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グラップリング・バトル(2)

『パラディン3より各部署、注意!注意!チェルノボグよりの砲撃データ送信がなくなった!シックル2、3、メイスはチェルノボグに注意せよ!』

 シックル1が後退に移ったそのとき、敵の砲撃が止んだ。チェルノボグから敵砲兵へ送信されていたと思われる電波も止まった。

 今のところ損害は皆無。

 一五五mm2個中隊に加えて一二〇mm重迫撃砲2個小隊での制圧射撃を食らっていたにも関わらず、この結果はなかなか得がたい。

《フンメル31よりパラディン。シックル1の煙幕展張を確認。うさぎ跳びで後退している。フンメル31は砲撃誘導をもって援護する》

「よろしく頼む」

 しばらく待つうちに味方の砲撃が敵機甲部隊に加えられ、交互躍進うさぎとびで後退していたシックル1が全力後退に移る。

『全騎兵、遮光マスクをかけろ。北の尾根は見るな』

 ジェイクが騎兵たちに注意を促す。私はあたかも自分で命じておいておいたかのように、知らん顔をしておいた。北の尾根、尾根といえば優しく聞こえるが実際には五〇〇〇m級の峰々だ。

 まだ雪が残っていて、それに曙光が反射しはじめている。あと10分もしないうちに眩しくて仕方なくなるだろう。

 光学視界センサーに遮光マスクをかければコントラスト差でセンサーがイカれる(白飛びする)ことはある程度防げるが、暗所への認識能力が下がってしまう。痛し痒しだ。

 戦術情報マップに味方の二五〇mmロケット大隊が射撃を開始したとの報告が表示される。

 しかしそれにしてもなぜ敵は砲撃をやめたのだ、と思ったとたんに敵の反応が忙しくなった。


 フンメル31が音声で絶叫する。

『フンメル31より各部署、遠距離より複数の飛翔体を確認!戦術弾道ミサイル、高速だ!東方より接近中、四八秒後に到達の見込み!我々の自衛火器では迎撃できない!電脳干渉間に合わない!っと、敵の砲迫が射撃を再開……何だこの数は、奴らどこに隠してやがった!警報!警報!敵砲撃感知!聯隊規模!聯隊規模の砲撃だ!』

「みんなタコツボに入れ!伏せろ!」


 私が叫んだ64秒後、敵の砲撃が我々を襲った。一個聯隊規模の砲撃が、私達が奪還した丘に集中して降り注ぐ。

 圧倒的な量の砲弾が陣地を耕し、塹壕やタコ壺ごと歩兵たちを切り刻んでゆく。迫撃砲小隊の陣地で誘爆が発生した。

 騎兵だとて無傷では済まない。榴弾射撃の合間を縫って、一五五mm知性化弾頭が我々を襲った。掲げた防盾に多数の被弾。成形炸薬弾(HEF)自己鍛造弾(FEP)なら一二〇mm口径にでも耐えられる防盾が、打ち続く命中弾に装甲材を削られついには貫通されてしまうものが続出した。

 特に正面に配置していた第二中隊(フレイル)は、騎兵の補充を受けて九騎まで回復した戦力が再び半減する事態へと陥った。


 なかでも最悪なのは、敵の戦術弾道ミサイルだった。

 数は四発。いわゆる大量破壊兵器ではない。

 彼らが携えてきたのはミサイル一基あたり一五〇発内蔵している知性化弾頭であり、一基あたり幅八〇〇m縦深一.三km内の機甲部隊を制圧できる。

 それを我が戦線後方、第五砲兵聯隊展開地域へばら撒いたのだ。

 結果は推して知るべしである。


 ああ、畜生。

 戦術情報ストリームの接続さえも切れ切れになる中、それでも受信した被弾情報(ダメージレポート)に声にならないうめき声をあげていた私は、着発信管付きの一五五mm榴弾の直撃を喰らい、昏倒してしまった。



