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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第109話 連合軍の軍議

 四月の中旬。集結の期限が迫る頃になると、各勢力のおおよその動員兵力が見えてきた。

 最大の動員を為すのは、南西部領主の生き残りたちの手勢。その総勢はおよそ三千。それに匹敵するのがアルデンブルク王国の軍勢で、総勢はおよそ二千五百。

 次いで多くの動員を為すのがノイシュレン王国で、総兵力はおよそ二千二百となる見込み。そして御三家同盟がおよそ八百を動員し、最後に北東部からの援軍が一千ほど。

 全ての軍勢を合わせた連合軍の総兵力は、九千に届く見込みとなった。


「……それなりに集まったと言っていいだろうな。惜しくも一万には届かないようだが」


 大きな天幕に各勢力の指導者たちが集った軍議の場。呟くように語ったのは、王や他の侯たちと共にノイシュレン王国の代表として出席しているサンドラ・ユーティライネンだった。


「ほぼ一万だ。公に語る際は総勢一万の大軍勢と言ってしまえばいい。九千と言うよりも強そうに聞こえ、敵は慄き、味方は士気を高めるだろう」


 それに薄ら笑いを浮かべて言ったのは、アルデンブルク王国の君主であるディートリヒ・アルデンブルク。威勢も調子も良い彼の発言に笑いが起こり、サンドラも微苦笑を浮かべる。


「……そして、敵側の予想兵力はこちらよりも少ないという話だったか」


 続いて発言したのは、御三家同盟を成す三つの大領主家のひとつ、その当主であるランゲンバッハ卿。彼の言葉に頷き、南西部領主の代表者が口を開く。


「まさしく。現在ダリアンデル地方に上陸した純粋派ノーザーランド人の総数は五、六万ほどと見込まれており、奴らは頭数に比して成人の数が多いが、それでも成人男子はせいぜい全体の四割程度だろう。それとて全員が戦えるわけではなく、老人や病人もいる。それに、奴らも食わなければ生きられないが、掠奪だけで何万人を食わせられるはずもない。農業も行っているのだろうが、いくらダリアンデル人を奴隷として使役しているとはいえ、その管理にはノーザーランド人の男手も必要なはず……そうした事情から考えると、奴らがひとつの戦いに動員できるのはどれほど多くとも七、八千程度のはずだ。こちらより多いということはあり得まい」

「……とはいえ、大きな差とは言えないだろうな。兵の屈強さではノーザーランド人の方がダリアンデル人よりも上だと聞こえている。果たして我らの有利がどれほどのものか」


 純粋派の支配域の近くにいるからこそ比較的正確と思われる推測を受け、微妙な表情で発言したのはノイシュレン王国の君主ハインリヒ・ノイシュレンだった。


「おや、ノイシュレン王は随分と心配げなご様子だな? それほど敵が恐ろしいか?」

「我が王は慎重であらせられるだけだ。貴殿が勇ましくあって場を盛り上げるように、誰かが慎重であって場を引き締めねばなるまい。ハインリヒ・ノイシュレン陛下はそのような役回りを為しておられる、ただそれだけのこと」


 わざとらしく驚きの表情を作って言ったディートリヒに、サンドラは即座にそう返す。ノイシュレン王は頼りない君主である。彼がこの場の皆にそう印象づけようとしていることを即座に察し、その小賢しい試みを阻止するため、内心で覚えた焦りを顔には微塵も出さずに堂々と語る。


