序章~存在の過去話~
その光景に対して理解が追いつかなかった。
いや、追いつくとかの話ではない。
それは過去のフラッシュバック。
トラウマ。
忘れられない事故や事件。
そんなものは無いはずなのにそれはその存在の全てを止めた、もしくは停めたか。
それでもと奮い立たせても理解しようと思うが反面、硬直して動かせない。
自分の腕の中で絶え絶えの黒い大きな塊を抱いてその上部に触れると僅かに動くが次第に小さくなり、その後僅かな温かさが抜けていく。
全く涙は出なかった。
自然と、煙る空に向かって咆哮していた。
不思議な感覚を全身に浴びながら、全方位から殺意が込められていた。
目の前には餌が自信を屠るために臨戦態勢に。
不思議な感覚は自分の口の端を吊り上げる。
その光景は別視点から見れば大量虐殺に見えるだろう。
何処かの何かが即座に訴えを起こすだろう。
そんな光景が数分の間に行われ一つの存在を残して紅きもしくは赤き溜まりに冷めた肉の塊を横たえる生物の形をした餌の中心で佇む存在は用意していた器に溜まり一滴残さず回収してその場を後にした。
残るは静寂と虚無。
目に見えてその風景は嗚咽しがたく、鼻で嗤う隣の者に対して冷めている心を悟らせないように涙を流して絶叫する。
遠くの方から咆哮が響いてくる。
更に嘲笑う隣の者。
そんなに何が面白いのか。可笑しいのか。
冷めた視線をその者に向けるが気づかない。
自分に酔っているのだと理解する。
涙を流して糞尿を撒き散らす元相棒。
疑問の言葉を此方に投げかれられて、
「ああ、うえからのめいれいで、あなたをふくめてぜいいんをころしつくせだって。だからきみをふくめて、ころすんだよ。ざんねんだね。まあ、そんなものがなくてもあなたをころすことにはかわりないんだけど」
驚愕の表情を浮かべる間もなく存在に細切れにされ土に他の肉塊と同じように埋められた。
側には相棒が寄り添った。
笑う相手に為すすべもなく見上げるだけの存在。
仲間であったそれらは黒ずみと成り果てていた。
相棒は基地に残してきた。
吠えても届かず。
歯痒さを噛み締めて只々唸りながら見上げるだけだった。
その瞬間、その相手は誰かに撃ち殺された。何の前兆も無く、相手は死を迎えた。
その存在は驚いたが、それを考える時間も事も忘れて基地に急いで帰った。
どんなに頑張っても無意味だと気づかされた。だから、目の前の事態に体が心が動かなかった。隣の相棒も同じだった。
悲鳴。絶叫。嗚咽。怨嗟。
拒絶。拒否。駆逐。
そんな簡単なものに周囲が動かされ、そして、絶望した。
だから何の心残りもなく。罪と解っていても全てを投げ捨てて逃げた。
一人の存在と、一つの存在で。
最後に残っている記憶はなんだろうか。
今更な話だけどそんな事を考えてしまう自分はやはり、未練があるのだろうとさいにんしきさせられた。
傍らの相棒も命が尽きかけている。
これまでの時間。何を目的に生きていたのか考えるのも面倒だと思う。
そんなの無駄だと知っていたから。
これまで奪ってきた時間はどれだけなのだろうか。
そんなどうでも良い事を頭に過らせてしまう辺りはやはり生物として当たり前の後悔の思考なのだろうと。
少しずつ視界が狭まってくる。
死を感じて声が耳に障る。
瞬時に自身の声だと気づくとこれまでの時間で満ち足りた事は無かった。
正直に最悪な気分しかなく、だからこれでこんな下らない世界から解放されるのだと思うと嬉しさで一杯だった。