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8-4

スライムは知らない。

この世界を。

スライムは知らない。

何故人を殺すのかを。

スライムは知らない。

自身を支配する存在を。

スライムは知らない。

この世界の神を。

ただ生きるのは人を殺すよう命令されているからに他ならない。


中級スライムは一人の人間に気づく。

その人間が何をしようとしているのか、その緩やかに動く脳を使い考え、魔力を感じないため害はないと判断した。

しかし、全ての人間を殺すために生まれた以上、例外は許さない。

中級スライムは体の端を少しだけ千切った。その先から生まれた子に命令を下す。


その人間を殺せ、と。


スライムたちがその人間を殺そうと動き出す。

その人間は不思議なことに、自身のすぐ側まで伸びる階段の上にいた。先ほどまで無かった建築物である。それがどのようにして生まれたか考えるがそれが危険な力とまで考えない。考えるだけの学と知が無かった。


ふいに。

形容しがたい恐怖を中級スライムを襲った。

それは今まで感じたことのないものだった。


「無から有へ」


人間が呟いた。


「有から無へ」


中級スライムは人間が何を言っているのか理解出来ない。


「スライムに死を」


その言葉と同時に子との繋がりが途絶えた。それが子の死だと気づくと中級スライムは進行を止めた。

その人間は不思議そうに手を眺めていた。


「そうか。やっとで出来たぞ。これが有から無へ変える力か」


人間は再び中級スライムに向けて手をかざす。

中級スライムは気づく。

それが意味のないものと。

それが向けられた時。

自身の先に死しかないことを。



気づいた時。

中級スライムは真っ暗な水の闇の中にいた。

有を無へ。

いや、違う。

これは有を無に変え、違う地で無を有へ変えるもの。

そう、ただの強制移動させる力。

ただこれで十分だ。


中級スライムはゆっくりと落ちていく自身の体が少しずつ水圧に押しつぶされ、原型を保てないでいることに気づく。

やがて胴体が千切れ、千切れ、千切れ。

ゆっくりと再生不可の状態になるまで。

ゆっくりとスライムにとっての死まで。

ただ待つだけ。

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