----------------------



 夢を見ていた、ような気がする。



 私は何故か軍を辞めていて。


 なぜだか首都の公団住宅に住んでいて。


 大きな腹と赤ちゃんを抱えて公園までお散歩して。


 これまた小さな息子さんを抱えたマリアさんとお話して昼まで過ごして。


 家に帰ると可愛らしいお手伝いさん――夏休みのアルバイトをしにきている三軒となりの女子高生が、今日は暑いからとざるそばを用意してくれていて。


 蕎麦はおじいさんが領地で取れたものを自ずから打ってくれたもので、真空パックにしていたのだったかな。


 洗い物をするお手伝いさんの横で、娘にミルクを飲ませて寝かしつけて、洗い物が終わったら恋の悩みなんかを聞いてあげたりして。


 お手伝いさんとおやつどきまでうとうとまどろんで。


 赤ちゃんの鳴き声で目覚めて、おしめを替えて。


 お手伝いさんとアイスを食べて、一時間ほど宿題を見てあげたあとにお買い物をお願いして。


 私は洗濯物をたたんでいて。


 テレビは、夏の全国高校ベースボール大会でご近所のハルスさんが監督してる都立第三高校が準決勝に進出したことを伝えていて。


 彼のスキンヘッドとサングラスもさることながら、チームメンバーが全員ギャングスタみたいな格好で、HBA(高校ベースボール連盟)の役員がガタガタ騒いでいるのが話題の中心で。


 クスクス笑ってみていたら、ミッシーからメールが来て。


 またフラれたからねーさんなぐさめて、とかなんとか書いてあって。


 なんでフラれたのって聞いたら、彼氏のケータイの通信記録全部ぶっこ抜くスパイウェアを遠隔でインストールしたのがバレた、ってそりゃあんたそうでしょうよって。


 そうこうしてたらお手伝いさんが帰ってきてくれたから、今週のバイト代にちょっと色つけて渡したりして。


 晩御飯はどうしようかなぁ、お蕎麦美味しかったしたくさんもらっちゃったから、――と一緒に食べたいな。


 でもまたざるそばっていうのもどうなんだろう。


 お料理のレシピサイトでバリエーションを探して、夏野菜とお肉を涼しく食べられそうなものを探して。

 ――が美味しいものを食べて喜ぶ姿を想像して。


 最近ご無沙汰だから、セックスは無理でも一緒にお風呂入ったりなんかして、――を困らせ……?


 ――って……


 ……誰だ……?

 

 顔を思い出せない。

 名前も思い出せない。

 どんな声かもわからない。

 どんな仕事をしているのかも。

 私を抱いたその手の有り様さえも。


 わからない。



 わからない。





 わからない。





 目眩とともに猛烈な吐き気を覚え、胃の中のものをぶち撒ける。

 鳴り響く警告音。

 戦術情報マップに警告表示。06および11から14までの騎体信号が消失。後続の機動歩兵にも損害が出ている。タッチしてダイアログを閉じる。

 直ちに兵装状況確認。

 一二〇mm騎兵砲は熱で歪んで使いものにならない。防盾は保持アームごと消失している。タービンが過熱し焼きつく寸前。直ちに回転数を落としクラッチ切断。冷却材をエンジンルームに噴射させる。実際はエンジン過熱防止安全装置のスイッチをオンにしなおしただけだ。これであと五分はタービンを使えない。バッテリーの残容量が減少していく。騎体各部を動かして関節の様子を見ながら、兵装状況を確認していく。と、背中に何かが焼き付いているようで背面の動きに制限がある。なんだろうと背面カメラをオンにすると、そこに張り付いていたのは溶けてしまった11の、アジュールナイツ副長騎の、マリアさんのおやじさんが乗っていたアジュール・エクリプスのドロドロに溶けた腕だった。振り返ると、下半身だけとなったマリアさんの乗っていた騎体が、どうと倒れるところだった。



----------------------



 頬を熱い何かが流れ落ちた。


 音。

 私が認識したのはまずそれだ。

 次に光。

 ぼんやりした視界の中に、いくつかの赤い警告表示が飛び込んできた。

 あ、東方人街で食べたオコノミヤキに乗ってたベニショウガみたい。また食べたいなぁ。


 などと頓珍漢なことを思った次の瞬間、意識が覚醒しはじめる(・・・・)

 ヘッドセットからの音を、人語と機材が発する警告音として認識する。が、耳鳴りがしてはっきり聞き取れない。

 メインパネル、戦術情報マップ、左右のサブパネル、兵装情報パネルに無線制御パネル、そのいずれもが赤の警告表示や黄色の注意表示を点滅させている。

 そしてこの振動。

 気を失っている間に敵の砲撃は終了したのか、先程までの連続した振動は感じられない。だが、なにか極端に重たいものを引きずり、持ち上げ、落とす一定のリズムの振動。

 咄嗟に戦術情報マップの表示を切り替え、接続ノード一覧とする。

 パラディン2と3、ジェイクとミッシーは健在。

 シックル1は1-1アルベルト、1-2キム、健在。1-4フランツは食われたのか、接続が切れている。ダメージレポートログ展開、敵弾を背面より被弾とある。それ以後接続ログは一切なし。

