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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
8章 あの子の剣 この子の杖 そしてオレはクエストにゃ

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168話 おまけにメイドと龍と美術品巡り

龍の護衛で記憶を巡る


龍は、種を愛する

種は、龍を敬う

人は、メイドと手を繋ぐ


では神は、なにを称えるか

 のんびり歩く6つの足音とエンジンの鼓動が廊下に反響する。

 (けい)ら龍であるムルガル・ハルクレートを先頭に、パーティは青草の生えそぼる土を踏んだ。

 サーガ神殿の内部は、外観よりも風化の予兆が見られない。どころかドラゴンクレーターに繋がっているはずの神殿には、空がある。混淆(こんこう)の祠に似た風情は、神の奇跡か。とにかく普通ではない。

 幅20メートルほどの余裕のある幅の壁と壁は重厚な色合いの一枚岩となっていて物々しい。しかしそこには大陸創造の歴史が美麗な油絵で描かれていた。


「決闘ではないのか……つまらん……」


 荘厳な龍より姿を変えたムルガルは、眠たげなクマのある目を細ませた。

 面倒くさそうに歩くその姿は、カラムと同様の皮鎧を着込んでいる。

 龍には、衣服を着る習慣がないため目の前の者をマネたらしい。

 その細い四肢は、およそ龍とは思えぬほどに生白い。しかしその床についてしまうほど長い髪は、赤く、火の子の如き光鱗を散らしてまわす。


「にゃあ。このパーティーで決闘はさすがに無理にゃ。でも助けてくれて感謝だにゃー」


 その隣にいるニーヤは、ケガをした脇腹を着物越しに撫でた。

 ジャハルがもっていた包帯で治療を施したとはいえ傷は、ほどほどに深い。

 帰宅したら専属の薬師に治してもらうのが得策だろう。


「フン、調和の助力の礼だ。俺を見て逃げたアレらのせいでオマエたちには迷惑をかけたようだ」


 ペタペタジャラジャラ。横並びになったふたりは、背丈に差があってまるで親子のよう。

 Lクラスと龍は、昔馴染みのように気さくに会話する。

 龍は、大陸に住まう種を愛する。それはもはや、しきたり。最強種であるから種を尊ぶわけではなく、最強種だからこそ習わしを重要視するようなものだとか。天界に住まう神が民を見守るようなもの。しかし龍は、神とは異なり別段種との接触を拒まない。


「にゃにゃにゃ貴様衰えたな?」


 後方につづくワーカー前を歩く明人は、上手ににゃにゃにゃと発音したムルガルを見て軽く驚いた。

 それほどまでににゃにゃにゃを言える者が少ない。

 一方でニーヤは、横を見上げて唇を尖らせた。


「別に衰えたわけじゃないにゃ! 《ハイトランス》だったらきっとケガすらしなかったにゃあ!」


「しかし、事実負ける直前だったぞ? 白龍とやりあったあの気勢はもはや過去の栄光だな」


「うにゃにゃ……ぐうの音もでないにゃ……」


 無表情なれど鼻の高い美形なムルガルは、歯噛みするニーヤを無視して前のみを見つづけてている。

 近頃、大陸には覇道の呪いによって悪意や罪が蔓延していた。冥界で浄化しきれずに溢れる悪意(まもの)の量が増えているということ。

 さらに今、このエーテル領では不測の事態によって魔物の討伐がおこなわれていない。

 それを異常事態と見た龍の頂点に立つものは、危険視した。

 そして、ムルガルのように選出された龍が、ときおりクレーターから野に下って魔物たちを一掃するのだという。すべては世界の調和のために。


 廊下は、どこまでもつづいている。地面が自然由来のものであるため散歩をするような心持ち。

 美術館にでもやってきたような気分の明人は、ルスラウス世界創生の描かれた絵画を見学しながら歩いた。

 人が入っていけそうな世界を描いた絵画は、壮大で圧倒されるような大きさをしている。

 描いて引き伸ばしたわけでもない。重ねて塗られた凹凸が微かに陰影を作って立体に風景を写す。表現の原点ともいえる美術品は、世界の原点をも遠くから眺めているかの如くそこに飾り並べられていた。


