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相手が3人だろうが、ケンカなんかしたことなさそうな坊ちゃん連中だ。


まとめてかかってきたって負けるはずなかった。


『くれぐれも問題を起こすな』って潮田のおっさんが言ってたけど――転校初日からとんだことになってしまった。


「痛い目見たからって、泣いてママに言いつけんなよ?」


だが今さら…引き下がれない。


「このやろうっ…!」


逃げ腰の取り巻き2人にイラついた室井が、単身俺につかみかかってくる。


一触即発――その時だった。


「君たち、なにしてるんだ!」


よく通る声が、どこからか勝負に水を差した。


ぐるりとあたりを見渡すと、寮の2階の窓から男が身を乗り出しているのが見えた。


「寮長だ!」


「やばいよ室井くんっ…僕たち行くよ!」


彼の姿を目にした途端、室井の取り巻きはリーダーを裏切りそそくさと逃げて行った。


取り残された室井の顔も、心なしか青い。


どちらが真のリーダーか、内状を知らない俺にも一瞬にして分かった。


エセインテリの室井と比べ、窓際の男は本物の実力者たる風格を漂わせていた。


細いフレームの眼鏡をかけた、一見物静かな風貌。


だが眼鏡の奥に光る切れ長の瞳には、知性だけでなく歌舞伎の花形役者のような強いカリスマがあった――。


「室井くん、僕の部屋に来なさい。早く!」


彼は室井を促しつつも、けして俺から視線を外すことはなかった。


「今日のこと絶対後悔させてやるからな、野蛮人」


室井は俺をねめつけながらも、素直に彼の言うことをきいて引き下がった。


力の差は歴然としていた。


「またな、ミサキ姫」


最後に木陰に立ちつくす美少年――ミサキ姫を一睨みすると、室井はそそくさと寮の中へ戻って行った。


長い指を組んで、寮長と呼ばれた男はいまだ俺を見下ろしていた。


かすかに微笑んでいるように見えたが、きっと気のせいだろう。


そのうち俺にもお咎めがくるはずだ。


やがて彼は何事もなかったかのように建物の中へ消えた。



結果的に――。


「あの、さ…」


俺は絶世の美少年と2人、夕闇の迫る裏庭に取り残されてしまった。


『花の蜜めがけて飛んできただけなんだろ――?』


室井の野郎がそんなこと口走ったせいで、なんだかとても気まずい。


ただでさえ俺の登場の仕方は普通じゃなかったし。


「なんか分かんないけど、災難だったな…」


ひきつる笑顔で、意味のない言葉をかける。


分かってる。


女の子と初デートした時だって、ここまでひどくはなかった。



目の前にいるのは、同性で、同年代で、なおかつ同じ男子校の生徒だっていうのに――。


なのに俺は死ぬほど緊張していた。


落ちつけ…そう自分に言い聞かせてみるものの、やはり真正面から彼の顔を見ることはできなかった。


沈黙が重い岩のようにのしかかる――。


「あの…大丈夫か?」


なにか言わなくてはと、一息置いてようやく口を開いた俺に――。


「あんたこそ、大丈夫かよ――?」


突然、氷よりも冷たい声が返ってきた。


「――え?」


俺はあたり一辺見回した。


もちろん俺と彼以外誰もいない。


なにかの間違いだ。


こんな可憐な人間があんな風に言うはずない――。


そう思いたかった。


だが、今度はその愛らしい口から。


「あんたみたいなの迷惑だから、2度と僕にかかわらないでくれ」


はっきりとそう聞こえた。


………。


視線さえ交わさないまま、彼は俺の横を通りすぎてゆく。


感謝されるのを期待したわけじゃない。


礼なんか言われなくたって構わない。


でもこれは――。


「ちょっ…待てよっ…!」


ひどすぎる――。


呆然としていた俺が振り返った時にはもう、彼の姿はどこにもなかった。


「なんだよ!こっちだって2度とゴメンだ!なんだよ、ミサキ姫ってっ!」


俺は1人狂ったようにわめき散らした。


だがもう、誰も姿を現しはしなかった。




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