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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第110話 迫る開戦

 ダリアンデル人領主たちが連合軍を結成して純粋派ノーザーランド人を打ち倒さんと動いていることは、純粋派の指導者であるクラウダ・ファーランハウネも把握していた。南西部のダリアンデル人領主の生き残りたちが何やら大きな動きを為そうとしている予兆を初春のうちに掴み、そこへ東の勢力も合流し始めていると後に気づいた。

 ダリアンデル人勢力との大規模な戦いは避けられないと考えたクラウダは、ダリアンデル地方への移住を果たした純粋派ノーザーランド人たちに動員命令を発した。支配下に収めたいくつもの都市と無数の農村を新たな故郷とし、捕らえて奴隷化したダリアンデル人たちを労働力として使役しながら新天地での生活を送る同胞たちに、各共同体の人口に応じて一定割合の者を兵として送るよう命じた。

 その一方で、敵情を探ることにも力を入れていた。東へ頻繁に斥候を送り込み、ダリアンデル人領主たちの連合軍の動向を調べさせていた。


「敵側の見込み兵力は一万弱といったところです。と言っても、大半は脆弱な民兵でしょうが」

「……そうか。こちらよりも多いが、大した問題ではないだろう」


 純粋派の重要拠点、港湾都市ネア・ラクリナレサイアに隣接する城の執務室。側近ミハイルより報告を受けたクラウダは、無表情のまま言った。


 現在このダリアンデル地方南西部に移り住んだ純粋派ノーザーランド人は、総勢でおよそ六万。そのうち成人男子は四割ほど。しかしそこには老人も、身体が弱い者も、医者や武器職人など貴重な技能を持つために徴集するべきでない者も含まれる。

 そうした者たちを除くと、残る男は二万ほど。とはいえ、その全員をひとつの戦いに投入することは不可能。北のノーザーランド人勢力の支配域との境界線や、南のダリアンデル人勢力の支配域との境界線、このネア・ラクリナレサイアをはじめとした各地の重要拠点にそれぞれ防衛兵力を置いておく必要がある。また、食料生産のための農作業はダリアンデル人奴隷たちを今まで以上に酷使すればいいとしても、それを見張る男手も多少は必要となる。


 それらの事情を踏まえた結果、ダリアンデル人の連合軍との戦いに臨む純粋派の兵力は、総勢でおよそ七千と見込まれている。

 数の上では敵側が多少の数的有利を得る様子だが、とはいえこれまでのダリアンデル人勢力の脆弱さを考えると、多少の兵力の不利は容易に覆せるはず。クラウダはそう考える。


「こちらの集結の様子は?」

「予定通りです。来週には兵力が揃って、進軍準備も完了します」


 ミハイルの返答を受け、クラウダは微笑を作って頷く。


「ならばよい。これも同胞たちが正しく務めを果たし、唯一絶対の神が我々をお守りくださっているからこそだ……我々の勝利は神より約束されている。引き続き各々の役割を全うするよう皆に伝えてくれ」

「承知しました、大首長閣下」


 そう言ってミハイルが退室した後、一人になったクラウダは思案する。

 これまでの数年間は順調だった。これといった苦労もなく、ダリアンデルの地に支配域を確立し広げることができた。なので今回のダリアンデル人たちの動きは、クラウダたち純粋派にとって、この地における初めての大きな試練と言える。

 神は乗り越えられない試練は与えない。純粋派がより強く団結するためにこそ賜ったのであろうこの試練に、クラウダは感謝さえ抱いている。


・・・・・・


「……それで、未だに総大将をどうするか揉めてるわけですか」

「ああ。まったく情けない話だが、歴史に残るであろうこの連合軍を誰が率いるかというのは、政治的にも重要な問題だ。ノイシュレン王国としては簡単には譲れず、他の者たちもそれは同じ。実に厄介な状況と言える」


