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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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エピローグ

 今よりおよそ一千年前、聖暦一〇五〇年前後に発生した純粋派ノーザーランド人による入植は、ダリアンデル地方における歴史の転換点として知られている。


 当初は侵略的な入植者としてダリアンデル地方南部で猛威を振るった純粋派は、ダリアンデル人諸勢力の反撃を受け、さらには当時ダリアンデル地方北西部に入植していた穏健派ノーザーランド人からも敵対され、敗走して勢力を大幅に縮小。以降は大規模な侵略行動をとることはなく、単なる一地域の支配勢力となった。

 現在では廃れているラクリナレス教の狂信的な信徒であった彼らは、ダリアンデル地方に根付いてから数世代をかけて穏健化していったことが文献から分かっている。出身地であるノーザーランドと比べて遥かに肥沃なダリアンデル地方で余裕のある生活を送るうちに、先鋭化した信仰を保つ必要性を失ったためと推測されている。


 この純粋派ノーザーランド人の穏健化と並行して、彼らが当初は奴隷として、後に非自由民として従えていたダリアンデル人住民との混血、そして周辺のダリアンデル人勢力との平和的交流が進んだ。その結果、彼ら純粋派よりも遥かに器用にダリアンデル地方社会に馴染んでいった穏健派ノーザーランド人と最終的には合流し、純粋派と穏健派という区別は意味をなさなくなった。

 入植者としてのノーザーランド人に言及する文献は時代を経るごとに少なくなり、彼らは数百年をかけてダリアンデル人と完全に同化していったものと考えられている。ダリアンデル地方へのノーザーランド人入植の痕跡は、今では地名や人名、一部地域の文化(主に西部の各地で行われている、ラクリナレス教の宗教行事を起源とする祭りなど)として残るのみである。


 このように、ノーザーランド人による入植の直接的な影響が限定的だった一方で、間接的な影響――入植に対するダリアンデル人の反応は非常に大きなものとなった。


 それまでは「領主」と呼ばれる支配者層による中小規模の勢力圏が各地に林立していたダリアンデル地方において、外敵による大規模な侵略は、それに対抗するかたちで大勢力の誕生を加速させた。短期間のうちに各地域で国やそれに準ずる共同体が形成され、他の地域に先駆けて王国が生まれたダリアンデル地方南東部においても、中央集権化など国家としての成長が迅速に進むこととなった。

 そうして社会が洗練され安定した結果、ダリアンデル地方の政治的・商業的・文化的発展が大きく進み、人口も急増。それまで大陸においてどちらかといえば未発展の地域とされてきたダリアンデル地方は、存在感を大きく増していくこととなった。


 このようにして聖暦一〇五〇年頃から大きく動いていったダリアンデル地方の中世史において、歴史の表舞台にはあまり登場しないものの、一部で注目を集めてきたのがヴァレンタイン領――現在のヴァレンタイン市である。

 ダリアンデル共和国において第四の都市であるユーティライネン州エルトポリ市、その都市圏の西端に位置するヴァレンタイン市は、人口や経済の規模ではごく平凡な郊外に過ぎない。しかし歴史的には、幾つかの点で重要な場所となっている。


 まず、純粋派ノーザーランド人とダリアンデル人との戦争においては、当時農村だったこの地が主要な戦場のひとつとなった。今も地元の名家として存続しているヴァレンタイン家には、この戦闘の詳細な記録も残されており、当時を知る重要な史料となっている。

 さらにこのヴァレンタイン市は、脱穀機、ふるい機、クローバーを活用した農法、そして砂糖と黒色火薬の製造方法が発明された地として知られている。これらの発明はヴァレンタイン家の初代当主であるミカ・ヴァレンタインによってなされており、晩年に発明された黒色火薬以外は、彼がこの地の領主となってから数年以内に立て続けに実用化されたと言われている。

 いずれの発明も、ダリアンデル地方の社会の安定に伴って徐々に各地へ伝わっていき、この地の発展に大きく寄与することとなった。そのため、歴史学者や愛好家の中には「ミカ・ヴァレンタインがダリアンデル地方の文明を一〇〇年進めた」と語る者もいる。また、革新的な発明を独力で幾つも成した彼を「未来人」とする奇説も一部で語られている。


 ヴァレンタイン家には代々の当主の生没に関する記録が残っており、それによるミカ・ヴァレンタインは、当時としてはかなりの長寿である七十七歳まで生き、奇しくも妻アイラ・ヴァレンタインと同日に、同じベッドに並んで眠るように世を去った。

 ヴァレンタイン市の中心部、ヴァレンタイン城跡である人工の丘にはヴァレンタイン一族の墓所があり、初代当主夫妻は今も丘の上からヴァレンタインの街並みを見守っている。


 当初はごく小規模な農村だったヴァレンタイン領を一代で小都市へと発展させたミカは、しかし生涯にわたって自領を「うちの村」と呼び続けていたという。


 ――マクシミリアン・キャンベル『ダリアンデル史の脇役たち』より抜粋

これにて『うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~』の本編はひとまず完結となります。

およそ一年にわたって本作にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


現在GAノベル様より書籍1巻が発売中です。また、GAコミック様にてコミカライズ企画も進行中です。コミカライズ連載開始の時期が決まりましたら、活動報告や作者エノキスルメのX(旧Twitter)にてお知らせいたします。


また、新作『我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~』の投稿を開始しました。


大帝国の崩壊で秩序が失われつつある世界を舞台に、社会の混乱のどさくさに紛れて辺境で勝手に建国宣言をした傭兵上がりの青年が、野心の向くままに覇道を突き進んでいく戦記譚です。

よろしければこちらもお楽しみいただけますと幸いです。


今後も皆様にお楽しみいただける作品を執筆していけるよう頑張ってまいります。引き続き何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
美しい終わり方で良かったです。 読了感が清々しい。 元領主の人がいつ難癖つけてくるか気になっていたけど、わりといい人でワロタw
 完走お疲れ様です、思った以上に平和的な終わり方でしたぁ。
お兄さんとの再会と和解があったので、そろそろ物語をたたむのかな?とは思っていましたが、割とサラッと終わらせましたね。 正直、もう少し読みたかったし、エピローグも歴史的な俯瞰視点よりもミカの晩年のモノロ…
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