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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第131話 ヴァレンタイン領の戦い②

 ミカの予想通り、村の門と丸太柵が二度目の攻勢に持ちこたえることはもはや難しかった。


「ヴァレンタイン卿! 南側の柵を敵が集団で乗り越えました! もはや守りきれません!」


 緒戦の翌日に展開されている防衛戦闘の最中、ミカの立つ物見台まで駆け寄って叫んだのは、後方から戦況を見ていたグレンダだった。連射式クロスボウや丸太を駆使して門に迫りくる敵兵たちを退けていたミカは、彼女の言葉を受けて西門の左側を向く。

 すると確かに、敵集団が次々に丸太柵を越え、村内に侵入しているのが見えた。柵の裏の足場にいたクロスボウ兵も白兵戦部隊も蹴散らされ、完全に無防備な状況となっているのは、門からやや離れた位置。

 落とし穴を潰したこの西門周辺が最も攻めやすいと考えているのか、敵側は部隊を分けて複数方向から攻勢を仕掛けることはせず、この西門を集中的に攻撃している。その範囲はコレット砦での戦いの際よりも左右に広く、そうなると防衛側も隊列を横に広げざるを得ず、必然的に一か所あたりの戦力は少なくなる。その戦力が遠距離攻撃を受けて損耗し、そこへ大勢の敵兵が迫れば、もはや丸太柵を守りきれない。敵軍の侵入を許すのは必至だった。


「ヴァレンタイン卿! こちらはもう持たないぞ! 間もなく突破される!」


 さらに声をかけられ、ミカは今度は門の右側を向く。声の主は北側の丸太柵を守っていたピエール・フォンタニエ卿で、彼の言う通り、そちら側も既に限界のようだった。敵兵が何人も丸太柵を乗り越え、柵の裏の足場にいた兵たちは、持ち場を維持できず下がり始めている。


「フォンタニエ卿! 後退を――」

「危ねえ!」


 ミカがピエールに向けて声を発した次の瞬間。ディミトリがミカの肩を掴み、物見台の床に引き倒し、その上に覆いかぶさった。クロスボウ装填などの補佐を担っていたジェレミーも、頭を抱えて伏せた。その直後、物見台の正面側に設置されていた丸太壁の上部が真っ二つに粉砕され、何かがミカたちの頭上を通り去った。

 敵側のカタパルトから放たれた石だと、見るまでもなく想像がついた。


「ミカ様! ここはもう駄目っす! 降りましょう!」

「そ、そうだね……城まで下がるしかないか」


 背中をディミトリに守られながら、ミカは物見台の隅の梯子を降りる。ジェレミーがその後に続き、最後にディミトリが物見台から直接飛び降りた。

 それと並行して、指揮官であるグレンダが皆に総員後退を命じる。丸太柵を守っていたクロスボウ兵や白兵戦部隊も全員が持ち場から下がり、そしてヴァレンタイン城までの撤退戦が始まる。石以外にまともな武器も持っていない投石兵は急ぎ城へと走り、その他の者たちは侵入してくる敵兵と交戦しながら徐々に後退していく。


「閣下、急ぎお下がりください。いち早く城へ入った上で、城門の上の物見台から皆の後退を援護するのが最善かと存じます」

「そ、そうだね! 皆には申し訳ないけど急ごう!」


 ミカのもとに駆け寄って言ったのは、ディミトリとジェレミー以外の家臣たちを率いて門の周囲の丸太柵を守っていたヨエルだった。自分の念魔法を最大限活かすには彼の言う通りにするのが得策だと判断したミカは、家臣たちに囲まれながら村の通りを駆け、ヴァレンタイン城を目指す。

 西門の裏側には昨夜のうちにヨエルが土魔法を用い、大量の土砂を積んでいる。そのため、敵軍が破城槌などを使って門を破壊したとしても、その土砂を排除しないかぎりは通過できない。

 門が無事だとしても、守る者がいなくなった丸太柵からは、敵兵が群れを成して雪崩れ込んでくる。村内に侵入した敵兵たちは、後退する防衛部隊に攻めかかる。通りを直進して正面から迫り、あるいは通りの左右に並ぶ家々の間を縫って側面から襲ってくる。

 その猛攻を、防衛部隊は懸命に退ける。クロスボウ兵や弓兵部隊は迫りくる敵兵目がけて近距離から矢を直射し、剣や槍や戦斧で武装した白兵戦部隊は敵兵と間近で切り結ぶ。激しい戦闘によって、敵味方の双方に死者が増えていく。

 自軍の奮戦を背後に、やや罪悪感を覚えながらもミカが城へと走っていると――先に後退していたはずの投石兵の一部が、城とは逆方向、すなわちミカの方へ駆けてくる。


「ミカ様!」

「助けてください! 敵がこの先に回り込んできて!」

「皆が襲われて、殺されてます!」


 彼らの言葉を受け、ミカは血相を変える。

 投石兵の大半はヴァレンタイン領民。その中には、女性や十代半ばほどの子供たちなど、この戦いに志願したが本来は安全な後方にいるべき者たちも少なくない。

 その投石兵たちが、後退の進路上、村の中央広場に回り込んだ敵兵に蹂躙されているという。

 ミカと家臣たちが急ぎ広場に入ると、そこでは三人の敵兵が暴れていた。恐るべき速さでの先回りを成したその敵兵たちは、手元の魔法光や尋常ならざる動きを見るに、どうやら肉体魔法使い。接近戦の心得もなくまともな武器も持っていないヴァレンタイン領民たちが、そのような強敵に敵うはずもない。広場の地面には既に十人以上が倒れている。