――この影のように描かれた男が創造神ルスラウスなのかね。


 1枚1枚に必ず出現している槍を持った影の男は、天使に囲まれている。

 はじめはその槍で闘い、次の絵では平和的な感じで天使に囲まれ、己の血を垂らして世界を創生する。


「影絵かな? ともかく描き方が抽象的で面白いなぁ」


 美術のしたたかさに酔うように明人は、流れていく絵を楽しむ。


「明人様! 明人様!」


 ぴょこんぴょこん。その横では、期待に胸を躍らせるようにテレーレがしきりに跳ねる。

 そのたびに眩い笑顔と日の光に濡れた髪がきらきらと輝く。


「手を繋ぎませんか!?」


 そう言って、無邪気に小さな手を目いっぱいに広げた。

 それを明人は、何の気なしにとる。こういうときは基本なにも考えていない。

 ただ、たったの一度だけ死と罰で汚れた手でソレに触れたくないと思ったことはある。

 するとテレーレは、触手のように指を絡めて手と手をひとつにした。

 恋人つなぎ。その手の一方には、薬指に銀色の指輪が嵌められている。


「なんか……この繋ぎかたダメじゃない?」


「大丈夫ですっ!」


 明人の杞憂を吹き飛ばすようにテレーレはニッコリ笑う。

 そうして繋がった手をぶんぶん大きく振った。


「さようですか……」


 3行2列に並ぶパーティーは、夢のような空間をぽくぽく歩く。

 先頭には、ニーヤとムルガル。温度差のあるふたりが後ろを見ずにずんずん進んでいく。

 しかし先ほどから狼の父娘は、やけに静かだった。

 決して先ほどのガーゴイル戦の尾を引いているわけではない。その証拠に尾は、引くどころか引かせぬといわんばかりに左右に振れる。


「お、お父様……。我は、龍をはじめてみました……」


「我でさえああして闘気あふるる姿を拝見する機会はそう多くはないな」


 ひそひそ。ジャハルとカラムが声を潜めて語り合う。


「なんだ? オマエは俺たちを見たことがないのか?」


 と、前を行くムルガルがくるりと髪を振った。

 色白に浮かぶその眼光は控えめに言ってもかなり厳しい。

 伸び上がった狼たちの尾っぽがむくむくと膨らんだ。


「ひゃっ、ひゃい! そ、そそ、その! わ、われはまだ生まれてそれほど経っていないものでして!」


 ろれつは溶けてしまい、声はうわずっている。

 普段の凛然としているジャハルがパニクる様子を明人は、微笑ましく思った。

 明人の想像が正しければ、この龍は無害だ。それは人生経験によるものと個の龍の特性、人格にあると見ている。

 慌ただしくなったジャハルを見てムルガルは、首をかしげる。思ったたるい紅の髪が深い川のようにはらはらと流れた。


「そうか……。出会える機会は、さほど多くはいないだろう。後学のために触れてみるといい」


 そう言って、歩みは止めず手を差しだす。

 するとジャハルは、まるで憧れの先輩を見るような爛々とした瞳で恐る恐る、手に触れた。


「わっ、わっ、わっ! つ、冷たいんですね! わぁー!」


「それは、今この姿になったばかりだからだ。直にぬくもるぞ」


「そ、そそ、そうなんですかっ!?」


「オマエたちの種族にもそういった者がいるだろう。俺たちはマナを使って形をかえないがな」


「す、すごいです! 手が、手が、すっごいなめらか!!」


 たれ耳をここぞとばかりに扇がせるジャハルにムルガルは、注視しなければわからないほど僅かに口角をもちあげる。

 一方にとり残されたカラムは、というと。羨望の眼差しで娘と龍のコミュニケーションを見つめていた。


「わ、我も触れてみて良いですかな!?」


 親ばかであってもさすがは父娘だろう。龍へ向ける熱量は、ジャハルに負けていない。

 ぞんざいに差し向けられた手ともふもふに囲まれた肉球が触れ合う。


「おおお! 確かにこれは物凄いアレだ! 感動だ!」


 低い猛りは、まさに獣。そこに狼の気品のようなものは微細にも残されていない。