 サンドラより連合軍の司令部となっている天幕に呼び出されたミカは、彼女と共に天幕からさらに移動しながら言葉を交わす。

 彼女の話によると、連合軍としての戦い方自体はすんなりと定まったという。寄せ集めの軍勢ではそう複雑な動きは出来ないので、平原に布陣して歩兵主体の敵軍をこちらの歩兵が受け止め、バリスタやカタパルトや魔法使いが弓兵と共に後方から援護し、そうして敵を正面に釘づけにした上で騎兵部隊が側面に回り込んで突入し、勝利を得る。ミカの感想としても、現実的に成功を見込める妥当な作戦に思えた。

 布陣の詳細も、なるべく戦いやすいように各勢力の歩兵が固まって中央と両翼を成し、遠距離攻撃を為す部隊と騎兵部隊は各勢力の軍勢から兵力を集めて編成するかたちで話がまとまった。しかし、連合軍の総大将を決める段になって、各勢力の代表者たちは大いに揉めているという。


 ノイシュレン王ハインリヒは、作戦を定めたのはこちらだから自分が総大将になるべきだと主張し、アルデンブルク王ディートリヒは、そもそもこの連合軍結成を主導したのは自分なのだから自分こそ総大将にふさわしいと主張。南西部領主の代表者は、最も多くの兵力を動員している南西部から総大将を出すべきだと訴え、そこへ御三家同盟のランゲンバッハ卿が「ここはあえて脇役の自分が総大将になれば角が立たない」などとそれらしいことを言いながら口を挟んでいる。

 連合軍が勝利すれば、総大将は内実はともかく表向きは「ダリアンデル人を勝利に導いた者」として名を知られ、その権勢は大いに高まる。だからこそ、さして本気で総大将の座を狙っていたわけではないらしいランゲンバッハ卿はともかく、他の三者は譲ろうとしない。


「ここで我らが王が総大将となれば、ノイシュレン王国は名実ともにダリアンデル地方南東部で最も強い立場を得られる。逆にアルデンブルク王が総大将になると、奴がさらに権勢を増して将来的な脅威になり得る。だからこそ総大将の座を譲りたくないが……果たしてどうなることか」


 サンドラはそう言って嘆息し、ミカは微苦笑を返す。

 そうして話しているうちに、二人は目的地――戦場の南の丘陵に配置される、別動隊の主要な顔ぶれが集まる場へ辿り着く。

 念魔法使いとして個人で破格の力を誇る自分が、別動隊の一員として丘陵に通る街道を守り、以て味方本隊の左側面を守ることになるという話は、ミカも既に聞かされていた。連合軍に参加している魔法使いは総勢で二百人ほど。そのうち戦闘向きの魔法の才を持つのは六割程度。そこから二十人ほどが別動隊に配置され、自分もその一人になると、パトリック経由でサンドラから教えてもらっていた。

 別動隊で共に戦うことになる他の魔法使いや騎士などが、既にある程度集まっている場を見回したミカは――


「……えっ、ツノグマ!?」


 隅の方、恐ろしい魔物であるはずのツノグマが大人しく座っていることに気づき、目を見開いて叫んだ。

 最初は驚きに固まり、そしてすぐに、自分は以前にもそのツノグマを見たことがあったことを思い出す。


「もしかして、モーティマー家のお抱えの?」

「その通りだ。今はアルデンブルク王国に属するモーティマー家が、手勢の一員として伴っている使役魔法使いも、この別動隊に配置されることになった。険しい丘陵の狭い戦場で、魔法使いが使役するツノグマと対峙すれば、突破できる人間などいないだろうという期待からな。ヴァレンタイン卿にとっては、以前戦ったことのある因縁の相手だろうが……」


 ミカとサンドラが話していると、ツノグマの隣に座って待機していた件の使役魔法使いがこちらに気づき、立ち上がって歩み寄ってくる。


「失礼、もしやあなたは、以前戦場で相まみえた念魔法使い殿では?」

「……はい、確かに。ヴァレンタイン家当主のミカ・ヴァレンタインです」


 話しかけてきた使役魔法使い――こちらと同年代であろう青年に対して、ミカは社交的な笑顔を作って答えながら、内心では少しの警戒心を抱く。隣のサンドラも、気配を鋭くしながら二人の会話を見守る。


