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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
7章 あの子は大きい この子も大きい そしてオレはもっと大きい

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137話 とっても悔いてようやく前を向いた人魚の歌

憤りの渦中に

小魚は泣いた


死に救いはなく

罪も同様に救われない


終わらぬ旅が

はじまる

「私が最後に見たのは、ピチチちゃんの泣いているお顔でした……」


 そう言って、切り株に腰を下ろしたアルティーは顔を伏せる。清潔感のある短い髪がささりと揺らいだ。

 ユエラの提案により通行や商いの邪魔にならぬよう市場の端に移動して、空いた切り株に座り懺悔に耳を傾ける。

 にゃにゃにゃのニーヤと対決した際にユエラは、顔中から血を吹いて毒に喘ぐアルティーをワーカーに乗せていたのだという。そして、虫の息同然だったアルティーの断罪を複合種に託した。

 当然、苦しめられた複合種たちは、治療をする意思などない。しだいに呼吸が浅くなっていく敵を囲って、むごたらしく償いを終えるのを待つのみだった。


「寒い。このまま終わってしまう。私は……白ばむ景色と皆の侮蔑の入り混じった視線に恐怖を覚えました……。ですが、その時確かに聞こえたんです」


 しかしそれを「大人げないッす! 無情ッすよ! こんな皆が残酷だとは思わなかったッす!」などと、涙ながらの罵倒を発したのがマーメイドのお姫様であるピチチだった。


「とても……とても、嬉しかったです。誰からも求められなかった私が、欲求が、たったその一言で満たされた気がしました。そして、逆に自分が求めるだけのなんて矮小な、なんて下らない女なのかとも感じました」


 アルティーの目を覆う布から穏やかな涙が細かい傷跡のある頬に筋を作って、零れた。

 横に座っているピチチは、セーラーの胸のポケットから白いハンカチをとりだして、そっと涙を優しく拭う。

 降りしきる雨のなか、泣きわめいて必死に《ヒール》の魔法を使おうとする小魚。それを見て、母であるピジャニアは困り果てた。

 なにせ血を吐いて草場に横たわるのは、大罪を犯した敵である。いくら愛する娘が助けを請おうが救ったところでしょせん(そし)りを(まぬが)れない。ならば、いっそここで楽にしてしまったほうがよいのではないか、と。

 それでもピチチは使えもしない《ヒール》の魔法をアルティーへ、がむしゃらに唱えつづける。尾っぽで悔しげに地面を叩き、雨と涙と鼻水で顔をくちゃくちゃにしながら、それでも諦めず幾度も幾度も。

 そんな様子を見かねたのか、それとも心を打たれたのか。狼族の姫であるジャハル・カラル・ランディーは、生きて償わせるべきだと、吠えた。

 次いで賛同者も高らかに声を張り上げて、呼吸をやめたアルティーのもとに群がった。

 そして、罪と罰を背負ったアルティーは生き延びた。薬草のスペシャリストであるユエラの毒により、視覚と嗅覚と味覚を失って。


「これが事のすべてです。私は、これから償いのために各地を放浪して他者にできうる限りの奉仕をしていくつもりです」


 炎天下とはいえ、木陰のなかの村。さわやかな風が市場の草花を撫でるように通り過ぎていく。そんな涼やかな場所でもアルティーは、多めに肩を上下させて呼吸を刻む。

 それまで静かに目を瞑って切り株にふっくらと肥えた尻を落ち着かせていたユエラが、彩色異なる瞳を開いた。


「話はわかったわ。でも、まだ体調がよくないなら休んでたら?」


「いえ、私の時間はそれほど長くありません。枯れて、ルスラウス様に魂を返す前に、多くの方々に償いをしたいんです」


「……そっ。そこまでの覚悟がるのならなにもいわないわ」


 ぷるり。長耳を僅かに跳ねさせてからユエラは、横にいる同棲者を睨む。


「アンタら、もっと興味を持ちなさいよ……」


 そこにいたのは、お澄まし顔で羽をたたむようにちょこんと切り株に腰を下ろしたリリティア。そして、その後ろから魚臭い手で家主の頬をもちもちと揉みほぐしている明人がいた。

