第五章 その3 決意
「これが……どうかしたのか?」
キイチはカナが差し出したノートPCを受け取りながら訊く。
「見ればわかるわ。できるんでしょ?」
(俺の固有魔法のことは知ってるのか……)
キイチはためらいがちに無限解像でPCを見る。
「システムが……二つ入ってる?」
確かにこれはノートPCとして完全に機能している。だが、その筐体の中にはもう一台、コンピュータが入っていた。
「これ……スマートフォンが入っているのか?」
「そう。ノートPCの電源が入っていなくても、この中のスマートフォンは動き続けてGPSの位置情報を送ってくる。それに加えて自動的に付近の無線LANの暗号解読を行う。時間的にはそろそろ解読が完了するころね」
キイチはカナの手際の良さに声を失う。こいつは俺なんかよりもよっぽど着々と任務をこなしている。たかだか、アンジェリカの邪魔をする乗客を排除したり、車やドローンから逃げたりするだけの俺とは比べものにならない。
俺は……俺はなんて中途半端なんだ。
あのとき、ドローンから身を挺して俺を護ろうとしたアンジェリカを見て、俺は自分の無力を嘆いたんじゃないのか。
また、自分の無力を棚に上げて、俺は綺麗事だけを言って、なにもしないまま、誰かに助けられるのを待つだけなのか。
それでいいのか。
「……いいわけがないよな」
ぱん、と両手で自分の頬を叩くと、キイチは眦を決して言った。
「決めたよ。俺は何も失わない、それも覚悟だ」
カナは何も言わず、無表情にキイチを見つめる。
「調査なんて中途半端なことを言ってるからダメなんだ。セブンアイズ・タワーを倒壊させようとしているのがN/Aだって言うんなら、それを潰す。任務以上のことをやるんだから、魔対だって文句はないはずだ」
「魔対が望んでるのはテロ阻止じゃなくて、それを口実にした介入だから阻止されると困ると思うけど?」
うぐ、とキイチが口ごもる。
「……任務だから、じゃないんだ。アンジェリカの命を執拗に狙っているということだけで理由としては十分だ。たとえ計画が本当だろうがどうだろうが構わない」
「でも、キラードローンの標的はアンジェリカじゃなくてキーくんだったけど?」
「え、マジ?」
「気づいてなかったの? もし標的がアンジェリカだったら、自分の身体を盾にしてキーくんの前に立ちはだかるのはただの愚行よ」
たしかに。
でもなんで俺狙われたの? キイチの眉間にしわが寄る。
沈黙する二人。
「た、たとえ一人でもやってみせる!」
「もう根拠も放棄したのね。男らしくてきゅんとするわ」
「う、うるさい。お前になんか頼らなくったって大丈夫だからな」
「キーくん」
静かにカナが告げる。
「あたしは命をかけてるって言ったのよ? キーくんがどんな決断をするにしても、それがすべての世界を敵に回すことだったとしても、あたしはキーくんを助けるわ」
「お、おう……ありがと」
――まったく、調子狂うな。
キイチはカナに翻弄されて、いつの間にか以前と同じように話ができるようになっていることに気づいた。
ちくしょう。嬉しいじゃないか。
キイチはもう一度「ありがとう」と口に出した。
それを耳にして、今まで無表情だったカナは「べ、別に」と赤い顔で目を背けた。
(やっぱりこいつはよく分からんな)
キイチが呆れ顔でカナを見る。
そういうキイチの表情も以前とは少しばかり変わっていた。




