組織
「お前か。ウチの組織に入りたいって奴は」
目隠しを外されると、目の前に顔の半分を覆面で隠した男がいた。デスクに足を投げ出したままの姿勢で俺に問いかけている。その表情は分からないが、あまり興味は無さそうだ。しかし、こちらは全力でいかせてもらうぞ。
「へ、へい! あっしはヨナスと申します! ベルガーの兄貴をダンジョン内の隠し通路でお見掛けしたもんで、これはチャンスと思い、お願いした次第です!」
ここを生き延びる為なら何処まででも下手に出てやる! 土下座なんて生ぬるい。縛られたまま、全面降伏の意を示す為に床に腹這いになってやったぜ! どうだ、この俺の生に対する執着は。やっとダンジョンから生還したんだ。こんなとこで死ぬ訳にはいかない。もう、オーガとの追いかけっこは絶対に、絶対にごめんだ!
「ベルガー、こいつの言ってることは本当か?」
「ホント。ベルガー、嘘ツカナイ」
ベルガー、いや。ベルガーの兄貴が純朴な悪で助かったぜ! 一度目はいきなり背後から一刺しで俺を殺したけど。二度目、こちらが話し掛けると普通に対話に応じてくれた。ポロッと自分の名前もバラしてたしな。もちろん、【交渉】のスキルあってのことだろうけど。
「ヨナスとやら。何故ウチの組織に入りたい? お前は冒険者だろ?」
「あっひは、ていへんのぼ──」
「聞きづらい。ベルガー、こいつを起こせ」
イテテテ! ベルガーの兄貴、もっと優しく起こして! そんな方向に人間の身体は曲らないよ!?
「もう一度聞く。何故ウチの組織に入りたい?」
「へい、あっしは底辺の冒険者をやっておりやす。底辺の冒険者なんてのはその日食べるの精一杯の存在で。世間からの扱いなんて酷いもの。あっしは元々、スラムの出身なもんで、慣れてはいますがね……」
「続けろ」
「底辺の冒険者をやっていると、怪しい噂も聞くもので。最近では、商家のボンボンや貴族の馬鹿息子がダンジョンで追い剥ぎに遭うって噂でさ。ダンジョンの中でベルガーの兄貴が壁に入って行くのを見て、ピンときたんでやんす! これは、裕福な奴等に復讐するチャンスだって! お願いです! あっしをこの組織に置いてはくれませんか!?」
うおおぉぉ! 決まった!! 口から出まかせだけど、組織の名前すら知らないけど!!
「ヨナス。確かにスラム出身の品のない顔だ。人の幸せを妬む底意地の悪さが滲み出ている」
うほー! そこまで言われたのは初めてなんですけど!! もはや清々しい。下手に褒められるより嬉しいまである。
「だが、それがいい。その妬み嫉みこそが、革命の原動力! 我々はこの国に革命を起こそうとしている!!」
……おう。いつの間にか覆面さんが足を下ろして立ち上がっている。何なら拳を握っているぞ。人が興奮しているのを見ると、急に冷静になるな。うん。
「ヨナス、お前を"暁の狼"の一員として認めよう!!」
「ありがとうございます!!」
よく分からないけど、凄く嬉しい! 少なくとも今この場で死ぬことは無さそう!! あと、組織の名前が思ったよりかっこよくてホッとしています。
「ベルガー、縄を解いてやれ。しばらくはお前が面倒を見ろ。もし、ヨナスが変な動きをしたら、すぐ殺せ。それと、近々デカいヤマがある。明日からは追い剥ぎは控えろ。静かに牙を研ぐんだ」
「へい!!」
「ワカッタ」
覆面さんはサッと身を翻して部屋から出て行った。ベルガーの兄貴に物騒な指示を残して。もー、余計なこと言わないで欲しい。兄貴は純朴だから素直に聞いちゃうんだよねー。
「変ナ動キスルナ。チャント動ケ」
「ヘイ?」
ちょっと! ベルガーの兄貴が"変な動き"をなんか勘違いしてそうなんですけど!! これ、大丈夫なのか? 俺、生き延びられるの!?