 うなだれるユエラを見つめてそれでも明人は、マッサージをやめない。

 きめ細やかな手触り。ふっくらとしていてほのかに暖かいリリティアの頬は、嗜好品だった。まるで焼きたてのパンから耳の部分をとったかの如きマイルドな柔らかさが指に吸いついて離そうとしない。

 桜餅のように火照ったほっぺたを相手の反応に気を使いながらも明人は、揉みほぐしていく。


「……ふぅっ……」


 そして、リリティアも嫌がる素振りを微塵も見せず。

 逆に、気持ちよさそうにうっとりとしながら、もみくちゃにされていた。

 ときおり身をよじらせて色気づいた吐息をこぼす。


――構成した不良くらいどうでもいい話聞かされた気分だ。


 明人は、アルティーにまったくといっていいほど興味がなかった。

 ただ、当事者であるユエラが話を聞きたいだろうと思い、この場に留まっているだけ。

 いわば他人事。迷惑を被ったとはいえ代償は、アルティーの視覚と嗅覚と味覚。充分に支払われたと考える。

 しかしドワーフと複合種は、まだ足りない。家族や友人を失ったものたちの気持ちは、察そうとすることすらおこがましい。例えその場は、アルティーを見逃したとしても怒りの炎は収まらぬだろう。

 真面目に話を聞かない明人を睨む者が、ユエラ意外にもうひとりいた。

 キッ、と。こちら側を軽蔑するかの如き視線。


「……ふにゅうもアルティーさんを許さないッすか?」


 眉根を寄せたピチチは、母の膝に座りながらゆるやかに尾っぽを波打たせた。


「許す許さないでいったら、許してる。オレに迷惑をかけた代償は、ユエラが果たしたしな」


 水溶性の毒物だったことと治療が遅れたことが起因したのだろう。

 毒が直接眼球に接触したアルティーの眼は、もう光をとらえることはない。舌と鼻も同様に機能不全。

 そう、当たり障りない感じで答えてやっても、小魚は未だ不服な頬を膨らませたまま。


――しょうがない。


 名残惜しさを感じつつ明人は、マッサージをやめる。

 リリティアも閉じていた瞼を開き、切り株の上で半身ほど横にずれてスペースを作った。そして、ぽんぽんと白い手で呼び込む。

 開いている切り株がないため明人は、何の気なしに隣に腰を下ろす。肩と肩が触れ合う距離。

 するとリリティアは、白い長尺のスカートのなかで交互に足を揺すってぱたぱたと動かした。

 明人は、一度母であるピジャニアに視線で伺いを立てる。すると、ピジャニアも耳ビレを扇いで静かに頷く。教育の許可。


「許す勇気もあるけど、許さないことは罪じゃないんだぞ? 家族が殺されたドワーフやワーウルフ族も大勢いるだろ。怒りっていうのはソイツら個人の世界で管理させないとダメだ。押しつけるのは、違うよな?」


 なるべく語気を荒げないよう注意をしながらトゲをしっかり削ぎ落として諭す。

 世界での死は瞬きをする間に露と消え、国での死は葬儀を終えたら薄らいで、友人や家族の死は一生残る傷をよこす。

 命とは、ときに重くときに軽い。まだ世界が綺羅びやかに見えているであろう幼い少女に死生観を理解をさせるのは酷というもの。

 

