1:男達の戦い
ものすごく仰々しく書いていきますが、一応コメディーです。
大真面目に大馬鹿をするので、付き合える方はどうぞ。
「待機車両より定時連絡、開店時間まで15分を切りました。」
「了解した。偵察班、シャッターの開閉は?」
「先ほど、店員によって解錠されました。今は自動ドアのみですが、いまだ電源は通らず。」
「……。そうか……。あわよくば開店前特攻にて一気に制圧しようかと思ったが……。そうそう、上手くいってはくれないらしい。」
「……ッ!! ……中年女性の二人組を店前駐輪場にて発見。……敵の可能性あり。制圧のご判断を。」
「必要ない。おおかたタイムサービスが狙いなのだろう。たとえ目的が同じだろうと我々の敵ではない。」
2月14日、午前8時45分。ジャ○コの周辺を取り囲むように、男たちは『その瞬間』を待ち構えていた。
その人数は、一見しただけでは推量すらかなわず、見た人間に不穏な空気を察知させるには、十分すぎる人数だった。
しかし、休日の朝という人通りが少ない状況では、彼らに気付く人間すら少ない。気付いた人間すら、何かのイベントだと思い、深く考えないのだった……。
そう、今日はバレンタインデー。イベント、という考えもあながち笑い捨てられないのだ。
隠れているつもりで衆人環視に晒されまくりの男達は、それら想定していない理由で救われているのだった……。
無線の連絡が男達の間を行き交う。……携帯を使わないのは、漢のロマンゆえか。
熱くたぎる血潮に落ち着かず、男達は作戦内容を、何度も何度も確認する。もっとも、作戦開始5分前に再度復唱をすることになるのだが。
思えば、長かった。苦しかった。あまりに、苦しかった。悔し涙に枕を濡らした夜が昨日のことのように思い出される。
苦痛は、苦痛だけではただ苦痛でしかない。
しかし、一抹の期待を与え、そこから突き落とすことによって、苦痛は『拷問』にすら感じれるように昇華されるのだ。
男達は、その苦痛には耐えられた。しかし、期待という蜜を与えられることで、それを『拷問』と恐れるほどになっていたのだった。
男達は復讐する。
世間に、社会に、この国にッ!
「作戦開始5分前。作戦内容を復唱します。」
待機車両から無線連絡が入り、駐輪場に潜む者も、向かいのビルの屋上から偵察する者も、全ての要員が耳を傾ける。
「目標は、ジャ○コ。一階及び地下一階、食品売場。先行部隊は地下一階まで突入。それと共に先行部隊の殿は、エスカレーターを制圧、封鎖。後続は一階を制圧。全てを迅速に。ここまでの目標を30秒。30秒を超えた時点で以上がなされなかった、あるいは著しいトラブルが発生した場合、待機部隊が侵攻。」
そこで、無線が奪われる。……隊長である、郷田だ。
「待機部隊はあくまで、『万が一』だ。それに頼るような甘っちょれェ行動をしてみろ。ぶっ飛ばしてやる。」
……その横暴に聞こえる発言に、誰も反論しない。誰もが分かっていたのだ。最も苦しんできたのが、郷田だということを。
「……………。」
その郷田の無線を聞きながら、先行部隊の長を務める桐生は、自分の責任の重さを噛みしめていた。
「……葛西。殿、しっかりな。」
殿を任せられている葛西は、急に騒がしく立ち上がると、同じくらい騒がしく、
「は、はいッ! 任せてくださいッ!」
と叫んだ。
ここでの『殿』という言葉は、戦時に使われる『後退する隊の最後尾』という意味ではない。
戦いを起こすつもりが無いからこそ、単純な意味での『列の最後尾』という使い方をしているのだ。
それが指しているのは、この作戦での殿の責任の重さ。後退時の隊への攻撃を防ぐのも重要だろう。しかし、それはあくまで後退時。
この作戦では、殿の行動ひとつで、隊の後退を余儀なくされる可能性さえあるのだ……。
「しっかり俺たちが制圧している間、エスカレーターを守るんだ。頼んだぞ……。」
後続部隊の長、五十嵐は悪態をつきながら、郷田の言葉に耳を傾けていた。
「へっへっへっ…。最ッ高に馬鹿馬鹿しいことをクールに語ってくれるぜ……。オレ達が失敗?
万に一つ、どころか億に一つも、兆に一つも、京に一つだってありえねぇよ。……待機部隊の長だから、出陣したくないのは分かるけどよぉ。」
「突入後の出来事に関しては、想定外なことが多い。おそらく30秒を超えた時点で、作戦は荒れるだろう。てめェら、待機車両の指示を待つんじゃねェぞォ、自分で考えて動けェッ!!」
郷田の無線は檄を飛ばすものに変わっていき、耳をつんざく騒音を放ち始める。しかし、誰もが聞き続け、覚悟を固めていった。
「……以上をもって、作戦の開始宣言とする。……残り1分半。突入準備を整えろッ!!」
郷田の叫びと共に、隊員達が視界をジャ○コ入り口に向ける。
そして、装備を点検するために懐をまさぐった。……黒く、不吉な光を放つ『ソレ』をガチャガチャと確認する。隊員全員に支給されていた。
各自が、改めて玉を確認する。いざという時に切れてしまったら……。そんな不安を払拭するために数える。
大きさの違う玉を入れられるため、必然的に大きめの玉を用意する。しかし、小さめの玉と替えれば、敵に余り無く玉を向けることが出来るだろう。
……その選択は各隊員のスタイルに任せられていた。この作戦は、同志の集まりによるもの。当然のことだった。
彼らが玉を確認し終え、『ソレ』を懐にしまうと同時に、無線が叫び声で満たされた。
「ッ!! 偵察班より連絡ッ! 隊員が突入する正面入り口からは見えないが、専門店側入り口及び、ガーデニング店の入り口に複数名の女性の姿を発見ッ!! 駐輪場からの距離から考えて、不自然ではありませんが……。」
郷田がそれに応える。
「タイムサービス狙いだろう、臆するなッ!! 正面入り口が最も食品コーナーに近いことは確認済み。何も案ずることはないッ。」
……時間は残り30秒を切っていた。郷田が焦るのも無理はないことだった。
そして、秒針が進む。バレンタインデーの朝、男達の戦いが始まった。




