表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/72


後部扉から場内に入り込む。


観客席は佐伯の芝居に魅了され、水を打ったように静まり返っていた。


「僕は悠人に芝居を引き延ばすよう指示するから、君は早く岬くんを探すんだ」


すでにサティの死期を演じる佐伯は、しわがれ声で舞台にうずくまっていた。


「え?この状況で無理でしょ、どうやって――」


「いいから、早く!」


俺は半信半疑で、それでも言われるがまま、一列一列観客席をのぞいて回った。


招かれざる客を、みな顔をしかめて振り返る。


だが観客の顔がはっきりと分かるぶん、今の俺には都合がよかった。


と、その時――。


座席のあちら側で俺と同じことをしている男たちの姿が目に入った。


SPみたいに体格の良い理事長の取り巻きたちだった。




「やべ……」


目が合った瞬間、男の一人が会場の後ろに回り込み、俺に向かって猛ダッシュしてきた。


肉食獣のような鬼気迫る走りだ。


俺は暗闇の中、手すりをつたって最前列まで階段を駆け降りた。


舞台上で死にかけのサティが、かすかに顔を上げた。 


そこに突然、シンバルの音が鳴り響く。


オーケストラブースに飛び込んだ蒼井さんが、あろうことか指揮者を突き飛ばし、タクトを奪い取ったのだ。


レクイエムが急にテンポアップした。


事態を把握したのか、佐伯は酩酊したように再び立ち上がり叫んだ。


「シュザンヌはどこだ!隠れてないで出て来い!」


山高帽を天高く放り投げると、俺を追ってきていた男の顔面に命中させる。


俺はその隙に舞台裏へと走り込んだ。


「通用路……」


舞台裏の廊下に、表へ通じる通用路があった。


不気味に扉が開かれ、薄暗い廊下に外の光が差仕込んでいる。


「まさか……」


予感は的中した。


「恵介っ――!」


裏に乗り付けたリムジンに、今まさに岬が引き込まれるところだった。


俺は近くにあった掃除用のモップを振り回し、男を牽制した。


「ジョージ!」


男の手を離れた岬が俺に駆け寄ってくる。


リムジンの後部座席から悪魔のような表情で理事長が下りてきた。




「恵介の様子がおかしいと思ったら……やっぱりお前か。何を企んでる?」


肉体派の男は、モップの端をつかんで俺から取り上げ放り投げる。


俺は後ろに岬を庇って後ずさった。


「簡単さ、あんたには自分がしたことの責任をとってもらう。俺はあんたが恵介に何をしたか、全部知ってるんだ!」


後ろから追手が来るのも時間の問題だった。

 

「ほう。大人しくここから去ると言うから今日まで置いておいてやったのに……もっと早くに、お前を潰しておくべきだったな」


余裕綽々に言って、理事長は男を顎でけしかける。


「室井みたいにか……」


男が俺に向かってゆっくりと歩を進めた。


通用路からも、俺を追ってきた男たちがそろって三人現れる。


会場の裏手は人通りもなく死角。


四面楚歌――絶体絶命だった。


「そうだ。私の邪魔をするヤツはどんな虫ケラでも潰しておかなくてはな。結城丈児、お前また舞台に立ちたいだろう?こんなところで恵介のために嬲り殺されて本望か?恵介、今ならまだ許してやるぞ。自分から私の元に戻るんだ」


わざと穏やかに、理事長は両手を広げた。


男の手刀が、突如頭上から振り下ろされた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