「うう……。でも、でもぉッす……」


 もごもごと気後れする曖昧な態度で小魚は、唇を尖らせ俯く。

 ゆらり。明人は痛む膝に力を入れて歩み寄る。


「ピチチ偉いぞ。自分の理想の大人の背中を追いつづけることが大人なんだ。オレの小さい相棒にはそれがもうできてるんだな」


 べそをかく寸前のピチチの前にしゃがみこんで、その小さな頭に生臭い手を押しつけてぐしゃぐしゃに髪を乱す。

 潤いのある髪が雑に跳ね回った。


「ほら、この話は終わりだっ。死ぬだの生きるだの、そんなもんはその時に考えてさっぱり忘れたほうが気が楽だ」


 言ってる途中でずくりと胸の辺りが痛んだ。

 忘れられぬ記憶が下手くそな笑顔を浮かべて嘘をつく。


 一方、市場の方では子どもたちが鈴を転がすような笑い声を発してように駆け回る。

 それを村のエルフたちは、目を細くしてほがらかに眺めた。

 そのなかににゃにゃにゃのニーヤが混じっていると、どれほどのエルフが気づいただろう。

 虫の音も昼から夜へとバトンを渡し、夕げの香りが鼻に気持ちの良いころ合い。


「あわぁぁぁ!? もう、手を、手を止めるッすよおおお!?」


 撫でくり回す手は、未だ止まらず。ピチチは、首の座っていない赤子のようなって目を回している。

 それを無視して、明人の脳に不意の疑問が浮かんだ。


「……なんでオマエがウッドアイランド村にいるんだ?」


 その疑問に答えたのは、ずっと口をつぐんでいたアルティーだった。


「その、私が同種たちに謝罪をしようと提案したのですが……嗚呼、ピチチちゃんが……」


「目がぁぁぁ回るっすよぉぉぉ!?」


「あ、あのっ! こ、これって、ど、どうなっているんですか……?」


 一方的に撫でくり回されるピチチの声に反応してか、アルティーは心配そうに修道服に包まれた腕を彷徨わせる。

 しかしピジャニアは、膝の上で阿波おどりをする我が子を見ながら楽しそうにクスクスと笑った。

 方法はどうあれ謝罪をするのであれば膨大な迷惑をかけた同種たちにするのが筋だろう。しかし、アルティーはまったく関係のないエルフの村にいる。それもエーテル領の近郊であるエルフ領の端の村。