「オマエはもふもふだな。少し硬いがちょうどいい」


 ベタベタ触られることにムルガルは、一寸も嫌がる様子をみせない。ただ目つきだけは悪い。

 そんなムルガルを見た明人は、思う。

 他の龍はともかくとしてもこのムルガルという龍は種との触れ合いを楽しんでいる。

 でなければ、目的のダモクレス鉱石まで護衛を申しでるはずがない。

 仏頂面で愛想は悪いがニーヤとも友好関係を築き、そして今もこうして(えにし)を繋ごうとしている。

 つまり、龍族には覇道の呪いが効いていない。

 それが明人には、微笑ましくもあり不思議だった。

 これほど友好的な種族にも関わらずリリティアを除け者にする理由がわからない。


「なあ、テレーレ。龍ってなんでクレーターに住んでるんだ?」


 明人が問うと、ほくほくしながら歩いているテレーレの表情がそのままに凍りつく。


「あー……えーっとぉ、ですねー……ちょっとよくワカンナイデスー」


 急にギクシャクしはじめたテレーレを見て明人は、それ以上問い詰めることはしない。

 感想を言葉にするならば、ほらまただ。リリティアもそうだが、ある点に関して絶対に口外しないなにかを秘めている。

 はじめは大陸に存在できる魂の数の減少からはじまっていた。そこから理想郷への神槍ユートピアグングニールでの英魂の保管など。そして、今もそう。


「ふぅん……」


 明人は知らない。知る権利すらもたない。

 さらに、知ろうともしない。だから、深く関心を抱かない。

 ふと、視線を感じてそちらに首をまわすとムルガルがこちらを見ていた。

 紅の瞳は、燃え盛る炎のように朱色をしている。飛び散る火の粉に明人のなかでリリティアの影が重なった。


「オマエは……なんだ?」


「おーっと、指示代名詞。せめてヒントくらい下さい」


 ざっくりとしたムルガルの疑問を明人は、素手で投げ返す。

 助けて貰った恩もあって一応最低限の礼儀は払う。


「では、言葉を変える。その後ろの蒼物はなんだ?」


 その骨ばった指は、真っ直ぐ最後尾についてきている白玉に向けられていた。

 《残業(オーバータイム)モード》へ移行したオーバーワーカーは、今日も元気に大地を揺らす。

 愛嬌のある重機は、つい先程まで鉄くずにされそうになった気配すら感じさせない。

 内部で再貯蓄したF.L.E.Xをほとばしらせた重機は、人魂のような見た目になっていた。


「青物では、サバが好きです」


「……その蒼物は、サバというのか?」


「あ、いえ、ワーカーです。宙間移民船造船用4脚型双腕重機ワーカーって言います」


 一世一代のボケを潰された明人は、少しだけ傷ついて地球が恋しくなった。


「長いな……。見たところ鉄巨大(アイアンゴーレム)のようにも見えるが……マナの気配がない。不可思議だ」


 そう言ってムルガルは、目つきの悪い目をさらに尖らせてワーカーを睨む。


「乗ってるオレにも不思議ばっかりなんで答えられることは少ないですよ」


「……そうか」


 ワーカーは、自律ではなく自立重機である。動力さえ壊れなければ理論上は、半永久的に動く。燃料は――たぶん――F.L.E.X.。

 どれだけ疑問をもたれても明人には、答えられない。操縦士にできるのは整備くらいなもので、超過技術(オーバーテクノロジー)部分は未だ闇のなかだからだ。

 納得のいっていない顔でムルガルが前を向いて僅かに肩を揺らした。


「……そろそろだったはずだ。が、先が長くなっている。どうやらまた新しく世界の記憶が増えたらしい」


 長い長い廊下は、棺の間へつづく道を彷彿とさせる。

 棺桶の代わりに美しい絵画が飾られている程度の違い。

 すると明人は、テレーレとの繋がった手にぎゅっと力がはいるのを感じた。


「また新しく歴史が刻まれたんですか?」


 舞い上がってキンキン響く声は、屋根のない廊下を幾重にも反響する。