「やはりそうでしたか。いやあ、懐かしい。あの戦いは私にとって忘れられないものでした……ああ、名乗りもせず話して申し訳ない。私はモーティマー家に仕えている使役魔法使いのアランと言います。あっちのツノグマはジョンです。以後お見知りおきを」

「アランさんとジョンくんですね、どうぞよろしく。以前会ったとき、私はあなたやジョンくん目がけて容赦なく矢を放ったりしましたが……」

「あのときは主人に従ってあなた方と敵対するのが私たちの仕事でしたし、先に奇襲を仕掛けたのはこちらですから、反撃を受けるのも仕方のないことです。それに、幸運にもジョンは怪我をしませんでしたから……今は立場も変わって味方同士です。私としては、ぜひ力を合わせて戦いたい。私やジョンが生き残るためにも」


 そう語るアランの穏やかな表情を見るに、どうやら彼は皮肉ではなく本心で言っているようだった。ミカはそのことに安堵しながら頷く。


「そう言ってもらえて何よりです。あの戦いでは僕の家臣や領民は誰も死ななかったので、僕としても何ら恨みはありません。お互い役目を果たして、生きて勝利を収めましょう」


 ミカはそう言って手を差し出し、アランもそれに応え、握手を交わす。


「優秀な魔法使い同士、協力し合えるようで何よりだ……それにしても、卿らの存在はモーティマー卿から聞いていたが、こうして見るとツノグマの迫力は凄いな。出くわしたら死を覚悟すべき強力な魔物を、これほど落ち着いた状況で見たのは初めてだ」


 二人のやりとりを見ていたサンドラが、そう言ってツノグマのジョンへ視線を向ける。


「ははは、恐縮です。こいつが戦えば、純粋派ノーザーランド人がどれだけ来ようが蹴散らしてご覧に入れますよ……実は、ヴァレンタイン卿の戦い方を参考にさせてもらった新装備も持ち込んでいるんです」

「僕の戦いを、ですか?」

「はい。ヴァレンタイン卿が魔法でバリスタを持ち上げていたのを見て、これは凄いことだぞと思いまして。バリスタを素早く運ぶことができれば、攻撃力はそのままで欠点を補って扱えると。それで、ジョンにバリスタを背負わせることを思いついたんです。ジョンの胴体を守る革鎧の上に、私が乗るための鞍だけでなく、バリスタの本体部分を取りつけられるようにしたんです」


 それを聞いたミカは、感心を表情に浮かべながら頷く。


「なるほどぉ。確かに、ジョンくんほど大きなツノグマなら、バリスタも軽々運べそうですねぇ」

「仰る通り、人間が運ぶには大変な苦労を要するバリスタを、あいつは平然とした顔で運んでしまいます。おかげでヴァレンタイン卿のように、戦場を自由自在に動き回ってバリスタを撃てるようになりました。本格的な実戦で試すのは今回が初めてですが、きっと連合軍のお役に立てるはずですよ」

「……機動力のあるバリスタが二台か。何とも頼もしい話だ」


 もし再び敵に回れば厄介極まりないだろうが、少なくとも今は頼れる味方となっているアランの話を聞き、サンドラが複雑そうな表情で呟く。


「他の者も集まったようなので、そろそろ別動隊の中核を成す面々に作戦の詳細を説明しよう。ヴァレンタイン卿と魔法使いアラン殿も、皆と共によく聞いてくれ」


 そう言って、サンドラはこの場にいる皆に集合を呼びかける。ミカとアラン以外の者たちも近くに集まってきたところで、彼女の口から別動隊の戦い方について詳細が説明され、部隊の編成がなされていく。

 連合軍は既にさらなる前進の準備を始めており、一方で純粋派ノーザーランド人の軍勢も集結を終え、東進の素振りを見せている。数日のうちには、いよいよ決戦が始まる。

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