きまぐれな転生_2
「なぜ俺なんでしょうか・・?」
神様の話を聞き終え、真っ先に思いついた疑問だ。
「なんとなくです」
「え?」
「なんとなくですっ」
思わぬ回答に聞き返してみたら、
若干強めに同じ回答が返ってきた。
なんとなく・・・嘘だろ・・・
異世界移転という信じられない
御伽話にでくわしたのに、
理由が『なんとなく』の一言で片付いてしまった。
「なんとなく『移転』なんてやっていいものなんですか?」
「心配には及びません。あちらの創造主と話はついてますから」
「はあ・・・」
そういう問題なんだろうか。
「・・・それで、俺はこれからどうなるんですか?」
「ヴェルヴァニア次元の、とある世界に転生します。
その世界は、ノルディアと呼ばれ、つい最近まで
大きな戦争で混乱しておりました。」
「え、大丈夫なんですか?俺。」
どうしてまたそんなとこに転生されるのか。
混乱と同時に不安も押し寄せて来た。
「安心して下さい。戦争の傷跡は多少残ってますが、
今は比較的安定しております・・・してるはずです。たぶん。」
「不安になってきました。」
安心させる言葉とは真逆の何の感情も読み取れないほどの無表情で
淡々と説明を進める神様。
「でも、その・・・僕はいったい何のために
ノルディアって所に転生させられるんですか?」」
「・・・気まぐれです」
「・・・。」
返す言葉も出てこない。
神様のなんとなくの気まぐれで、
異世界に飛ばされてしまう。
「大丈夫です。そんなに思い詰める必要はありません。」
そう言うと、神様は
ゆっくりと腕をこちらに伸ばして、
手のひらをこちらに向ける。
そして目を静かに閉じた。
すると手のひらに向かって四方から光の筋が集まっていく。
光の筋が徐々に集合していき、白く輝く球状に変化した。
あまりにも眩しいので、僕は手で光を遮る。
光が集まる輝く白球はますます膨れ上がり、
小玉スイカほどの大きさになった。
すると神様の目がゆっくりと開かれた
次の瞬間、光の球がこちらに向かって飛んできた。
それもかなりの速さで。
気がつく前に、目の前が真っ白になった。
身体が急に軽くなる。
何だか心臓が熱くなり、温かい血液が
全身の隅々まで巡っていくのが感じられる。
光がおさまったのか、眩しさは感じない。
すぐに神様の方を確認すると、
「今の光は私からの祝福です。」
神様はこちらに向けた手を下ろす。
「神の祝福はあなたの潜在能力を極限以上に向上させます。
あなたのこれからの人生にきっと役立つでしょう。」
「はあ・・・あ、ありがとうございます。・・・」
よくわからないが、祝福されたらしい。
とは言っても、新しい世界、それも異世界だ。
これほど心強いことはない。
「では、そろそろ転生の準備に移りますね。」
そういうと、神様は両手を広げる。
すると今まで真っ白の地面が、
雄大な自然の景色に変わった。
確かに自分の足で立ってはいるが、地面に立っているわけではない。
足の下は大自然の一大パノラマ。
まるで空を飛んでいる鳥のように大陸を一望できる。
「今私たちの足元に広がっている景色はノルディアの世界です。
ラジアンド大陸と呼ばれる広大な大地には、幾つもの国や集落があります。」
広い大地にコブのように山々があり、大陸を切り裂くような大河も流れている。
黒く切り立つ断崖、荘厳で神々しい山脈もある。
緑溢れる自然界のところどころに居住区や、村、都市、壁で囲まれた城塞も確認できる。
「すごい・・・まるでファンタジー映画のような世界ですね。」
「あなた達のいた世界では空想の中の話でしょうが、こちらの次元では
実際にある世界なのです。
では、時間も時間ですし、よろしいですね?」
「あ、転生ですか?ちょっと心の準備がほし・・・」
「では、楽しんでくださいね。」
神様の口がうっすら笑うと、
今まで地面を踏んでいた感覚が突然なくなり、
まるでスカイダイビングのごとくの急落下。
大空にいた俺は真っ逆さまにラジアンド大陸へと落ちていった。