表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/72


夕刻になって、俺は解放された。


わけも分からないまま寮に戻ると、それを見計らったように潮田のおっさんから電話がかかってきた。


「ジョージ! 一体どういうことだ?」


「どういうことって……」


受話器から飛び出してきそうな剣幕で、おっさんはがなりたてた。


「校長から電話で聞いたぞ。来月一杯で退学するって言ったそうじゃないか!それもなんだ?理事長の坊ちゃんをボコボコにしたんだって?一体どういうつもりだ!」


「……そう、なってるのか?」


どうやら俺は、罪を認めてこの学院を去るという条件で解放されたらしかった。


「人ごとみたいに言いやがって、ちゃんと説明しろよ!入学してまだ一ヶ月だぞ?」


説明するも何も、一番事情が飲み込めていないのはこの俺なのだ。


「黙ってないでなんとか言え!」


途方にくれていると、部屋から姿を現した佐伯が俺を手招きした。


「ごめん、おっさん。今はなんとも言えないわ。でも俺、間違ったことはしてないから」


それだけ言うと、俺は一方的に電話を切った。


「ジョージ、やっと出所してきたか」


小走りで部屋に戻った俺を、佐伯は笑顔で迎え入れた。


「蒼井さん」


部屋の中には蒼井さんがいた。


「ごめんね。驚いただろう?」


「驚くも何も、意味分んないまんまです」


俺はクローゼットの陰に隠れ、昨日から着たきりだった制服を脱ぎ捨てた。


「でもどうやら俺は、来月一杯でここを去ることになってるらしいっすね……」


私服に袖を通し顔をのぞかせる俺に、蒼井さんは肩をすくめて見せる。


「そう。上を納得させるにはこっちから退学を申し出るしかなかったんだ」


「行き当たりばったりというやつだぞ、ジョージ」


「それを言うな、悠人」


茶化す佐伯に、蒼井さんは顔を赤らめてみせる。


まんざら冗談でもないらしい。


「しょうがないよ、俺がいいって言ったんだから。でもその、来月一杯ってのは何?」


「時間稼ぎだよ。来月末に文化祭があるから、それだけは参加したがってるって同情を買ったの」


それで、執行猶予一ヶ月か。


「一ヶ月の間に、理事長の本性を暴いて退学を取り消すことが出来ればお前の勝ち。それができなきゃ――」


佐伯は長い脚を組んで、呑気に紅茶を啜る。


「俺様のサティが冥土の土産だな」



「それ、最低だな」


一寸先は闇。


ついこの間までこいつと同じ舞台に立つ気でいたのに、今の俺は行き場を失った崖っぷちだ。


「とりあえず、岬に会って真実を確かめなきゃ」


俺は着替えてすぐ、岬に会いに行く気でいた。


「バカ、そんなことできるわけないだろう」


佐伯が、玄関へ向かう俺を呆れた声で呼び止める。


「なんで?」


「理事長は、ボディーガードまで雇って岬くんを完全に部屋に閉じ込めてる。表向きは室井くんの事件があった上、岬くんは君に暴行されたことになってるからね」


蒼井さんは俺を宥めるようにベッドに座らせた。


「それじゃ、岬とは会えないの?」


俺は二人の手前平静を装いたかったが、思いのほか情けない声を出していた。


「ロミオとジュリエットだな、こりゃ」


佐伯はゴロリと自分のベッドに横になった。


「こんな時までオネムかよ!」


俺はイライラして佐伯に枕を投げつけた。


「眠いに決まってるだろ。誰が真夜中にクマちゃん差し入れしてやったと思ってるんだ!」


枕が佐伯の手からブーメランのように戻ってきて、俺の顔面に直撃する。


「待てよ……」


一発食らった俺はひらめいた。



佐伯が顔を上げる。


きっと佐伯も同じことを考えついたはずだった。


「ロッククライミングか!」


案の定、同時に叫ぶ。


「ダメダメ、そんなの。危険すぎる!」

 

俺たちのやろうとしていることを理解した蒼井さんが、険しい顔で首を振った。


「大丈夫だよ。俺、運動神経はいいから」

 

「だからって怪我でもしたらどうするの?」


「でも岬に会わなきゃ!会わなきゃなんにも始まらないんだ!」


恋は盲目とはよくいったものだ。


俺は既に自分の危険を省みる頭など持たなかった。


「ミツキ、止めても無駄だ。今ヘタに止めたらこいつ正面突破しかねないぞ?それこそまた大問題になる」


佐伯は、どこか楽しんでいるようだった。


「ジョージ、金曜の夜まで待て。俺がその間にお前をスパイダーマンにしてやるから」


「なんで金曜?」


首を傾げる俺を尻目に、佐伯は満面の笑みで頷いた。


「悠人、お前まさかこんな時に……」


何事か悟った蒼井さんは大きなため息を吐いた。


「ただ夜這いかけるだけじゃつまんないだろ。それにこんな時だからこそだよ。たまにはパアっとやろうじゃないか?なあミツキ」


蒼井さんは、かけていた眼鏡を外し目頭を押さえた。


「蒼井さん……?」


いつもの穏やかな目つきが一変する。


「どうなっても知らないからな」


蒼井さんは、今まで見たこともないワイルドな顔をして笑った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