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第二章 その8 見えない車両と消えた車両

きりのいいところで切ったら短くなってしまいました。

 隣接する線路のはるか前方に、タイプの異なる保守作業車がいた。速度は遅いながらも動いている。そこから一人の作業服の男が飛び降り、逃げていくのが見えた。

(やっぱりそうか!)

 アンジェリカの不可解なキータイプ、キイチの言葉を遮るような様子、唐突な話題、不自然な物言い、そしてそこから導かれる仮説。

 保守用車基地・保守作業車は管制システムの管理下にない。

 つまり、アンジェリカのPCからは運行モニタ上に表示されない、あの保守作業車を停止する術がないということだ。保守作業車の走る線路はその先でキイチたちの電車の線路に合流する。このままだとあと十数秒後には衝突してしまう。

 キイチは窓から顔を引っ込めると、先頭車両に向かった。このまま放っておけば大惨事だ。アンジェリカのPCから無限解像(アンリミテツド・レゾリユーシヨン)でシステムに侵入、それからなにができる? 全システムの強制シャットダウンならいけるか。いや、それじゃ自然停止にしかならない。この速度だと停止するまでに二駅くらいはかかる。じゃあ、ATSの制御を取り戻すか? 乗っ取りならともかく、システムを破壊されていたら戻せない……。

 考えがまとまらない。だが、そんなことよりも、死亡率のもっとも高い先頭車両に女の子一人置いていくなんてことができるか。

 キイチが先頭車両に続く車両間ドアに手をかけた、そのときだった。

 ガコン、という音と振動とともに、急制動がかかった。キイチはドアに激突し、倒れ込んだ。

 立ち上がろうとしても激しいGがかかっていて、ドアに張り付いたまま身動きができない。電車全体から耳障りな金属音が長く続き、キイチは倒れたまま耳を塞ぐ。音が次第に小さくなっていくとともに速度も落ちてきた。

 衝撃で開いたドアの隙間から見えたのは保守作業車だった。保守作業車はじわじわと近づいてきて、そして衝突した。耳をつんざく酷い破壊音と体が浮かび上がるほどの衝撃。フレームに歪みが生じたのか、窓ガラスが一斉に砕け散る。

 そしてようやく暴走電車は停止した。

 キイチがよろよろと立ち上がって後ろを振り返ると、ドアのガラスごしにまっすぐに最後尾まで見通せた。脱線した車両はない。

 そしてもう一度前を見た。そこにいるのはやはり保守作業車で、だが、それはありえないはずだった。

「先頭車両は……どこに行った?」

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