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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第132話 ヴァレンタイン領の戦い③

「村の中で休むのは難しいかと。敵側の遠距離攻撃があまりにも厄介です。特に、あの念魔法使いの操るバリスタが……」

「……そうか。仕方あるまい。奴はおそらく、こうなった場合のことまでを計算してあの位置に自家の城を築いたのだろう」


 ヴァレンタイン領の村を落とし、敵軍を村の北側の城に追い詰めてから間もなく。配下の報告を受けたヴァルナーは、眉根を寄せながら言った。

 まともな家屋の並んでいる村を制圧したヴァルナーとしては、この村をそのまま駐留拠点として利用し、兵たちを屋根と壁のある場所で休ませつつ、城の包囲を成したかった。しかし、敵側が城から牽制として放つ攻撃のせいで、それは叶いそうもない。

 この地の領主と思われる念魔法使いが操るバリスタは、村の全範囲が射程に入っている。バリスタによる強力な一撃は、家々の土壁を貫通して屋内にまで届く。広い村内で矢を受ける可能性はたかが知れているが、だからといって次の瞬間にも矢が飛び込んでくるかもしれない建物の中で緊張を解いて休んだり、落ち着いて軍議をしたりすることは不可能。必然的に、こちらはこのまま村の外で野営せざるを得ない。


「ヴァルナー首長、いっそ家々に火を放ってはどうか? どうせ使い物にならない村だ」

「いや、それは止めておこう。今は無理でも、あの城までを落として敵軍を殲滅した後は、補給や休息や負傷者の手当ての拠点として使える。家々は無事な状態としておきたい」


 指揮下の首長の一人に問われ、ヴァルナーはそう答えた。

 この国境地帯を突破した後も、ノイシュレン王国内を蹂躙する戦いはしばらく続く。その際、西から通じる街道沿いに拠点として使える村がある方が好都合。憂さ晴らし以上の意味がない破壊行為は承諾できなかった。


「敵のバリスタの矢は届かないができるだけ村に近い位置に野営地を移し、明日は休んだ上で明後日に城を攻める。諸卿は手勢の士気回復に務めてくれ……それと、城の北東と北西に二百ずつ兵力を置き、敵側が丸太柵を越えて逃亡する事態を防ごう。どうやら敵側には女や子供もいる。そうした連中や負傷者が逃げることも叶わないとなれば、奴らは士気を落とすはずだ」


 ヴァルナーの言葉を受け、軍議の議題は各部隊の役割分担や、明後日の攻勢の方法へと移っていく。


・・・・・・


「ミカ様、村の方はまだ無事ですか?」

「私たちの家、壊されてたり燃やされたりしてませんか?」


 ヴァレンタイン城へと下がってから二日後の午前。主館の広間の隅でミカに尋ねたのは、ディミトリの妻ビアンカと、ジェレミーの妻イェレナだった。

 さして大きくないヴァレンタイン城に五百人以上が収まっている現在、皆の休む場所が足りず、主館の中まで人で溢れかえっている。広間は重傷者や非戦闘員たちの居場所となっており、ミカたちが普段通りくつろぐことは叶わない。ミカとアイラの個人的な空間として残されているのは、二階の寝室のみとなっている。


「大丈夫だよ。さっき二階の窓から見たけど、敵は相変わらず村の中までは立ち入ってなかった。村を温存して、勝利の後に自分たちの拠点として使うつもりだと見て間違いないだろうね」


 ミカが語ると、ビアンカとイェレナは安堵の表情を浮かべる。特に村の方に自宅のあるイェレナは、ほっと息を吐いて表情を明るくする。


「ミカ、起きたのね。体調はどうかしら?」


 そこへ歩み寄ってきたのは、重傷を負ったヴァレンタイン領民たちに励ましや労いの言葉をかけて回っていたらしいアイラだった。


「おはようアイラ……もう万全だと思うよ。昨日も今日もこんなに朝寝坊したから、魔力も完全に回復したはずだよ」


 一昨日の撤退戦の際、三人の肉体魔法使いを倒して自身が後退した後に味方への援護までを為したミカは、戦いが終わると同時に魔力切れで気絶した。昨日の午前中には目を覚ましたものの完全回復したとは言い難い体調で、今日こうして遅めの起床をした際、ようやく倦怠感が消えていた。