「左様、常に慎重な姿勢で物事を見ておられるのは我が王の美徳だ」

「実際、こちらが大きな有利を得ているとは言えない状況。王はその事実を指摘されたまでだ。これは我ら全員が受け止めるべき事実だろう」

「ええ。兵たちは一万の味方がいると喜び勇むべきだとしても、私たち将は九千の兵力しか持たない現実を受けて戦い方を考えなければならないわ」


 サンドラに続いて、ガリバルディ侯ヴィットーレ、キーヴィッツ侯ルートヘル、ミストラル侯シュザンヌも発言する。ノイシュレン王国の侯たちが、総出でハインリヒを庇う。


「……ご尤も。ではノイシュレン王の言った通り、数の上で有利だからといって油断することなく策を練るとしよう」


 小賢しい試みが失敗に終わったディートリヒは、特に残念がる様子もなく答え、そして話は本題に戻る。


「確か、ルーザス平原とかいう場所が戦場になると聞いているが?」

「ああ。ここから西に三日ほど行軍した地点にある平原だ。森が少ない開けた土地で、南には険しい丘陵がある」


 北東部領主の代表者が尋ねると、それに南西部領主の代表者が頷いて答える。戦場の選定に関しては、地理に詳しい南西部領主たちに任せられていた。


「敵の別動隊などが南の丘陵を越えて左側面を奇襲してくることを警戒しておけば、後は平原での戦闘に専念できるわけだな。土地が開けているとなれば、騎兵も運用しやすい」

「こちらにとって都合の良い貴重な地形ね。ありがたいことだわ」


 ディートリヒに同調するように言ったのは、アルデンブルク王国に属しているベアトリス・モーティマー卿だった。

 個々が士気高く精強な純粋派ノーザーランド人に対して、ダリアンデル人連合軍の有利な点は、まずもって軍勢の規模が大きいこと。そして、まとまった数の騎兵部隊を用意できること。

 寒冷かつ険しい地形の多いノーザーランドでは馬が貴重で、その馬も農耕や荷運びに用いる小柄なものが大半だったらしく、彼らには騎兵を運用する文化も技術もない。そのため、連合軍が騎兵部隊を組織し、効果的に運用できれば、勝利を決定づける切り札になり得る。これはダリアンデル人側の共通の見解として、各勢力にあらかじめ共有されていた。

 ルーザス平原が戦場に選ばれたのも、歩兵が大規模な横隊を組んで数の有利を最大限に活かせることに加え、騎兵部隊が戦場の北側に回り込んで敵軍の左側面を突くことができるため。平地に占める森林の割合が大きいダリアンデル地方において、このルーザス平原ほどに広く平坦な地形は珍しい。


「残る検討事項は、正面から攻めてくる敵軍の押さえ方と、南の丘陵の守り方かしら?」

「そうなるだろう。我らノイシュレン王国側としては、いずれに関しても策がある」


 かつて間接的とはいえ軍勢を率いて対立したが、今は協働を為す味方。そのような微妙な関係性にあるベアトリスに答え、サンドラは作戦案を説明する。


「正面より攻めてくる敵軍に対しては、最前列に正規軍人や傭兵など戦い慣れた兵力を並べて迎え撃ち、さらには陣形最後方よりバリスタやカタパルト、魔法使いによる強力な援護を為す。ノイシュレン王国はバリスタとカタパルトを合計で三十台ほど持ち込んでいるので、火魔法などと併せれば相当な破壊力を発揮できるだろう。敵軍はこちらの戦列に達する前に大きな損害を被り、怯むはずだ。白兵戦に突入した後も、敵後衛が戦闘に加わる前に大きく削ることができる」

「以前の会戦で我がランゲンバッハ軍を苦しめた大型兵器が、今度は三十台か……それらが全力の攻撃を為せばどれほどの効果が発揮されるか、容易に想像できるな。いかれた純粋派ノーザーランド人といえども泣いて逃げ出すのではないか?」


 かつてヒューイット領に攻め込み、ヒューイット家を支援するユーティライネン家の大型兵器に散々に自軍を打ちのめされたランゲンバッハ卿が言うと、サンドラは微笑交じりに頷く。


「こうした大型兵器を会戦で味方の援護に用いるのは、古の帝国時代の戦い方だ。その有効性が確かなものであることは、実際に攻撃を食らったランゲンバッハ卿の言葉が証明している……そうして敵軍の正面からの攻勢を押さえれば、こちらの騎兵部隊が敵陣の左側面まで回り込む猶予も、騎馬突撃を為す隙も得られることだろう」