 第一中隊第2小隊(シックル2)第一中隊第3小隊(シックル3)は合計して五騎が戦闘可能。戦闘不能三騎は全て大破、うち二騎はバイタル信号フラット。

 フレイルは1-1サカイ、2-3ヨシナガ、2-4リッチー、3-2ジョーダンしか生き残っていない。戦闘可能はサカイ、ヨシナガ、ジョーダンだけだ。

 グレナディアは二八名にまで減少、シュバルツも二七名しか残っていない。

 ありがたいことにフンメル31、ハマー43、カノーネ、クソッタレのメカドッグは接続が切れていない。

 

 撤退すべきだ。

 私のワニの脳が強く叫ぶ。

 こんな状態でまだ持久するなど冗談ではない。

 聯隊は死守命令など出していない。

 逃げたところで誰も文句など言うわけがない。

 逃げろ、にげろ、にげるのだ。

 ああ、だがしかし。

 しかしだ。


 振動は止まない。


「畜生め」

 口をついて出たのは怒りとも喜びともつかないうめき声。

 脳裏にはあの光景が広がっている。

 戦隊を失ったあの日の風景が。

 私が何かを失った焼け野原が。


 振動は止まない。


「このくそ罰当たりの唐変木の」

 戦術情報マップ表示切り替え、戦術情報表示。

 第五砲兵聯隊の最後の射撃は成功し、私達が突撃を恐れた敵機甲部隊はせいぜいが二個大隊までその数を大きく減らした。だが前進とシックル1の追尾は継続中。一部は統制を保ったまま後退しつつある。

 画面の右の方、つまり我々から見て北東でも動きがある。そちらにいる敵はたった一つだけ。

 素早く兵装情報パネルを確認、右手で警告表示にタッチして内容を確認しつつ、左手でコクピット内機能スイッチパネルを操作、警告音遮断、酸素供給を強化させる。


 奴が近づいてきている。

 振動は止まない。


「うすらのろくさいインキン野郎め」

 兵装情報によれば防盾が機能停止。バブルユニット、予備弾倉管理システムからはともに応答なし、ただの板切れになっている。

 予備弾は主砲に装着した弾倉と、右前腕内側に運用規定をはなから無視して括りつけた二個の弾倉のみ。弾種はいずれも徹甲弾(APDSFS)。合計一五発。なんとも心強いじゃないか、ええ?

 左前腕から防盾をパージ。爆発ボルトが作動し、防盾保持アームが左前腕から切り離される。

 主砲健在。念のため強制排莢、セルフクリーニングスタート。弾倉に仕込まれたタンクから高圧縮空気が砲身内部に吹き込まれ、砲身や機関部に入り込んだ土砂を吐き出させる。

 左腕部、フレームに損傷あり。弾倉交換はできそうだ。

 右腕部健在。左右脚部、体幹部いずれも健在。ただし左肩甲骨関節が過負荷で反応が鈍い。

 メインカメラ健在。

 Xバンドレーダーは損傷、もともと趣味じゃないから構わない。

 超低光量TV(ULLTV)熱線視界(サーモ)は健在。

 YAGレーザー照準器、CO2誘導レーザー照射器正常動作。

 無線システム正常、でなければとっくの昔に戦術情報ストリーム(いのちづな)から遮断されている。

 振動はまだ続く。

 耳鳴りはまだ止まない。


「わかってるよ、わかってるぞこのやろう、待ってろよ、今すぐ」

 全方位レーザー/紫外線警報器のデータを利用して騎体とタコ壺の間に入り込んだ土砂の状況を確認。それなりに入り込んできてはいるが、特に支障はなさそうだ。

 火器管制装置(FCS)再起動、セルフチェック開始。

 連動してオートバランサーがキャリブレーション補正開始。肩甲骨ユニットおよび肩部装甲内部のバブルユニットの出力を調整し、左右のバランスを取り直す。

 ガンカメラシステム接続確認。FCSと再度リンクが確立し、ただの巨大な鉄パイプが兵器として息を吹き返す。

 マスターアームスイッチ、オン。

 主砲装填。

 一〇五mmXM93徹甲弾(APDSFS)は、一二〇mmM90徹甲弾(APDSFS)のコンセプトを受け継いで小型化されたものだ。弾芯長比(L/D)三二。タングステン合金製の、現代の三間長柄(パイク)。昨日までは小さいながらも力強く思えたこの弾薬も、チェルノボグどころか敵戦車にすら限定的な効果しか示さない。

 

 だからそれがどうしたっていうんだ?


