表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/132

第121話 情勢混迷

 聖暦一〇五〇年の盛夏。ヴァレンタイン領の村を囲む防衛設備は、順調に建造が進んでいた。


「よぉし、それじゃあもう一枚の門扉も取りつけるよぉー」


 村の西側の出入り口となる門の建造現場で、ミカは作業員として集まっている領民たちに呼びかけながら念魔法を発動させる。

 持ち上げるのは、木製の大きな門扉。両開きの門扉の片方は既に取りつけられているので、その隣にこの一枚を運び、固定する。


「よし、西門も完成! 皆ご苦労さまー!」


 ミカの宣言と労いの言葉を受け、領民たちは歓声で応えた。

 村全体を丸太柵と空堀で囲み、東西と南の合計三か所に物見台を備えた門を設ける。本来は向こう数年かけて完了させるつもりだったこの作業を、しかしミカは現在、今年中に終えようと奮闘している。

 この門扉の設置をもって、三か所の門が全て完成したことになる。残る作業は、丸太柵と空堀の建造。いずれも手間のかかる作業だが、それも半分以上は終わっているので、なんとか今年中の完了という目標を達成できそうだった。


「この調子なら、来年に何があっても村の防衛体制を万全にできそうだね」

「はい。これだけ早く作業が進むなんて、やっぱりミカ様の魔法の力は凄えです」


 重い資材を運ぶために念魔法を連発し、疲労を覚えてその場に座り込みながらミカが言うと、護衛として隣に立つディミトリが頷く。


 ミカたちがこれほど作業を急いでいるのは、西の情勢が当初の予想以上に悪化しているため。

 純粋派ノーザーランド人たちも先の戦いで疲弊したはずなので、しばらくはダリアンデル地方南西部での支配域拡大に注力し、東へさらなる攻勢を仕掛けてくることはないはず。そんなノイシュレン王国側の予想を裏切り、敵は侵攻を続けている。

 その暴れ方は、土地の支配ではなくダリアンデル人勢力の殲滅を目的としているとしか考えられないもの。奪えるだけ奪い、殺せるだけ殺し、そうして一地域の社会を荒廃させてはその荒廃を東へ広げるという、まるでイナゴの大群のような行動。


 おそらく純粋派の指導者たちは、大きな勢力を作ってそれなりに組織立った抵抗を見せ始めたダリアンデル人を先の戦いで危険視した。その結果、自分たちの支配域を徐々に広げるよりも、総人口で勝るダリアンデル人たちがさらなる団結を成す前に各勢力を各個撃破することを急ぐという結論に至った。ノイシュレン王国としてはそのように推測していると、ミカはサンドラから使者を介して聞いている。ミカ個人としても同意見だった。

 先の戦いで壊滅的損害を負った南西部東側の各領地は既に壊滅状態で、純粋派の攻勢は今やアルデンブルク王国領土にまで及んでいる。盲目的な信仰を糧に暴走する純粋派も、さすがに今年中にノイシュレン王国の西部国境にまで達することはできないだろうが、来年のうちには直接的な攻撃を受ける可能性が高い。状況がそこまで逼迫しているからこそ、ミカはこうして村の防衛体制の構築を急いでいる。国境の直接的な防壁であるコレット砦の強化にも助力しているが、砦が陥落した場合にも備えて自領の村自体を要塞化しようと奮闘している。


「うちはできるだけのことをやってるから、後は王家や侯家が他の勢力と上手く交渉できるか次第だけど……こういうとき、中小領主家は歯がゆい思いをすることになるねぇ」


 言いながら、ミカは嘆息する。サンドラから伝えられた話では、状況の逼迫を受けてノイシュレン王国や御三家同盟が北東部や南端地域の各勢力に接触し、共闘の説得を急いでいるというが、それが成功するか否かは未知数。家族や家臣、領民の手前もあるので領主として冷静に振る舞うようにしているが、ミカの内心としては気が気ではない状況だった。


「……ミカ様。西から騎馬が来ました。多分、砦からの伝令です」


 ディミトリの言葉を受け、ミカは疲労をこらえながら立ち上がり、彼の指差す方を向く。すると確かに、コレット砦の常駐部隊からの伝令と思しき騎馬が駆けてくるのが見えた。


「何だろう。まさか襲撃の報せじゃないだろうけど……アルデンブルク王国の方で何かあったのかな?」


 ミカが首を傾げている間にも、騎馬は急ぎ近づいてくる。西門は完成したが、その周囲の丸太柵と空堀は未完成なので、門の脇を素通りしてミカの前に到着する。


「ヴァレンタイン卿! コレット砦より急ぎの報告です……アルデンブルク王国より、レーネ王妃とリーゼロッテ王女が砦に来訪しました! 少数の家臣と護衛のみ伴って密かに来られたようで、ノイシュレン王国への亡命を希望しておられるそうです!」

「……なるほど、それはまた大事ですねぇ」


 馬上から飛び降りてミカに一礼したユーティライネン領軍の騎士は、よほど急いで報せを届けにきたのか、疲れた様子で息を切らしながら言った。報告を聞いたミカは半ば唖然としながら、とりあえずそう答えた。


