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主人公


「またいつものお仕事か、庭村?」


 色々あった翌日のこと。

 クエストは出なかったが、昨日と同じように野球部のマネージャー業を終える。一息つこうと部室のベンチに座ったその時、来客がやってきた。いつものお節介教師、田中美琴先生だ。


「田中先生、お身体は大丈夫なんですか?」


「多摩川先生にはしつこく言われたが、まあ気にかけてる生徒と会話するだけなら、あいつも許してくれるだろ」


 気にかけてる生徒。おそらく俺のことだろう。

 気にかけられている自覚はあった。だが、その言葉が田中先生の口から出たのは驚いた。

 生徒への対応に差があることなど、田中先生は自分にさえ許しはしないだろうと思っていたからだ。


「昨日の話、私が倒れてしまったせいで途中で終わってしまっただろう? だから、今日はその続きをしようと思ってな」


「昨日の話っていうのは?」


「私の鞄に入ってたメモ帳の話だ」


 メモ帳、その言葉に俺の心臓はどきりと跳ねた。


「昨日は、あのメモ帳を庭村に渡してしまったんだが、実は持ち主が見つかってな。だから、あのメモ帳を返して欲しいんだよ」


「......え?」


 想定していなかった言葉に、俺の思考はショートする。


「あのメモ帳、本当に庭村のなのか? 名前も書いてなかったみたいだし、別のメモ帳と勘違いしたりしてないか?」


 昨日、帰ってから俺が持っていたメモ帳と田中先生からメモ帳を並べて確認したが、やはり同じものだった。

 さらに調べてみたところ、そのメモ帳は今は販売していないものだったのだ。つまり、誰かが持っていたメモ帳が田中先生の鞄に紛れ込んでいた可能性は限りなく低い。

 だが、それを証明するものもなければ、あったとしても証明するわけにもいかない。

 だったら、ここはメモ帳を渡す方が得策ではないだろうか? あのメモ帳が誰かのものである可能性は限りなく低いとは言え、ゼロではないのだし。


「......分かりました。でも家に置いてるので、また明日持ってきます」


「そうか、分かった。ちなみにだが、昨日あのメモ帳を見た時、庭村はやけに動揺していたように見えたが。どうしてだ?」


 田中先生の目はどこかこちらの心を見透かしているように思える、と常々脳内で語ってはいたが、今日は一段とそれを感じる。

 いつも以上に、俺の心の機微を見逃さんとする意志を感じる。


「......」


 俺は、蛇に睨まれたカエルのように何も言えなくなった。


 バチン!!


 突然、田中先生は、両手で自分の顔を凄い勢いで挟んだ。当然ながら、田中先生の頬は物理的な原因により真っ赤に染まる。


「え」


「......ふぅ、すまんな。やっぱりこういう遠回しなやり方は、私には向いてないみたいだ」


 先ほどの鋭い目は田中先生の顔から気配を消し、いつもの生徒を優しく見守るような目が現れた。


「単刀直入に言う。庭村、お前は今何に悩んでる? 私は今の担任じゃないが、誰よりもお前のことを気にかけている自信はある。先生としては間違っているのかもしれない。だが、今の私は先生としてではなく、庭村を良く知る人間としてお前の役に立ちたいと思ってるんだ。

 だから頼む。お前が今抱えているものを、私に半分抱えさせてくれないか?」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 そもそもの話、俺は別に悩んでなどいない。(本当に? 突然得体の知れない事態に巻き込まれて、不安感に苛まれなかったか?)


 そもそもの話、今回のことは、俺の幻覚である可能性が高い。(表示されたクエスト報酬が現実に現れているのに? 幻覚だと思っているのなら、どうして病院に行ったりして誰かに相談しなかったんだ?)


 そもそもの話、俺は割と楽観的だから、こう言った状況も楽しんでたりする。(楽観的であろうとしただけじゃないのか? 本当は、最悪の可能性を考えて、日々恐怖に押しつぶされていたんじゃないのか?)


 そもそもの話、リアルクエストに振り回されたり、鬼塚先生にこき使われたりしたのは、俺のこの流されがちな性格が悪かったりする。(本当に俺だけが悪いのか?)


 そもそもの話、頼れる人がいなくて困っていたのは、俺が人との交流を怠っていたのが原因だったりする。(俺に話しかけてくれる人がいたら少し変わってたんじゃないのか?)


 そもそもの話、頼れる人は本当にいたはずなのに、俺はその人たちを信じることができなくて、一人で抱え込んでいたのがことの発端だだりする。(俺の様子のおかしさに気付いて誰かが気にかけてくれても良かったんじゃないのか?)


 そもそもの話、今起きていることが非現実的すぎて、俺はまだ夢の中にいる気でいる。(そもそも、こんな事態に追いやった"大罪"や"南道グループ"が悪いんじゃないか?)


 そもそもの話、



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



『お前が今抱えているものを、私に半分抱えさせてくれないか?』


 耳に届いた言葉を脳内で反芻する。そして、何度も何度もその言葉を噛み砕いて理解する。


「......半分、って何ですか? 俺にも抱えてる全部が分かんないのに、半分なんて調節できるわけないじゃないですか?」


「じゃあお前が楽になるまで全部寄越せ」


「どうやってですか? 話したところで、楽になれるわけないじゃないですか? 先生に全部託したところで、それよりももっと大きな罪悪感を覚えるだけじゃないですか。

 誰かを頼ることで、誰かが苦しむ様を見て罪悪感を覚えるくらいなら、最初から俺一人が苦しめば良い」


「でも、その苦しさに耐えられないんだろ?」


「当たり前じゃないですか!? 異世界に飛ばされたりとか訳の分からない能力を与えられたりとかして、平然としてられるやつなんて普通いませんよ!! 物語の主人公以外、いるわけないじゃないですか!! そもそも!!」


 そもそも、目の前に文字が浮かぶなんて、気持ち悪いからやめて欲しい。


 そもそも、学級委員でも何でもない俺に色々面倒ごと押し付けるのはやめてほしい。


 そもそも、"大罪"とかいう凶悪集団と少しでも関わりを持たせるのはやめてほしい。


 そもそも、野球部員なのに、野球じゃなくてマネージャー業をさせるのをやめて欲しい。


 そもそも、勝手な理論を俺に押し付けないで欲しい。


 そもそも、幽霊とか苦手なのに、触れろとか言わないで欲しい。


 そもそも、喋るのが苦手なのに、俺に語り手をさせないで欲しい。


 そもそも。


「俺は、主人公になるなら、ラブコメの主人公がいい!!」



 ということで、次回からラブコメ始めます(狂気)(大嘘)

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