163話 【VS.】エンカウント 突如現れた魔物の集団
クエスト開始
息つく間もなく
エンカウント
狼は魔物を刻む
丸い重機も敵を薙ぐ
希少な石を求めて
画面越し。まるで背負った森林の如く毛深い両の腕をジャハルが振るう。
『ハァッ! 《フレイムクロー》!』
風ごと切ってしまいそうな小太刀の如き爪は、《トランス》の魔法によって変化させた狼の武器。
それに炎を宿してかんかんに熱された一撃が魔物に喰らいかかった。
『ガッ――ヴェ!?』
頭から股下までを刻まれたオークは、縦に裂けて絶命する。
吹き出す血の雨をもろともせず。筋肉の詰まった袋のようなふとももを繰りだす。全身の回転とバネによる豪の後ろ蹴り。
『ギェベッ!』
後ろから飛びついてきたゴブリンは、土手っ腹に穴を開けて、口からぼたぼたと汚泥の如き血を吐いて倒れ伏す。
絶えずわらわらと魔物たちは、ジャハル目がけて飛びかかる。
『滾る! 滾るぞッ! 戦場はいいッ! もっと熱を! 痛みを! 生きる快感を我によこせェ!』
一騎当千の如き猛攻。ときおり被弾するも獣は嬉々として笑う。
横では、同じくカラムも奮戦していた。
腹部を穿ち腕を突き通されたサハギンは、まるで百舌の早贄のよう。
カラムは、ひるんだ敵にそれを投げて体制を崩すと、別の魔物の腹へと腕を突き通す。
ちぎっては投げちぎっては投げを地で行く闘い方だった。
『ガァ……! ギッ――!?』
絶命する直前に敵が見るのは、灰狼の牙であろう。
確実に死を与えんがために頭蓋を噛み砕かれた魔物は、残った体を痙攣させ、やがて止まる。
『さぁ、どうした雑魚ども! その生を我が牙で砕かれたいものは、この灰狼が叶えてやるぞ!』
口周りの毛はどす黒く血と脳漿に染まる。されども牙に曇りなし。
真っ白い骨を唾液とともに吐くと次の獲物を探して、尾を高くしてねり歩く。
「楽しそうでなによりだよ……」
そんななかで操縦席に座った明人は、画面越しの闘いを見てちょっと引いていた。
横並び3枚のモニターに映し出されている狼の父娘は、魔物の返り血を浴びながら猛って舞う。
安全が確保されている重機の操縦室は、油ではなくまるで花畑の如くいい香り。白日のもとで、よりいっそう白く輝くワーカーも機嫌良さげに暖気する。
画面に映るは、踊る狼の舞台。明人も負けじと座席後部からアームリンカーを引っ張りだした。
長四角の腕を覆うそれは、重機の鉄腕とリンクするための作業道具。
「ああもうなんでこんなことに……」
操縦士がその身に帯びるは、通常モードに変更されたα型の試作品だ。
流動生体繊維という名のピッチリとした超過技術スーツ。
ぴっちりとした質感は、肌と勘違いするほどにフィットして着心地が良い。このパイロットスーツ外部からの打撃斬撃をある程度防いでくれる。危険な場へ向かうのであれば着ない理由がない。
ワーカーの手は2本爪。そこに挟まれているのは、つい先程まで大地にそびえ立っていた森の欠片。
明人が同期した両手を横につきだせば、ワーカーも共に平行に手を上げる。
「サイクロン! サークル! スピニング! トルネードォ!」
テンション高く即席の技を叫んで明人は、スニーカーを脱ぐと、足を上げて転回レバーを踏み倒した。
もう2度と同じ技を言うことはないだろう。
ぐるりぐるり。ワーカーが根ごと引き抜かれた木を振るう。
ごうごう風を切る音は豪快で、ワーカーの鼓動も雄々しく唸る。
群がった魔物たちは、緑の茂りで薙がれてひれ伏す。
醜い子供ほどのゴブリンも、肥え太った巨体のオークも、筋肉の塊である牛頭のミノタウロスも、魚類に足が生えたサハギンも。あらゆる魔物が一斉に薙ぎ倒されていく。
「ハアアアアッ!」
それをすかさず鬼気迫ったジャハルが頭蓋ごと踏み砕く。
意思疎通のない連携技だった。回る球体は、台座の如き4つ脚で地上にガッチリと固定されている。さながら台風の目の如き暴風の中央のよう。
狼たちも体勢を低くとってうまい具合に合わせて攻める。
そんな巨大な白玉の上には、場違いなメイドが立っていた。
「《ストロングエンチャント》! 《ストロングエンチャント》! 《ストロングエンチャント》! 《マジックサポート》! 《テルプロテクト》!」
回転する足場も意に介さず。手をかざしてたテレーレは、支援魔法を唱えて狼たちを堅く強く援護する。