 そこまで語ったサンドラは、次いでハイドリヒに視線を向ける。


「南の丘陵を越えて敵別動隊が迫ってくる事態を防ぐ策については、我が王が策をお考えになられた……国王陛下、どうぞご説明を」

「う、うむ」


 重臣としての立場でサンドラが促すと、ハインリヒは少々緊張した様子で頷く。

 これは決してサンドラが王に良いところを見せる機会を与えたわけではなく、丘陵を守る策は確かにハインリヒの発案だった。だからこそ彼自身が語り、ノイシュレン王は慎重かつ聡明な君主であると国外の各勢力の指導者たちに示す。それがノイシュレン王国としての狙いだった。

 今このときばかりはハインリヒが頑張って堂々と語るしかなく、サンドラたち侯は内心で応援しながら見守ることしかできない。


「確か、南の丘陵にはまともな道が二本あるという話だったな?」

「いかにも。険しい地形の間隙を縫うように二本の道が通り、敵があらかじめ動かす別動隊などが丘陵を越えてくるとしたら、その道のいずれか、あるいは両方になると予想される」


 ハインリヒの問いかけに、南西部領主の代表者はそう答える。


「では、その二か所にこちらも少数の別動隊を置こう。別動隊には魔法使いを多く充て、そこに補助戦力となる騎士や兵士を伴わせ、道を塞ぐように配置するのだ。地形が険しいので敵は隊列を横に広げることができず、進路上に魔法使いを中心とした戦力が控えているとなれば、敵別動隊がそれなりの規模だったとしても突破はできまい。こちらは別動隊にあまり多くの兵力を割く必要もなく、たとえ千の敵が攻めてこようとも撃退できるというわけだ」

「……なるほど。魔法使いという強力な駒を最大限に活かせる地形で敵を押さえるわけか。なかなか賢い手だ」


 隣国の王の説明を受け、納得した様子で言ったのはディートリヒだった。

 戦いが大規模になるほど魔法使いの活用は難しくなる。数十人規模の戦闘であれば個人で勝敗を左右できる魔法使いも、千単位の兵力がぶつかり合う広大な戦場では、相対的にその影響力は小さくなる。その活用方法は必然的に、後方からの援護や少数で本陣を守る直衛、ここぞという場面での切り込みなどに限定される。

 そんな魔法使いも、ハインリヒの語った使い方であれば最大の力を発揮できる。たとえ敵側が別動隊に多くの兵力を割いたとしても、狭い地形では縦に間延びした隊列で前進するしかなく、魔法使いが守る陣地を正面から攻め落とすのは極めて難しい。こちらの本隊は丘陵側から攻撃を受ける心配をすることなく、平原で正面から対峙する敵本隊との戦いに専念できる。戦力の大半を本隊に割くことができれば、数的有利も保たれる。


「大型兵器や魔法使いで後方より援護を為しつつ敵軍を正面から受け止め、騎兵部隊による側面攻撃で止めを刺す。敵の側面攻撃は、北に関してはこちらの騎兵部隊で、南に関しては魔法使いを中核とした少数の別動隊で防ぐ。諸卿より異論がなければ、ノイシュレン王国としてはこのような作戦を基本としたいが、如何か?」

「異論はない。良い作戦だ」


 別動隊に関する説明の役割を無難に果たしたハインリヒに代わってサンドラが問うと、即答したのはディートリヒだった。

 この場において最も大きな発言権を持つ一人である彼がこう言ったことで、他の者たちも次々に賛成を示し、作戦はノイシュレン王国の提案通りに定まる。


「同意を得られて何よりだ。では、部隊分けや布陣の詳細を定め、作戦を完成させるとしよう」


 賛成の流れを作ったことで恩着せがましい笑みを向けてくるディートリヒに気づかないふりをしながらサンドラは言い、その後も軍議は続いた。

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