「それならよかったわ……顔色もずいぶん良くなったみたいね、安心したわ」


 間近に顔を寄せてきて言ったアイラと、ミカは軽く口づけを交わし、軽く抱き合う。


「ビアンカもイェレナも、色々とありがとう。こんなに大変な状況になっちゃって本当に申し訳ないけど……」


 女性家臣たちに向き直ってミカが言うと、二人は笑顔で首を横に振る。


「私たちもヴァレンタイン家にお仕えする身ですから。ここに残った以上、覚悟の上です」

「敵の前に立って戦ってる皆の方がもっと大変でしょうから」

「……二人ともさすがだね。すごく頼もしいよ」


 ヴァレンタイン領の女性社会の中核としてすっかり頼れる存在となった二人に、ミカは微笑を浮かべて答えた。


「他の皆の調子はどう? 何か問題はない?」

「ええ、大丈夫です。皆で力を合わせて頑張ってますよ。水は井戸がありますし、食料や布があるかぎり食事作りも重傷者の手当ても問題ありません」


 問われて頷いたのはビアンカだった。彼女はマルセルと共に、非戦闘員たちの指揮役として人員の割り振りや物資の管理までを担っている。


「ヘルガさんの活躍がもの凄いんです。一人で三人分、いえ、五人分くらいの働きをしてくれてますよ。凄まじい速さで野菜を切るあの手つき、まさに神業です!」

「あははっ、さすがは領主家の厨房を長年支えてきたヘルガだね」

「大勢の食事を作ることはお手のものでしょうね」


 続いてイェレナが言うと、ミカとアイラは小さく吹き出す。

 既に七十代の半ばに入り、何年か前に足を悪くしてからは歩くのに杖を必要とし、受け答えも以前よりのんびりとしたものになっている老使用人ヘルガだが、座り仕事では相変わらず熟練の技術を発揮してくれている。今回の戦いにおいては「この歳になって今さら故郷を出たくはない」からと村に残る決断をした彼女は、結果的に頼もしい後方支援戦力となっているようだった。


「ヘルガさんのおかげもあって、五百人分の食事作りも捗ってます……ミカ様、お腹は空いてませんか?」

「ああ、それを言おうと思って二階から降りてきたんだった。昨日の夜もあんなに食べたのに、朝起きたらもうお腹ぺこぺこで。身体が体力と魔力の両方を回復してるせいだろうね」

「それじゃあ、すぐにパンとシチューを持ってきますね。魔石の粉末入りのお茶も」


 ビアンカの問いかけにミカが答えると、イェレナがそう言って裏庭の方へ走っていく。城の厨房では五百人分の食事作りが追いつかず、そもそも今は厨房までもが非戦闘員たちの寝床になっているので、代わって裏庭が食事作りの場となっている。


「ミカ様ぁー!」


 そのとき。イェレナの夫であるジェレミーが入れ違いで広間に飛び込んできて、大声でミカを呼んだ。ミカと目が合って駆け寄ってきた彼は、周囲の皆に気を遣ってか、やや声を潜めて言う。


「敵軍が攻勢の準備を始めてるみたいっす! ヨエルさんが城門の方に来てほしいって!」

「分かった、すぐに行くよ……朝ごはんは落ち着いて食べられなさそうだね」


 ジェレミーに応えたミカは、愛する伴侶の方を向いて苦笑を零す。アイラも気遣わしげな微苦笑を浮かべ、ミカの頬を優しく撫でた。


・・・・・・


「奇策を用いる様子はなく、真正面から攻めてくるつもりのようです。北東と北西に置かれていた敵兵は人数を百ずつに減らしています。正面にできるだけ兵力を集中させるつもりでしょう」


 ヴァレンタイン城の城門直上にある物見台に立ち、ヨエルがそのように状況を説明する。ミカは彼の隣に立ちながら、村の中央広場の辺りまで進出して戦闘用の横隊を組もうと整列を進めている敵兵の群れを眺め、物見台に来る前にイェレナから受け取った朝食をとる。


「まあ、正面から攻勢を受ければ、こっちは敵部隊を突破できるほどの戦力を北東や北西からの脱出に割ける余裕はなくなるからねぇ。百人もいれば確かに十分か……おっと、バリスタやカタパルトまで村に入ってきたねぇ」


 村の西門から敵側の馬に牽かれてバリスタやカタパルトが運ばれてくる様を観察しながら、ミカはパンを齧り、シチューの器に口をつける。物見台の床にパンくずが落ち、シチューも少し零れるが、この状況では行儀の良さなど気にしていられない。


「こちらの防戦準備も進めているので、いつ敵が攻めてきても問題ありません」

「それは何より。さすがヨエルの仕事は抜かりないね……うちの村の中ですんなりと攻勢準備を完了されるのも癪に障るし、ここは景気づけに一発撃っておこうか」


 言いながら、ミカは物見台の東側、丸太柵の裏の足場に置かれているバリスタを「魔法の手」で取る。食事をとる手は止めない。

 ジェレミーが矢を装填してくれたバリスタを広場の方へ向けると、


「皆ぁ! 呑気に整列してる純粋派の連中を驚かせてやるから、よく見ておくんだよぉ! 見ものだよぉ!」


 そう宣言した上で、敵側の隊列の後方、奴隷兵ではなくノーザーランド人たちの並んでいる位置を狙ってバリスタの引き金を引いた。

 重厚な発射音を伴ってくり出された極太の矢は、敵兵のうち不運な誰かを貫いたようで、敵軍の隊列は棒で突かれたアリの群れのように慌ただしくなる。防戦に備えていた皆が爆笑し、ミカもへらへらと笑みを浮かべる。敵兵たちも、まさかパンを齧りながら放たれた矢に仲間が射殺されたとは思っていまい。

 一昨日、自身の目の前で領民たちが襲われる様を見てから、ミカは純粋派ノーザーランド人に対する一切の容赦を心の内から消した。純粋派の殺傷は、もはや害虫の駆除と同義。


「さあ、あの哀れな敵の群れがもうすぐ近づいてくる! 今みたいに蹴散らしてやろう!」


 ミカが呼びかけると、威勢のいい声が返ってくる。防衛部隊は今のところは、十分な士気を維持している。

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