表面が紺色で裏地が白いスカートが花開くようになびいた。
その支援に押されるようにして赤いオーラを纏った2匹の狼による息もつかせぬ殺戮が勢いを増す。
それでも敵の波は収まりを見せない。血痕の染み渡った赤い草原は、頭を垂らして血をしたたらせる。
「ふぅ、よいしょっと」
支援を終えたテレーレが上部ハッチからストンと明人の膝の上に降りてきた。
ふわりと花の香りが、操縦室に充満する。
「なにかがオカシイです。誘いの森ならばともかく、森の外から誘いの森へこれだけの魔物が押し寄せるなんて……」
パイロットスーツ越しでもわかる丸みと柔らかさ。
体重も軽く、自然と目を引くその腰回りは布で隠しきれておらず。およそ女王とは思えぬ扇情的さ。
「誘いの森からでた直後にこの襲撃とはな……。きな臭いぞ……」
どさくさに紛れて顔を寄せてくるテレーレから逃げるようにして明人は、茹だりかけた頭で推察する。
テレーレは、世間知らずの女王は、きっとリリティアから伝え聞いて空想した英雄の影を追っているのだろう、と。
そして奇しくもその好意だか好機だかが人間へ向けられていることが複雑だった。
なおも漬物石は、木を手に回る。あまりにも北東方面よりなだれ込んでくる魔物の数が多い。数にすれば200はくだらない。
ここは、誘いの森を北東に上がった森の外。依頼をこなすためには大陸のさらに東北にいかねばならない。
ニーヤが小躍りしながらもってきた依頼内容は、前ドワーフ王の墓を建築するための素材収集だった。
普段の明人であれば、いくら我が家のペットが拾ってきた依頼なんてこなすはずがない。しかし、収集する素材が鍛冶師心を射止めてしまった。
高貴なる者の墓には、相応の素材を使う。その使われる素材とは、ダモクレス鉱石と呼ばれる鉱石だった。ルスラウス世界にきて日の浅い人間でもその名くらいは耳にしたことがる。鍛冶師にとっては、喉から手がでるほど貴重で高級な希少品。
ダモクレス鉱石を精錬して作られた剣は、最高の硬度と柔軟性をもつのだという。
墓にも使われ、飾りものにも使用することができるという多様性も秘めている。そんな一品を今まさに剣鍛冶に手をだそうと思っている明人が、見逃すはずもない。
ある程度の素材を集め終えたら自分用に持ち帰る。そして、加工して売る。立ち上げた840ブランドの刻印と共に。
一攫千金と承認欲求。想像しただけで明人にとっては、垂涎ものだった。
ニヤける明人の目の先。画面の向こうでは、ようやく先行していたニーヤが巨躯を引っさげて猛ダッシュでこちらにやってきている。
奥から湧いていたはずの魔物の波がすべてキレイに一掃されていた。英雄たるLクラスの名は伊達ではない。
『WANYA!』
一振りの前足による1打で魔物たちは、草をむしられるが如く赤い花を咲かせた。
次いで無声会話の声が、明人の頭に響いてくる。
『《グランドフレイム》にゃ!』
陣の描かれた鼻先から黄色がかった灼熱の炎が吹き荒れた。|
上級を遥かに超越した金光の炎。超級魔法によって焼かれた端から魔物たちは、炭化していく。
後方から迫りくる魔物は、巨大な鞭の如き焦げ色の尾が押しつぶしてミンチのようにすりつぶす。
空に三角耳をピンと伸ばした大狐は、圧倒的な火力でもって魔物の郡を土に返していった。
一気に数を減らしていく魔物たちを見て、明人も転回レバーから足を離してイスに座りなおす。
「やるな。さすがLクラス」
リリティアの戦闘を見慣れているとはいえ、賛辞を送らざるを得ない。
すると、いつの間にかワーカーの頭の上に乗っていたジャハルもニーヤの奮闘を見て感想を漏した。
「さすがはニーヤ様だ……。我にあの境地へと辿り着けるのか不安になる闘いぶりだったな……」
スピーカーからではなく実の声は、重々しくも凛としていて褒め称えているかのよう。
顔には、びっしりと血の化粧が施されている。大半は魔物の血であろうが、それでも多少の怪我はしていた。
「あら? 治療しますからじっとしていてくださいね。《ヒール》」
せこせことテレーレが上部ハッチによじ登って手をかざし、治療を開始する。
慌ただしく膝をついたジャハルは、わたわたと礼を告げた。
「せ、せせ、聖女様に治療していただけるとは、光栄の至りです!」
「いえいえっ! なにせ今の私は一介のメイドですからっ!」