 マスタースレーブモード、左手で役立たずになった防盾を払いのけながら立ち上がる。


 完全に意識が覚醒した。

 耳鳴りが止む。

 振動は止まらない。

『フンメル31!戦域データはいらん!狭域でいい!精測データよこせ!重迫の真似事をせにゃならん!フレイル、小隊統制射!儂のデータに合わせろ!弾種HEF、遠距離曲射、速射五発!テッ!』

『1-2!走れ!』

『パラディン2よりシックル2および3、HEFで構わん、チェルノボグの足を止めろ!』

『くそったれめ、全部レーザーで叩き落とされてるぞ』

『カノーネ、パラディン3です。指定座標に』

『もう撃ったわ!修正よろしく!』

 くそったれ、まるで地獄だ。

 周囲では多数の味方騎が黒煙を上げながら炎上し、あちこちの塹壕には歩兵どもの装甲服が散らばっている。何かが欠損していない装甲服はほとんどない。

 フレイルの展開した周囲にいくつかの戦車砲弾が打ち込まれ、土砂を大量に巻き上げた。敵は既に煙幕帯を突破し、距離三〇〇〇まで近づいている。

 生き残りの歩兵が戦列を整えなおし、射程ギリギリで携行対装甲ミサイルを敵機甲部隊残余に向けて撃ち放った。直ちに応射がある。ほとんどは外れたが、またひとり吹き飛ばされた。

「パラディン2、パラディン1だ。状況を知らせろ」

 歯噛みしそうになるのをこらえ、努めて何気ないふうを装って声を上げる。

 ひゅっと誰かが息を呑んだあと、無線機が爆発・・した。

『ボブ!生きてましたか!』

『パラディン1!』

『おお、大隊長も生きとったか、重畳重畳』

 私はそれに応えず、立射姿勢。長距離狙撃体制へ移行し、騎兵砲を腰だめに構える。

 データリンクから目標を拾い、目標ロック。騎体が勝手に旋回し、ロックした目標へ砲身を向ける。メインカメラ最大ズーム。シックル1を追い回す敵集団が見えた。数は戦車六。距離四二〇〇。

 ミッシーの騎体が拾う電子戦情報と組み合わせ、集団のリーダー格を推定する。

 何気なく右手親指のスイッチを押す。シートの左右に張り出したマスタースレーブアーム、その先端に設置された左右の操縦桿(スティック)にはこれでもかと言わんばかりに多数のスイッチやカーソルレバーが備わっているが、基本的にADとMDのスティック操作は変わらない。この程度の操作を間違えることはない。

 測距レーザーが直ちに敵との距離を弾き出し、環境センサーが感知している風向、風量、気温、湿度、さらには砲身揺動検知システムが検出した砲身の振動と重力による垂れ下がりを火器管制装置(FCS)が砲身のとるべき二つの角度――方位角と仰角へと数十ピコ秒で集約する。


 トリガーを引く。

 砲架に内蔵された高速応答人工筋肉が、最後の砲身角度の微調整を行う。

 新たな砲身の揺動を砲身揺動検知システムや各部の加速度センサーが検出、データをFCSに送り最終的な発砲タイミングが決定された。

 FCSがデータバスを通じて発砲信号を砲システムに送信する。

 装填された主砲弾の電気雷管が爆発し、周囲の装薬の目を覚まさせる。装薬の燃焼で発生した発射ガスは、出口を求め装薬それ自身とともに砲弾を押し出しはじめた。

 砲弾が薬室から砲身へと進みきったところで一次加速が終了し始める。その頃には二層構造の粒状装薬、その一層目たる外皮は燃焼を終了し二層目が燃焼を開始する。

 発射ガスに揉まれながら燃焼を続ける装薬は更に発射ガスを放出し、砲弾をさらに加速させる。装弾筒と砲身との僅かな隙間から漏れでた発射ガスが、砲身内部に残っていた砂塵を吹き飛ばしながら砲口から吐出される。

