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筋トレのち遊び

アルヴァーは貴族としての勉強を受けていない。

それは私とアルヴァーの記憶から分かる。

確かにアルヴァーは五男で上に兄が四人もいる。

それに今、私が住むヨルダノヴァ王国は戦争をしていなくて順調に考えれば五男であるアルヴァーが家を継ぐこともまずはないからだ。


だからこんなこともできた。


「アルヴァー、何してるんだ?」


「・・・イェルド」


二週間、父の書斎の奥にある書庫に篭っていた私はコレが夢ではないと確信して行動をはじめていた。


「何って、腹筋?」


「ふっきん?・・・新しい遊びか?」


二週間前から少しおかしくなったアルヴァーを心配したのかそうでないのか私には分からなかったが、アルヴァーの性格が一変することに少なからず手助けをしてしまった四男のイェルドが私の部屋へと顔を出した。


「丁度よかった、イェルド、足持ってくれない?」


「なぁ、新しい遊びなのか?」


「そうそう、イェルド足持ってよ」


私の言葉にイェルドは納得したのか私の足を押さえ込むとニコニコと私の顔を覗き込んできた。


「これでどうするんだ?」


「体重掛けててくれたらいいよ」


五歳も年が離れていると体格もかなり違って、イェルドの体重は筋トレをするのに丁度良い按配だった。


「(・・・1、・・・2、・・・3)」


「なぁ」


「4・・・っなに?」


「この遊び、楽しいか?」


「5・・・っ僕は、楽しいけど?」


運動などほとんどしないアルヴァーの体は鈍っていて、昔はお風呂あがりにスイスイできた腹筋も10まで数えるのが苦しかった。

ところがただ足を押さえているだけのイェルドはそうじゃないらしい。


「・・・暇」


「9・・・っ、なんて?」


「ひぃまぁ――ぁ」


「10っ・・・っあぁ――・・・疲れた」


10数え終わって絨毯の敷かれた床に倒れこむとお肉の付いた腹に目掛けてイェルドが覆いかぶさってきた。


「ぐぇっ・・・!」


「そんなことより外で遊ぼうぜ!なぁ、アルヴァー・・・」


「ぐ・・・ちょっと、おも、い・・・!」


イェルドは決して肥満ではなかったが欧米に似た人種の十二歳なんてほぼ成人に近い体格を持っている奴もいる。

イェルドはそこまでは体格が良い訳ではなかったがやはりそれでも日本人の十二歳とは一線を駕する体格を持っていた。


「ちょ、わかったから・・・どいて!」


「じゃあすぐに庭に来いよ!」


私から了解の意を奪うとイェルドはすぐに立ち上がって私の部屋から出て行った。


「・・・げほっ、乱暴な奴」


私はというと圧し掛かられた腹を撫でながら上半身を起き上がらせた。


アルヴァーはイェルドと遊ぶのが嫌いではなかったが外でイェルドを相手にチャンバラをするのはあまり好きではなかった。

体格の差もあるがまずアルヴァーの性格上、勝てるわけ無いと分かっていてイェルド相手にチャンバラをするのは苦痛だった。

決してイェルドと遊ぶのは嫌いではなかったが外で遊ぶというのはほぼイコールでチャンバラだと分かったので私がアルヴァーだったらごめん被りたい出来事だった。


しかし今はそうではなかった。


「・・・あ、何も無理に運動しなくても遊びでカロリーを消費すれば良いのか」


『私』はアルヴァーと違って運動するのが嫌いじゃないしイェルドも苛めるように本気でチャンバラをするわけじゃない。

それを理解した私はすぐに汚してもいい服に着替えると庭の方へと出て行った。






**********


「アルヴァー、遅いぞ!」


「ごめん・・・っ」


庭へ行くと既にイェルドはチャンバラごっこの支度を終えていた。


「俺が英雄アマデウスの役をするからアルヴァーは魔王エーベルハルドの役な!」


「うん」


イェルドの言うアマデウスは数百年も前に居たという魔王殺しの英雄の名前で、エーベルハルドというのはその時英雄に倒された魔王の名前だそうだ。


そう、この世界には魔王や英雄、つまり勇者がいた。いや、魔王なら今もいる。

魔王は魔族の長、王でだからといって魔物を使って人間の住む世界を滅ぼしたりするわけではない。

魔物の中には魔王に逆らう奴もいるし、まぁ人間の社会とあまり変わりないものらしい。


今の王様はかなり年を取っているが私たちから見て賢君で(魔王なのに賢君というのも可笑しいが)人間の住む領土を奪う気もないらしい。


つまり今のところ戦争もありえない。


「アルヴァー!」


「あ、うん」


イェルドがどこから掠め取ってきたのか、木で作られた剣に模したそれを投げ渡されて私はそれを空中で掴んだ。


「お、初めて捕ったな」


「うん、そうだね」


アルヴァーは毎回投げ渡される木刀を額にぶつけて受け取っていた。


「(そりゃあ、目を瞑ってたら受け取れないわよね)」


その姿を見てイェルドが「しっかりしろよ!」というのが常であったが私が木刀をしっかりと受け取ったのでイェルドはにやりと笑った。


「じゃあはじめよーぜ!」


イェルドはそう言うと木刀を構えた。

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