 それを気にしたようすもなくムルガルは、振り向きもせずに応じた。


「だろうな。しかし、拡散する覇道の意思を天より賜って以降、ろくな記憶が増えていない」


 その燃える瞳の見る先には、1枚の絵がある。

 どす黒いべたべたに塗られた背景と苦しむ種たち。その頂点に立つ人影が血のように赤く描かれていた。

 覇道の呪いを表現しているのだろう。そこからつづく絵も凄惨なものばかり。

 その絵の前に描かれていた絵を明人は、見逃していない。

 龍と闘う英雄たち、戦争にて勝ちとった自由を掲げて喜び合う者たち。そこで華々しい歴史は、終わっている。


「絵を見て暗い気持ちになれるってことは画家が優秀なんだなぁ」


 なんて。どうでも良い感想を漏らすと、パーティー全体の空気が重ったるくなった。

 そして次からは、この気分が害すような陰々滅々たる絵ばかりが飾られている。

 川を挟んでにらみ合う土巨人の群れと長耳の軍は、エルフとドワーフの戦争。ヤーク川の睨み合いを示唆しさしているのだろう。

 流れてくる絵には、明人が知っている光景もあった。

 悲しみ、嫉妬、怨嗟、怨恨、怒り、侮蔑、差別。そして、死。そんな絵たちには、必ずといっていいほど血が滲んでいる。

 争い合う複合種や種が違って足蹴にされ涙する者たち。陰険で陰湿な絵がつづく。


「…………」


「…………」


 ぽつぽつと。いつしか皆は、言葉を失うように黙り込んでいた。

 粛々と前を見つめて足を交互に繰りだすだけ。重機の鼓動と足踏みが、皆を励ますように景気よく鳴り響く。


「――にゃ!?」


 その時、虚を突くが如くにニーヤが叫んだ。

 へたりこんだ尾っぽは元気よく天を向き、ふかふかの猫手は、なにかを指さしている。


「見るにゃ見るにゃあ! きっとこれが新しい絵にゃっ!! すごいにゃああ!!!」


 弾かれたかのように一斉に頭を上げた面々は、壁に貼られた大きな絵を見た。


「まあ……! こ、これって……すごいことですよ!?」


 絵を見たテレーレは、口元を覆い隠して涙を滲ませる。

 その絵は、夕焼けだった。


「す、すごいが信じられん! まさか世界変革の記録にだと!?」


 絵を見たジャハルは、唇をわななかせて身を震わせる。

 絵は、夕焼けをバックに槌を構えて巨大へと立ち向かうような姿を表現していた。


「ククッ、ハハハハ! 歴史を刻んだということか! 話には聞いていたが大役を務めたものだな!」


 くっくと喉を鳴らしてカラムは、手甲に締めつけられている腕をどっしり組んで豪快に笑い飛ばした。

 誇らしげな顔立ちは、絵の向こうに幻影を見るが如く顎を上げる。

 そして、絵を見た明人は心臓に電流が走るような錯覚を覚えるほどに驚愕した。


挿絵(By みてみん)


 見開かれた黒い瞳が見つめる先。描かれていたのは、リリティアと《マジックスタンパー》を爪に挟んだ4つ脚の重機と山岳級移動要塞モッフェカルティーヌと思しき轟々たる鉄の城か。

 それは、失敗すればもっとも大陸の民が死ぬはずだった闘いの記録だった。

 ムルガルは、きょろきょろと忙しなく首を回して絵とワーカーを交互に見やる。


「オマエは……!? オマエはいったいなんだ!?」


 叫びに似た問いかけ。

 皿のように見開かれた目は、こちらを見据えて微動だにしない。

 だから明人は、絵をじっと眺めながら感傷に浸りつつ答える。

 ようやく成した栄光をその身で実感して、飲みの席で授かった不名誉な称号を添えて。


「オレは蒼の舟生明人(ふにゅうあきと)・L・ドゥ・グランドウォーカーだ」


 名乗り終えたその顔は、清々しい。

 愛機の音を耳にして過去を見るその表情は、やんわりと優しく過去に向かって微笑んでいた。



……………

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