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話せる相手

 ヴォォオオオ!!


 遠くから叫び声が聞こえた。まさか死後の世界にまでオーガが追って来るとは思わなかった。って、またこの場面? さっきは確実に死んだぞ! 絶対に夢じゃなかった!! そして今も夢じゃない。……俺は、死ぬ度に現実をやり直している? そうとしか思えない。先程、綺麗な刃に貫かれた背中には何の傷もなく、頬を抓ると相応に痛い。神様は、俺を死なない、いや、死んでも戻ってくる身体に創りたもうたのか?


 ヴォォオオオ!!


 また追いかけっこをやるのか? それに俺のスキルはどうなった? もう一度【透視】を0から育てるのはちょっと面倒だ。


 オーガの咆哮に震えながらギルドカードを取り出すと、これはどうしたことだ。また、表示が変わって──。


---------------------------

 名前 :ヨナス

 性別 :男

 スキル:閃光2 交渉5

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 うおおぉぉ! さっきよりもスキルセットが酷くなってる!! 水生成のスキルがあったから俺は冒険者を始めたと言っても過言ではなかったのに!! 交渉なんて商人のスキルじゃねえかよ!!


 しかし待て。オーガはそこそこ知能が高い筈……。ここは一つ試してみるのも手かもしれない。だって交渉のレベル5だし! いや、いける気がしてきた。いけるだろ!!


 考え込んでいると、すぐそこまでオーガは迫っていた。腹を括るしかない。俺はゆっくりと振り返る。


「やあ、待っていたよ。君はオーガだね? なんと逞しい姿。そしてその瞳には知性を感じる。ただのモンスターではないね」


「ヴォ?」


 よし、とりあえずいきなり首を飛ばされることはなかった。突然話しかけられてキョトンとしている。


「しかし、その格好はいただけないな。腰蓑をつけただけじゃないか。君はオーガの中でも上に立つ者。相応しい装飾で身を固めるべきだ。そうは思わないかい?」


「ヴォォ」


「そこでだ! 君にこの首飾りをあげようではないか!! これは古のオーガの王が身につけていたという逸品!! これをつけて仲間の所へ戻れば、君は瞬く間に王の座を射止めるだろう!!」


 第2階層の宝箱から出た翡翠の首飾り。売れば3000ギムぐらいか。一晩の酒代だな。俺は今、それに首を賭けている。


「ヴォォ……」


「参ったよ。君はなんでもお見通しだな。よーし、これも付けよう。かつてこの世界を創造したといわれるクルセハ神の涙を指輪にしたモノだ。これも持ち帰って仲間に見せるがいい。直ちに平伏すだろう」


 宿屋の娘の気を引こうと露店で買った水晶の指輪だ。2000ギムもしやしない。合わせて5000ギムでなんとかお願いします!


「……」


「さぁ、これをもって仲間の所へ帰るんだ」


 首飾りと指輪を乗せて手を伸ばす。オーガもゆっくりと手を──。


「ヴォォオオオ!!」


 やっぱり駄目じゃん! だってモンスターだもん!! 頭の上を鋭い爪が通り過ぎ、髪の毛が舞う。


「【閃光】!!」


 目を閉じていてもその凄まじい光で頭がチカチカする。それにめちゃくちゃ身体が重い。【透視】と違って相当体力を消耗するぞ、【閃光】は。


 光がおさまった頃にようやく目を開けると、オーガが顔を押さえて蹲っていた。逃げるなら今しかない!!


「はははは! 愚かな奴め!! お前のような馬鹿オーガが王様になれるわけないだろ!!」


 ひいい! もう立ち上がりやがった!! 急げ急げ急げ!! 逃げるんだ!!



#



「はぁ、はぁ」


 【閃光】を使ったせいでもう体力が限界だ。きっと中級以上のスキルなのだろう。俺には過ぎたスキルだったようだ。


 ……おかしい。確かこの辺だった筈だが。俺は左側の壁を触りながら辛うじて走っている。もはや歩いてると言っても過言ではない。


 ヴヴヴォォオオオ!!


 おー怒ってる、怒ってるよ。オーガがご立腹です。もうね、叫び声が先程までとは違いますね。なんていうの? 騙されたーって言ってる気がする。これはまずい。すっごい殺され方されそー。


 ……ん。急に左手の感触が変わった。やっと辿り着いたか。ここが俺の最後の砦だ。ゆっくりと落ち着いて、腰から灯りの魔道具を外して点灯する。


 そして、隠し通路に差し入れてこう言うんだ。前回、俺を後ろから刺した相手にむかって。


「俺をアンタ達の仲間にしてくれないか?」

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