新たな世界_2
カナイ村の中心からすこし外れた場所、
『噴水広場』にやってきたタロとミア。
茶色と肌色の石畳がランダムに敷き詰められた
広場の中心には、噴水が設けられている。
そのぐるりには木製のベンチが5席ほど置かれている。
お昼時の今は子供連れの家族や、年配の夫婦がベンチに座り、
太陽の光でキラキラと輝く噴水の水を眺めている。
その広場から「ナオトリ村」に続く道に行くことができる。
タロとミアの二人は、少し早歩きでナオトリ村へ向かっていった。
問題の道にさしかかったとき、
男たちの群れが道を塞ぐように集まっている。
群衆の中から一人の大男が、タロとミアに気付き、
「おお、ミア。タロを連れてきてくれたか。」
と、だれでも聞こえるような野太い声を2人に向けて
手を振りながら近づいていく。
「えらく賑わってるね。ジャム。」
ミアが本気とも冗談ともつかない一言。
「言ってる場合か!よく来てくれたタロ。」
『ジャム』と呼ばれた大男はその強面の顔をくしゃくしゃにして笑いながら、
タロの肩を必要以上の強さで叩く。
「痛い痛い。で?モンスターは?」
タロは肩をさすりながら、群衆のほうに目を向ける。
「今は道の中腹ほどのところでウロウロしてやがる。」
ジャムは忌々しいといったふうに道のほうを睨みつける。
「村人達にはなるべく外に出ないようにいってある。
念の為、カナイ村とナオトリ村の入り口はそれぞれの村の男達で封鎖している。」
ジャムは腕を組み、鼻をフンっと鳴らす。
「じゃ、後は頼んだぞタロ。」
ジャムは再びタロの肩を強めに叩く。
なぜかミアもタロの反対側の肩をバシバシと叩いている。
「痛い痛い。」
タロは2人の鼓舞を受けながら、群衆の方に向かって歩き始めた。
男達の群衆のかき分け、ナオトリ村へ向かって進んでいく。
普段は村人で賑わう往来とは思えぬ、静まり返った一本道。
タロは背中に背負った長刀を鞘からスラリと抜く。
彼の目の前に、赤黒い巨体がノソリノソリと歩いている。
「こんな集落にやってくるとは・・・」
巨体の正体は『レッドベア』
赤黒い毛で覆われた、熊のような中型モンスター。
丸太のように太い前足に、人間など簡単に切り裂ける鋭い爪。
中級冒険者でも気を抜くとヤられる手強いモンスターである。
その魔獣がタロの存在に気がついた。
身体を起こし、両前足を頭上に上げ、近所迷惑どころの話ではない大きな咆哮を上げる。
耳に障ったのか、タロはしかめっ面になりながら、手に持った大剣を中段に構える。
レッドベアは地響きを立てながら、凄まじい速さで青年に突進する。
前足を振り上げ、鋭く光る巨大な爪がタロに向かって振り下ろす。
タロは大剣を横に薙ぎ、爪を受け止める。
が、受け止めた大剣は勢いが止まらずに、レッドベアの前足を爪ごと横一線に切り裂く。
レッドベアは喚き声を上げながら、後ろにのけぞる。
タロは動きを止めずに、大剣を魔獣の腹の真ん中に突き刺す。
大剣が魔獣の背中に突き抜け、赤黒い血飛沫が噴き出す。
タロは身体を捻り、大剣を真横に薙ぎ払う。
魔獣の巨体は真っ二つに分かれ、地面に転げ落ちた。
一瞬の出来事であった。