 認識できないほどの間を置いて、装弾筒をまとった徹甲弾(APDSFS)は砲口から秒速一四九〇mで飛び出した。

 トリガーを引いてからここまでわずか数ミリ秒。

 砲口から砲弾が発射された後にも、残った発射ガスが砲身から吐出され、一瞬で火球を形成する。砲弾と火球が生み出した衝撃波で周囲の地面から砂塵が盛大に舞い上がり、風で東に流された。

 砲弾の発射完了までその反動を支えていた油圧装置のロックが解除され、反動制御コンピュータが反動を絶妙に減衰させながら砲身を後退させる。肩と肘の関節が適度に稼働しそれをサポート。

 体幹部がわずかにゆれ、砲架と腕と肩で吸収しきれなかった反動を受け流す。

 そのころ砲弾は身にまとった装弾筒をとっくの昔に分離し、細長い槍のような侵徹体だけとなって飛翔していた。行程の二/三を消化したところで重力に従い、先端を下にして高度を下げ始める。

 一般に言ってAPDSFSのような有翼弾は、距離が広がった際の集弾がライフル砲弾よりも悪くなる傾向がある。特に今回のような射撃は、ほとんど限界射程に近い。それでも当たった。

 遠距離、高度差八〇mからの射撃。

 それが生み出した結果は、標的の砲塔上面装甲中央部への着弾、侵徹、そして敵戦車が搭載していた砲弾の誘爆だった。

 リーダー格を失った戦車集団はその場で停止、戸惑うように砲塔をあちこちへ向けたが、二〇秒ほどでわずかに後退。

 その後本隊への合流を開始した。


 その様子を見届けると、私は先程よりは気合の入った声を出した。

「諸君、戦はこれからだ。敵を教育してやろう」

 言い終わるのとほぼ同時に、チェルノボグは空中へ向けてその主砲を放った。

 朝焼けのそらに白く太い閃光がほとばしり、ついではるか上空でカノーネの放った砲弾とおぼしきものが爆発する。

 

 チェルノボグ。

 悪魔のAD。

 そうとも。

 やつを必ずぶっ殺してやる。

 そのために私はここにいるのだ。

衝撃工学の論文とか読むとクソ楽しい!ってなるミリオタはボクと握手!


砲弾のスピード:

砲口を飛び出た直後を初速、標的または標的を外れて地面に落ちるときの速度を着速といいます。

大気中では空気がありますから、当然着速は砲弾が遠くに飛べば飛ぶほどにつれてドンドン落ちていくことになります。

APDSFSのような運動エネルギー(KE)弾は、着速と侵徹体の物性がその威力を決めるので、当然初速や着速が早いほうが威力は高まります。

HEAT(こちらの物語世界ではHEF)などの化学エネルギー弾は砲弾の飛翔速度にあまり関係なく威力を発揮しますが、標的までの到達時間が短いほうがいいのは言うまでもないですね?


自己鍛造弾:

SSF、FEPとも。HEAT(HEF)と同じく爆薬の力で爆薬前面に取り付けられたライナープレートを塑性変形させ侵徹体を形成、2000m~3000mで射出する化学エネルギー(CE)弾の一種。

物語世界では知性化弾頭や、120mm騎兵砲の遠距離用砲弾として使用されているようです。

詳しい解説はwikipediaにも載るようになった(しかもわかりやすく端折っている)ので良い時代になりましたねぇ…

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E9%8D%9B%E9%80%A0%E5%BC%BE


侵徹:

詳しくは続きの話で書きますが、APDSFSやHEAT(HEF)、FEPが機能を発揮する着速域(秒速1300m前後からより上)では、旧来の徹甲弾とは装甲を貫徹する原理が異なります。

秒速1300mを超える速度域で金属個体同士がぶつかった場合、それらは普段の弾性(曲げ圧力への強さ)や靱性(摩耗への耐性)延性(どれ位延びるか)といったもの(ユゴニオ弾性限界)をかなぐり捨て、流体として振る舞い始めます(塑性変形)。

衝突した物体は、衝突されたものとの接触面から順に流体へ変貌し、自身と標的の一部をクレーターを形成しながら押し出します。

このように標的を侵食するかのような機構から、APDSFSやHEAT(HEF)、FEPが装甲を食い破る原理を「侵徹機構」と呼びます。


YMD-21Aの砲反動吸収プロセス:

10式戦車のアクティブリコイル機構のパクリです。押忍。

これをどんな姿勢でも行えるプログラムが開発できたことで、YMD-21Aは105mm砲を搭載できたわけですね。

まぁ大元はADのそれなのですが。

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