明人にとってペットであるニーヤは、複合種にとってのボス。群れの頂点に君臨するもの。
それはワーウルフ国王であるカラムすらも従えるほどの地位だった。
とは言っても複合種は、ニーヤのワガママに振り回されることを幸福の証とする。ある種の信仰対象だった。
この戦後処理に慌ただしい最中でも王、カラムが出張ってくる理由は、種の代表として明人への恩返しが含まれているという。
ぽん、と。手を叩いたテレーレは、にこやかに微笑む。
「はいっ! これでとりあえずの治療は完了ですっ! 浅い傷ばかりでよかったです!」
野に咲く一輪の花の如き風情は、やはり白鳥のようなリリティアと重なって見える。
傷の癒えたジャハルは、頬を染めながらもう一度礼を口にした。
「あ、ありがとうございます! こ、このご恩は、けけ、決して忘れませんっ!」
幸運の証、恩返しときて、聖女の守護という名目まで追加されている。気高い狼たちが奮起しないはずがない。
向かう先は、サーガ神殿。神よりの力が付近に宿ってダモクレス鉱石を生み出すのだという。
魔物の殲滅をし終えたニーヤとカラムがワーカーへと寄ってくる。その四方八方には、原型すら保てていない魔物の臓物が霧散していた。
『なーんか魔物がオカシイにゃー。雑魚がにゃーに立ち向かってくるのはとっても変だにゃ』
「そうですな。我らだけではなく聖女様の気配も感じとっているでしょうに……」
ワーカーに負けず劣らずの大きさをしたニーヤを見上げてカラムは、剛毛の腕を組み唸る。
どちらも血に飢えた獣の如く体毛を真っ赤に染めあげていた。
ふと、ここぞとばかりにすり寄ってくるテレーレを無視して明人は、マイクに語りかける。
「あー、ごめん。いい忘れてたんだけど、ワーカーって魔物を引き寄せるんだ」
魔物は悪意に寄ってくる習性があるのだ。
そして、ワーカーはその建造理由から恐らく悪意に満ちている。
その特性を生かして魔物を引き連れての行軍は、戦争でも使用した1手だった。そのときワーウルフ族と共にマーメイド族を助けたことは、記憶に新しい。
すると大狐は、ピクリと耳を傾けた。もとより細い目が微かに見開かれる。
『にゃ? それは面妖にゃー。でも、たぶん関係ないにゃー』
歌うような気の抜ける返答だった。
それに同意するようにカラムもどっしりと胸を張って頷く。
「魔物にも危機察知能力がある。なのに力の差がある、にゃにゅ……ニーヤ様へ飛びかかってきたのがオカシイという話だ」
「そっか。まあ、オレの愛機のせいじゃないならよかったよ」
それを聞いて安心しつつ。テレーレの顔を押しのけながら明人は、魔物に襲撃された理由を考える。
しかし、あまりにも魔物への知識が欠如しているためなにもわからない。
『たぶん怖い魔物がいたから錯乱して逃げてきただけかもしれないにゃ。突然変異種とかは、よくある話にゃ』
のっしのっし。丸太の如き足で魔物の死骸を踏んだニーヤは、尾っぽをゆるく振りながら歩きだす。
巨体のわりには足音は静かだった。
カラムもワーカーの上に飛び乗って、娘の怪我を案じる。
やや不安を覚えつつも明人は、重機のアクセルを踏んだ。
ズズズンズズズン。期待と不安を乗せたワーカーは、4つの脚で血まみれの草原を穿つ。
面々は、遠方でモニターに映った赤褐色へ向けて歩を進める。
空高くそびえ立つ壁の如き赤褐色の山は、ルスラウス最強種でありリリティアを除け者にした龍の住まう地。
ドラゴンクレーターの近辺にサーガ神殿はある。
○○○○
語らざること語る如しSSコーナー
……………
「なあ、カマル」
「ムッ? どうした?」
「本当にニーヤのワガママに振り回されるのが嬉しいことなのかい?」
「……当然だ」
「このくっそ忙しい時期に?」
「……とうぜんだ」プルプル
「誇りにかけて?」
「……と、とう、ぜんだぁ!」ガクッ
「父上!? やめろ明人! 父上は今――2徹しているんだっ!」
「やっぱりくっそ忙しい上に辛いんじゃねーか!」
「オスにはなぁ! やらねばならぬこともあるのだ!」
「その縦社会なんとかしたほうがいいぞ!?」
「にゃなにゃ、にゃにゅ……にゃ、にゃにゃ様は我らのボスなのだ! これだけは譲れん!」
「言っておくけど、オマエら尊敬してるわりに一回もにゃにゃにゃって言えてないからな!?」




