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たしかに嫌味なヤツだ。


だけど俺の予想に反して、室井はとても誰かに暴力を振るったり、カツアゲしたりするようなタイプの人間には見えなかった。


金持ちの坊ちゃんを絵に描いたような、神経質そうなインテリ風の男だった。


「で、なんの用?」


冷静に尋ねられると、いささか困る。


俺はもっとこう、手に負えない悪を想像していたから、こんな風に闘争心むき出しで登場したわけだ。


まさか衝動だけで追いかけっこに参加したと言う訳にもいくまい。


「いや、あの…」


俺は言葉に詰まったまま、衝動の火種におそるおそる目をやった。


自分の頬がみるみる紅潮してゆくのが分かる。


ゼロコンマでとらえた彼の美しさは、けして瞬間的な目の錯覚などではなかった。


とても同性とは思えない繊細な作り。


正直、本能的に引き寄せられ、体が反応してしまいそうになる。


俺は男の顔をまともに直視できない自分に戸惑った。


「彼が、困ってんのかなぁと思って…」


つい、口をついて出た。


だが、2択のクイズだったとしても今の解答は間違いだ。


肝心の彼の瞳に浮かんでいたのは、男たちに絡まれている恐怖でも、助けに入った俺への感謝でもなく――。


ただ面倒事がもうひとつ増えたという倦怠感だけだった。



「そうか、あんたも転入早々こいつにやられたクチかよ」


室井がニヤリと笑って木陰のニンフに向き直る。


「…どういう意味だよ?」


言葉通り、俺にはその意味が汲み取れない。


「隠さなくてもいいよ。初めはみんなこいつにまいっちまうんだ。この見てくれだから仕方ないさ。たとえあんたがストレートの男でも――こいつは普通の男とは違うから」


「普通の男と…違う?」


本人を目の前にしてそんな言葉を発する室井に、俺はあからさま動揺していた。


だが傍らに立つ当の本人は、怒りなどという下俗な感情は持ち合わせていないとでも言うように、顔色一つ変えず、夕風にそよぐ木の葉をぼんやり眺めていた。


「図星だろ?あんた、花の蜜めがけて飛んできただけなんだろ?やめとけよ、芸能界捨ててきたんだか知らないけど、ここではおとなしくしてた方が身のためなんじゃない?」


一方下世話な俺は、この室井という男に頭の中をかき乱されていた。


こいつは神経質そうに見えてどこまでも無神経。


他人の傷口に、平気で塩を塗るタイプの人間だ。


頭でっかちのエセインテリが口を開く度、腹の底から沸々と怒りがこみあげてくるのが分かった。


「おい、結城くんも知りたがってるぜ?お前が普通の男とどう違うのかって。俺にも教えてくれよ、ミサキ姫――」


再び室井が彼に絡んだ。


本当のところ、室井の言ってることはさっぱり分からなかった。


それでも俺は、彼を蔑む室井をどうしても許すことはできなかった。


「女みたいな顔しやがって!なんとか言ったらどうだ?」


室井が、ミサキ姫と呼ばれた彼の白い頬に汚い手をかけた。


その瞬間――。


「――やめろよ」


俺にとって言葉の意味など全く重要じゃなくなった。


「――室井くんっ!」


殺気を感じたのか、室井の取り巻きたちの声が裏返る。


「その手をどけろっつってんだよ!」


俺は本能のまま室井の胸倉をつかみ上げ、拳を1発お見舞いしていた。


「なっ…なにすんだよ!」


へなへなと地面に女座りして、室井は甲高い声を上げた。


口ではごちゃごちゃ言ってるが、誰かに手を上げられたことなんかないのだろう。


「お前こそ女の腐ったのみてーじゃねえか!」


俺の怒鳴り声にすくんだ取り巻きたちが、駆け寄って室井を助け起こす。


「お前っ…こんなことしてただですむと思ってるのか!」


白いブラウスを泥だらけにした室井はどうにか立ち上がり、蛇みたいな目で俺を睨みつけた。


「やんのか?腰ヌケども、来いよ?」


エキサイトしてきた俺は笑顔で挑発してやる。




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