 肉体魔法使いたちは今この瞬間にも、武器を振るって投石兵を――ミカの領民たちを殺そうとしている。


「や、止めろおおぉぉっ!」


 絶叫しながら、ミカは連射式クロスボウを手放す。そして、村内での戦闘に備えて各所に置いてあった丸太のひとつを「魔法の手」で掴み、敵の肉体魔法使いの一人、地面に倒れ込んで命乞いをする女性領民へと戦斧を振り下ろそうとしていた者を狙って投擲する。

 怒りと焦燥に駆られて行使された念魔法には、本来であれば不必要なほどの魔力が注がれ、丸太は凄まじい速さで飛翔する。敵の肉体魔法使いは丸太の方を振り返ったが、避ける余裕はなかった。魔法による肉体強化も重い丸太の直撃には耐えられず、上半身が千切れ飛んでそのまま丸太と共に後方の家屋へ突き刺さった。


 肉体魔法使いの下半身がふらふらと数歩歩いて倒れる様を見届けることもなく、ミカは次の丸太を「魔法の手」で掴むと、別の肉体魔法使いに殴りかかる。自在に振り回される丸太から、肉体魔法使いは巧みな動きで逃れてみせるが、そうして目の前の暴走丸太に意識を集中させていたために周囲への警戒が疎かになった。その隙を突いたのは――ジェレミーとルイスだった。

 投石兵部隊を率いていたルイスは、他の者たちを逃がすことを優先し、自身は未だ広場に留まっていた。彼の放った正確な投石攻撃はミカの丸太と対峙する肉体魔法使いの顔面へと飛翔し、対する肉体魔法使いはさすがに手練れのようで、凄まじい反射神経で顔の前に戦斧を構え、刃に当てて石の軌道を逸らす。

 しかし、同時に別方向からも攻撃が放たれていた。ミカが手放した連射式クロスボウを回収したジェレミーが、既に弦が引かれた状態だったそれを肉体魔法使いの方へ構え、自らの手で引き金を引いた。発射された矢は肉体魔法使いの背中に命中し、身体を貫通して胸から鏃が飛び出す。


「うおっ! 当たった!」


 自身の戦果に驚くジェレミーの声を背に浴びながら、肉体魔法使いは地面に膝をつく。すかさずミカが丸太を振り下ろすと、その重い一撃は肉体魔法使いの頭を叩き潰し、命を奪った。


 残る一人の肉体魔法使いの方をミカが向くと、そこでは激戦が展開されていた。剣と盾を装備した肉体魔法使いを相手に、ディミトリとヨエルが攻撃をくり出し、他の家臣たちが半包囲の陣形を作って槍を構え、さらには未だ広場にいる領民たちが石を投げつけ、多対一で戦っていた。

 ディミトリの戦い方は繊細とは言い難いが、筋骨隆々の巨躯からくり出される戦斧の一撃は、まともに食らえば肉体魔法使いであってもただでは済まない。そしてヨエルの戦い方は、緻密で隙がない。肉体魔法使いはディミトリの攻撃を警戒しながらヨエルの牽制に対応しなければならず、周囲に並ぶ槍や飛んでくる石も嫌がらせとして効果を発揮し、攻めに転じることができずにいる。


 ミカが他の二人を片付けたことに気づいたらしいヨエルが、対峙する肉体魔法使いの足元目がけて剣を投げる。回転しながら足を切り刻もうとする剣を避けるため、肉体魔法使いは咄嗟に跳躍し――着地するまでの数瞬は、新たに飛んでくる攻撃を躱すことができない。

 そこへ、ミカは丸太を投擲する。ヨエルの剣と同じように回転しながら、しかし重量や攻撃範囲においては遥かに勝る丸太の接近を受け、肉体魔法使いは咄嗟に盾を構える。

 個人用の盾では丸太の一撃を到底防げない。ノーザーランド人に特有の菱形の盾は粉砕され、肉体魔法使いは吹き飛ばされて地面に激突する。


「がああぁぁっ!」


 そこへ、ディミトリが獣のような咆哮を放ちながら戦斧を振り下ろす。本来は両手用の大きな戦斧は、肉体魔法使いの首に直撃し、そのまま頭を切断する。

 こうして短時間のうちに三人の肉体魔法使いが排除され、投石兵やミカたちの後退を妨げる者はいなくなる。


「急いで城に入るんだ! まだ息がある者は連れていこう!」


 ミカの言葉を受け、広場に残っている領民たちは後退を再開する。倒れている者たちのうち、重傷を負ったが生きている者は、抱えられて共に城を目指す。

 ミカは再び家臣たちに囲まれながら走り、そしてヴァレンタイン城に到着する。敵側の奇襲に備えて配置されていた数十人の戦力が守る城の門を潜り、その場で膝と手をついて荒く息をする。


「つ、疲れた……なんて言ってる場合じゃない」


 自身に言い聞かせるように呟くと、体力と魔力を消耗して悲鳴を上げる身体を無理やり立ち上がらせ、城門直上の物見台に上がる。後に続いたディミトリの盾に守られ、ジェレミーの運んできた連射式クロスボウを構え、後続の味方が城に逃げ込むための援護に臨む。


 後退が完了した時点で、ヴァレンタイン城に立て籠もったのは五百二十人ほど。そのうち二日間の戦闘によって発生した重傷者が五十人ほど。食事作りや負傷者の手当てなどを担当する非戦闘員が七十人ほど。

 防衛部隊に残された戦力は、およそ四百人にまで減った。

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― 新着の感想 ―
味方が後400名、敵は残り2700名くらいでしょうか? 絶望的な戦力差です!、足止めできるのは後1日が限界でしょうかw
 念魔法で地下道を掘って脱出か挟撃か、それとも人間大砲よろしく人を投げて脱出するかしかないな!
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