 春の戦いで国王ディートリヒが戦死した後、アルデンブルク王国の内情は酷いものになっているという話はミカも聞いていた。元々ディートリヒの求心力と彼の抱える常備軍の抑止力によって秩序と結束を維持していた寄り合い所帯のような国だったため、彼の死後はまとまりを失い、各領主が上手く連係をとることもできず純粋派ノーザーランド人の襲撃に対して場当たり的な対応をしては、当然ながら敗北して西から削り取られているという。

 ディートリヒには妃と嫡女である姫もいたが、アルデンブルク家の古くからの重臣の家系である王妃レーネは、夫を失った今となっては傘下の領主たちに対する影響力を持ち得ない。そして王女リーゼロッテは、未だ十三歳であるため一国の軍事的指導者となるのは現実的ではない。そのことも、アルデンブルク王国のあまりにも呆気ない瓦解の要因となったと言われている。


 結果、暗い未来が待っていることが明らかなアルデンブルク王国から、今のところは安全なノイシュレン王国へと逃げ込む者も増えている。コレット砦やヴァレンタイン領のあるこの丘陵南側にも、累計で一千を超える難民が流れてきた。丘陵北側のローレンツ・メルダース卿の話では、あちらはさらに何倍もの難民が通過しているという。

 難民を管理する負担をノイシュレン王国西側の各領地で分散したいユーティライネン侯家の要請を受け、さらには来年以降の苦難を前に自領の戦力と労働力を増やしておきたいという自身の考えもあり、ミカはこうして流れてくる難民の一部をヴァレンタイン領に受け入れている。結果、領内人口は年内にもとうとう五百人に届く見込み。

 このような状況ではあったが、さすがにアルデンブルクの王族たちまでもが逃げてくるというのはミカとしても予想外のことだった。


「王都オストベルクに赴き、国王と会談の場を持ちたいというのがあちらの意向だそうで……ひとまずエルトポリへ伝令を送り、ユーティライネン閣下のご判断を仰ぐべきだというのがこちらの部隊長の考えです」

「……確かに、それが無難でしょう。エルトポリへの報告は当家が引き継ぎます。アルデンブルク王家の一行には、ひとまず砦に滞在してもらいますか? 砦で世話をするのが監視部隊の負担になるようであれば、一行を当家の城に招いてできる限りの歓待をしますが」


 ミカが尋ねると、伝令役の騎士は思案の表情になり、ややあって少し困ったように口を開く。


「私では判断しかねますので、一度砦に戻って部隊長に聞いてまいります。ヴァレンタイン卿におかれましては、一行の世話をお願いすることになった場合に備えて受け入れの準備をしておいていただけるとありがたく。ご負担をおかけしますが……」

「いえ、これもコレット砦の後方支援拠点としての務めです。お任せください」


 ミカはそう言うと、砦からここまで疾走して疲労している馬の代わりにヴァレンタイン城の馬を貸し、騎士の帰還を見送る。

 そして、やれやれと首を振りながらため息を零す。


「まったく、世の中ってままならないねぇ……予想外のことばっかり起こる」

「さすがに隣の国の王族が逃げてくるとは思ってもみませんでしたが、この状況じゃあ仕方ないんでしょうかね」


 ミカの隣で答えるディミトリも、呆れ交じりの表情を浮かべていた。


「まあ、アルデンブルク王家の常備軍も先の戦いで大勢死んで、生き残りのほとんどは戦後の混乱の中で逃げちゃったらしいから、今や王妃と王女の身も安全じゃないだろうし……その前提で考えれば、国を捨てて避難するのも妥当な展開なのかもねぇ。残っていても何もできないだろうし」


 王国などと言っても、所詮は作られて数年しか経っていない寄り合い所帯。王族だろうが国への愛着は薄いはず。そう思いながら、ミカは苦笑を零す。

 ノイシュレン王国とて西の隣国の惨状は他人事ではない。今のところ一致団結して動くことができているのは、国としての支配体制がアルデンブルク王国よりは幾らか整っているため。そして皆が「純粋派ノーザーランド人の攻勢を退けて生き残る可能性が残されている」という状況を共有しているため。それだけでしかない。


「さて、隣国の王妃様と王女様を受け入れる準備をしないとね……今後の政情がどうなるか分からない以上、亡国の王族だからといってぞんざいに扱うわけにもいかないし。我が家の態度がノイシュレン王国からの敬意として受け止められると思って歓迎しないと。ビアンカたちには面倒をかけるけど」


 そう言いながら、ミカは城の家政を支える家臣たちのもとへ向かう。早ければ今夜にもアルデンブルク王家の一行はやってくる。そう思って準備をしなければならない。

お知らせです。

『うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~』書籍1巻、いよいよ明日3月14日に発売日を迎えます。

早いところでは既に書店に並び始めているようです。


たくさんの方に手に取っていただけると嬉しいです。皆様何卒よろしくお願いいたします。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
連載開始から毎日楽しみに読んでいた本が、こうして書籍になるのは感慨深いものがありますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