思うように動かないのと歯磨きをしたのに奥歯に挟まったまま取れないでいた食べカスに今頃気付いて辟易としながら行軍している最中に、ほどけた靴紐にも気付いて舌打ちしながらそれを直そうとしゃがんだ時に魔物に襲われ、しかもそれは朝のミーティングでは聞いていなかった種属でなおかつ倒せない訳ではないがその日の装備では対応しにくい難物で、想定外の危険を察知したあなたが対応すべく、同行していた仲間達に指示を出そうとして振り向こうとしたところ、昨夜のうちに寝違えていたのに襟元のチクチクで気付かないでいた首が急に痛んで刹那のタイミングを逃しその指示が遅れてしまったことで劣勢に追い込まれ、その後も脂汗に溶けた目ヤニが視界をぼかし起死回生の決定打までも外してしまったりなどの普段ではあり得ない失態の連鎖の果てに戦闘が長引き、気付けば空腹で更に身体が動きが悪くなってしまった所を突かれ……凄腕と呼ばれるようになった今のあなたですら、死ぬことだってあるんですよ。」
なるほど──常に命が危険に晒されるこの、冒険者という仕事を選び今日まで生き延びてきたカウントーであったので、今話された内容にはいくらか身に覚えもあり、なんとなくの説得力もあった。しかし。
「あ。あーはい。なるほど。で?脈略は?あの、どうか、脈略を…」
プリーズである。
そしてフリーズ。
ロンプフェーダによる唐突過ぎる話題の振りには馴れたものだと思っていたカウントーであったが、それでもこれは酷すぎる。会話の糸口が1ミリもないのだ。『なんのこっちゃ』である。
「察しが悪いですね。つまり運命というものはそれほどに脆く破滅に向かいやすいものであり、ジン君などは特に…いや彼の場合は異常なほど……………ああ。配下の者が来たようですね。」
カウントーが背後を見れば至近距離にいつの間にか現れていた黒装束の男。
そのいかにも隠密行動に向いているのであろう人物と、何やらヒソヒソと話し出すロンプフェーダ。嫌な予感がした。
「とにかくここにジン君が居ないのであればカウントーさんに『役』は付きません。」
それを聞いたカウントーにしてみれば
「はあ?」
である。
「対する私には大変不本意な『役』が憑いてしまったようですが…なので私には行かねればならぬ場所が出来ました。誠に忌まわしい…。」
勿論のことカウントーにしてみれば
「……知らんがな」
これしか言えない。
「というわけで、護衛はここまでで結構。エコノスの街へと先に帰って貰っても、構いませんので。」
ウン。カウントーよ。予感は的中した。
だからもう、言っていいと思う。
「おいロンプフェーダさん?お前いい加減にしろよ?」
うん。だね。
「結果は後で報告……いえ、するかもしれないし、しないかもですね…」
酷い。…そして、カウントーは…
「 ……………………… 」
『これほどに理解できない者を相手にしていると、人はやがて一言も発せられなくなる』……の良い一例と成り果てたカウントー。それを放置して馬を急がせるロンプフェーダ。
「全く忌まわしい。全くもって忌まわしい。何故私がこんな『役』を……そして未練です。」
馬上の人となったロンプフェーダはいつの間にか騎手の座を黒衣の部下に任せ、その腰に手を回し、その背に頬を預けながらなおも呟きをやめないでいた。もうすっかりカウントーの事は忘れ去ってしまっている。
そしてそのカウントーはと言えば…唖然として、『ポツン』である。哀れ。
「ジン君。私はあなたの伝記を本当に出版したかったのですよ。その役目は私にこそ相応しい。そう思ってました。もし出来ることなら出版に至るまでの全ての工程に携わりたい。そう思う程でした。……ですがそれは、出来なくなった…それは、何故か…。」
どうやら「偉大なる英雄 ジンの伝説(仮)」の出版に並々ならぬ執着があったらしいロンプフェーダは未練をタラタラと零しながらも、その未練を断ち切るためなのか、こう言葉を結ぶのだった。
「今この時だけは、あなたを助けられる人物が私だけになってしまったからです。しかし本当は、そうなることだけは…回避したかったのです。なぜならそれをすれば──」
いや、結ばれなかった。最後の言葉は心の暗部にそっと伏せられた。
──私はきっと、貴方に憎まれてしまうでしょうから。
それが自分にとっては勿論、ジンにとっても、『最悪に近い次善』である事を知っているロンプフェーダ。
そしてその『次善』を選ばねばならないということは、今ジンが対峙している困難がどれほど凄まじいものであるのか測り知れてしまうという事でもあった。
それがまた、彼の憂鬱を深める原因となっていた。
この小説は評価ポイント、感想、ブクマ、なろう勝手にランキング投票などなど、読者の皆様の暖かいご支援により投稿維持出来ております。
が、こちらの都合で申し訳ありませんが、最近多忙を極め、投稿出来ない日もあったりします。最低でも2日に一回よりペースを落とさないよう頑張る所存ではありますが、もし落とした場合は申し訳ありませんm(_ _;)m
先にお詫び申しあげます。
さて、最近バトルが長引いてて、『煮詰まった感』があったので小休止回として。勿論メインストーリーに絡む内容です。
次回!……は、未定にしときます。
どちらの話を入れるのか迷いがあるので…では!乞うご期待♫




