01 憑依転生
俺の名は藤田煉。
二十九歳のうだつの上がらないサラリーマンだ。
顔はまあ普通より下だと思う。
性格の方は悪人じゃないけど、良くもない。なぜなら俺は女性に対して内気な癖に、女性への理想が凄く高いのだ。
おかげで、彼女いない歴イコール年齢の童貞だ。
「はぁ……今日も残業しんどかった……」
こんな俺も、あと2時間ほどで30歳のアラサーだ。
そんな憂鬱な夜に、俺は現実から逃げるように自室でお気に入りのゲーム、グラディエーター(剣闘士)に没頭した。
画面の中では、鍛え上げられた大男たちが、大歓声の中で命を削り合っている。ふと時計に目をやると、デジタル時計の数字が六月三日の【0:00】に切り替わった。
「はぁ。今日で俺も30歳の魔法使いか……。もし異世界に転生できたら、次はこいつらみたいに強くてカッコいいイケメンになりたい。そしたらきっと楽しい人生が送れるだろうな……」
誰もいない部屋で、自嘲気味にそんな冗談を呟いた瞬間だった。
ドクン、と心臓が激しく跳ね上がる。
強烈な眩暈が俺を襲い、視界が急速にブラックアウトしていく。
(え……? 嘘だろっ)
俺は力なく床へと倒れ込んでいく。
(おれ……どうていの……まま……しぬ……のか……)
ーーーーー
どれほどの時間が経ったのだろうか。
じっとりとした暑さを感じる。
血と汗が混ざったような、鉄の錆びた臭いが鼻を突く。
(……よかった……おれ……まだ生きてるよな……?)
朦朧とする意識の向こうから、ひどく野太く、荒々しい呼び声が響いてきた。
「――レン! 起きろ! 出番だぞ!」
誰かが俺の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけている。
(だれ……? 救急隊員が助けに来てくれたのか?)
俺は薄っすらと目を開け、目の前の男の顔を見た。
(…お……オエノマウス教官)
初めて見る男の名が、自然に頭に浮かんできたその瞬間
――脳内に膨大な記憶が流れ込んできて、今の状況を完全に理解した。
う……うそだろ。
ここはローマのカプア闘技場だ!!
いまの俺は新人の奴隷剣闘士のレンだ!
そのレンのことを深く思い浮かべた瞬間、彼の“最後の記憶”がフラッシュバックした。
彼はついさっきまで、
『生まれ変わったら平和な時代で自由に生きたい』
と椅子に座って祈っていた。
そして最後に、
『誰か……俺と代わってくれ!』
と強く願った。
その瞬間、『そなたの願いをかなえよう』と、どこからか声が聞こえた。
恐らく神の声だ。
つまり……これって、
あいつの魂は現代日本へ行って、
俺の魂はこの地獄のコロッセオってことかぁぁっ!?
「おい、レン! ボサッとするな、早くしろ!」
オエノマウス教官が怒声とともに、俺の胸ぐらから手を離し、代わりに武器を寄越してきた。
「お前の獲物だ! 死にたくなければしっかり握っていろ!」
投げ渡されたのは、短剣とお守り程度の小さな木製の盾。
周りを見渡せば大きな待機室には、出場を控えた剣闘士たちが大勢いた。
緊張で嘔吐する新人、神に祈りを捧げるベテラン。
さらには筋肉を光らせて見栄えをよくするため、油を体に塗る剣闘士たちがひしめき合い、全員がピリピリとした殺気を放っている。
(ここが本物の剣闘士たちの闘技場……これ……やばすぎだろ……)
ギギギ……と重い音を立てて、闘技場へと続く鉄格子が上がり始めた。
格子の向こうから地鳴りのような歓声が聞こえてくる。
「さあレン! お前のデビュー戦だ! 生きて帰ってこいよ!」
はあ、イヤだよ! いきなりデビュー戦とか何考えてんだよ! ゲームでもあり得ないって! チュートリアルはどこに行った!?
そう考えている間に鉄格子が半分まで上がった。
(ヤバいヤバいヤバい! どうしよう、どうすればいい!)
レンは辺りをしきりに見回すが、逃げ道はない。
通路には武装した監視兵が立っている。
レンが人生を諦めかけたその時、彼はふと気付いた。
視界の左上に、HPとスタミナっぽい表示が見える。
そして右上にはメニューと言う項目があった。
レンは頭の中で急いでメニューを開くイメージをする。
1ステータス表示。
2所持品。
3スキル購入。
4人間関係
5HELP
(なんだこれ、取り敢えずステータス表示だ!)
【ステータスウィンドウ】
■名前: レン
■年齢: 15歳 紀元前92年産まれ
■出身地:ガリア
■容姿:黒髪黒目の美形。戦闘適性の高い体格。
■称号: 新人剣闘士(全ステータス補正+1)
★レベル: 1(最大レベル999)
★HP(体力): 345 / 345
★SP: 130 / 130
■【能力値】
★筋力: 270(平均的な剣闘士400)
★敏捷: 380(平均的な剣闘士400)
★耐久: 220(平均的な剣闘士400)
■【スキル】
★短刀術 Lv.1
★盾術 Lv.1
★言語理解(ラテン語/ガリア語) Lv.Max ※転生特典
■【現在の装備】
★頭:なし
★胸:なし
★腕:なし
★腰:革ベルト、ロインクロス(腰布)
防御力+3
★足:カリガエ(鋲付きサンダル)
防御力+3
★右腕:
錆びたグラディウス(短剣)
攻撃力+100
★左腕:
粗末な木製円盾
耐久力500
(弱えよ! 何やってんのこいつ! まったく鍛えてないじゃん!)
「レン行け! 観客を待たせるな!」
(嘘だろ!? まだ全部見てないんだけど!!)