 エルフたちにも迷惑がかかったとはいえ、それはあくまで間接的なもの。どちらかといえば、最も無関係な場所。その行動のちぐはぐさに明人は、疑問をもった。


「あっ、なるほどねっ! やっぱりその子すごく頭がいいわ!」


 ぽんっと手を打ったユエラが、ようやく解放されて母の胸に埋もれるピチチを拍手で褒め称える。

 そして、明人が首を傾げている姿を見てから、嬉しそうにくるりと回って短いスカートを花のように開かせた。


「フッフーン! 将を射んと欲すればまず馬を射よ、よっ!」


「……? あー、なるほどなぁ。外堀を埋めるのか。あと、ユエラすごい嬉しそうなのな……」


「私だって結構勉強してるんだからっ! 闘ってるときとか頭脳プレーもするのよっ!」


 これ見よがしに突きだされた鞠のような胸を明人は、苦々しく見つめる。

 リリティアはリリティアで暇なのか、枝に止まった鳥を見上げて「おー」だとか「わー」だとか呻いていた。

 人間以上に全力で興味を示していない。


 つまるところ、ピチチは複合種を贖罪の旅の終着駅としたということ。

 まず、もっとも恨みの浅いエルフの同情を買って味方につける。そこからドワーフとの関係をとりなってもらい、数珠繋ぎでゆくゆくワーウルフ領入りを果たす。

 およそ子供とは思えぬ謀略の如きはかりごと。

 しかし、明人もユエラとピチチにイニシアチブを握られることが悔しかった。

 なので、少し話題に食いついてみる。反骨精神ゆえの介入。


「なあ、謝罪ってなにをして回るんだ?」


 突然の明人からの振りにアルティーは、肩と耳ビレを揺すっておずおず答えた。


「その、私もユエラさんのように愛……を与えて回れたらと考えています……」


「はぁー……変なこと考えてやがるな?」


「す、すいません……」


 そう言って、アルティーは居心地悪そう身を縮こめた。

 修道服になぞらえられた傷跡はあるが肉づきのよいグラマラスな肢体。目を失ってできることといえば限りがあって、それが女性である。答えはおのずと見えてくるとうもの。

 小魚の母に配慮して明人は、舌を鳴らすだけで済ませた。

 そして考えた。目の前の罪人を救う価値があるのかと。


「…………」


 被ったのは筋肉痛と僅かな苦労。得られたのは、力の真実と経験。対して、敵が失ったのは目と鼻と舌。

 落ち目の女が落ちていくのを助ける言い訳を模索する。


「あ、あのどうかしまし――」


「過払いだな。うん、過払いだ」


「え……あ、あの?」


 明人は自身に言い聞かせるよう過払い過払いと繰り返し、アルティーはまごついて手を宙で踊らせた。

 そんな様子を表情豊かに周囲の友は、黙って見守る。

 ユエラはしたり顔で微笑み、リリティアは眉根を寄せながらも笑う。

 母娘は心配げ。それでもサファイアの如き瞳には僅かな期待が孕んでいた。

 罪人は、目が見えず舌が使えず鼻がきかない。だからといって、膝をついて謝り倒すのはただの迷惑であって、あまりにもチープ。春を売ったところで反感を買うだけで未来はない。

 近頃、本格的に異世界に慣れてきた明人は同じ切り株に並んで座る魚たちを俯瞰でとらえた。

 そして、ピチチを見た瞬間、明人に天啓が舞い降りる。


「あっ、そうだ。声が出るんだし歌えばいい。歌えば注目されて声も届きやすいだろ」


 戦場で紡いだピジャニアの歌は、とても耳心地が良かったことを思い出す。

 耳が聞こえて声が発せればそれだけですべてが事足りる。そしてなにより目の前にいるのは歌で魔法を発現させるマーメイド種だった。


「それいいッす! というか、それしかないッすよ! いろんな町でライブツアーをするッす!」


 爛々とピチチは、目を輝かせる。元気のいい尾っぽが脛を打ってピジャニアは、少しだけ頬をひくつかせた。

 歌とは、耳に響いて他者の脳に刻む。つまり、耳で記憶させる。美しい歌であれば心は安らぎ、その安らぎが歌手の印象をよりよくする。


「早速やるッす! この村でファーストワンマンライブッす!」


「え、あのっ……ピチチちゃん? でも、私、最近あんまり歌って――」


「腐ってもマーメイドッすよ! 少し歌えばすぐに感も戻るはずッす! 善は急げッす!」


 息巻く小魚に猛プッシュのスカウトをされてアルティーが売りだされる姿を想像し明人は、きびすを返した。

 それを挟み込むようにリリティアとユエラもつづく。


「やっさしー!」


「うるせ……」


 わざとらしく下から覗き込んでいやらしく目を細めるユエラから明人は、目を逸らす。

 その先には、いつも通りにニコニコ顔のリリティアがいた。


「それでは、目的の物を仕入れて帰りましょう」


 罪は消えぬ。例え償ったとして心が呪縛から解放されることはない。

 慎ましやかな歌を背に明人は、心のなかでアルティー・メル・ランディーが旅の道中で躓いてしまわぬよう、微細ながらの祈りを捧げた。



○○○○○

決して語られぬ枠の外の語らぬSSコーナー

……………

「ここが市場なのかな!」


「にゃー! エルフがいっぱいいるにゃー!」


「おっ? ソイツは……誰だ?」


「あ、お薬屋さんなのかな。まだお店だしてなかったのかな?」


「んー……まぁ、ちっと村で腰いわせたやつがいてなー。今日、店をだすか悩んでたんだ」


「その子かわいそうにゃー……」


「ま、村長なんだけどな」


「お、お父さんなのかな!?」


「おう。治療はしたけどしばらく安静だな、ありゃ」


「ま、別にいいのかな」


「おー、意外にクールつーか薄情なヤツだな……。ところで、その子エルフじゃねーな?」


「にゃー、はじめましてだにゃ」ペコリ


「おー、よしよし。語尾に引っ張られたけど、よく見りゃ狐族じゃねーか」


「うにゃうにゃ。狼の血も入ってるにゃ」


「ほー、混血か。ユエラのヤツと同じ希少種じゃんかよ」


「どっちかというと雑種にゃ。にゃーが生まれてから混血っていわれるようになったにゃよ」


「ほーん……。ずいぶん長生きなんだなぁ」


「ニーヤちゃん! 向こうでホクホクのサクサクが売ってるのかな!」


「にゃっ!? 食べたいにゃ! さっそく向かうにゃあ!」スタタタ


「はっ? おいまてっ!? ニーヤ!? 雑種!? ってことは……にゃにゃにゃ様!? おいまて――あー、ダメだいっちまった……」

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