この恋、止まれません! ㉑
「創さんとつき合うことになりました」
翌日の土曜日には完全復活できて、店でスタッフたちに報告をしてまわる。皆は驚きながらも一緒に喜んでくれた。今日も店に来てくれている創は呆れてはいても、「言うな」と言わないので、来店する客全員に宣言したいくらいだ。
「富永さん」
「な、なに?」
いつもどおりを装っているが、たしかに動揺が見える富永に頭をさげる。
「ごめんなさい。でも僕はどうしても創さんが好きです」
「……」
「仕事の面でもこれからも頑張るので、またよろしくお願いします」
拒絶されても食らいつこう。実里のしつこさは筋金入りだ。富永のことは卑怯だと思ったし、怖いとも思った。それでもやはり嫌いになったり憎んだりすることができないのだ。
反応を窺いながら姿勢を戻すと、富永は毒気を抜かれたような顔で表情を崩した。寂しげとも苦しそうとも言える表情だけれど、富永の中のなにかに触れられたのではないかと実里は思った。
「馬鹿だね」
富永の口調は、「しょうがないな」というような声だった。
「はい!」
元気に返事をすると、富永はますます表情をほどいて、そんな自分を隠すように実里に背を向けた。
「ま、頑張って」
最初に富永がくれた応援と同じ言葉をまたもらい、前のとき以上にその言葉を感謝した。創とのことを認めてくれたように感じたからだ。
「本当に馬鹿だな」
「創さん?」
「お人好し」
富永とのやり取りを聞いていたようで、頭をこぶしでこつんと小突かれる。呆れきったような声音なのに、目尻は緩んでいて瞳が優しい。
「創さん、村瀬さんのこと、よろしくお願いします」
店長がまるで実里の保護者のように創に声をかけた。胸がじんとするような温かい言葉で、実里はじわりと涙が滲む。
「最近村瀬さんの様子がおかしかったから心配だったけど、よかった」
店長はほっとしたように微笑み、たくさんの人に心配をかけていたんだな、と申し訳なくなった。同時に自分の恵まれた環境を感謝した。
「創さん、一緒に食べてもいいですか?」
店長が創の席で食事をしていいと許可をくれたので、舞いあがっていたらあっという間に休憩になった。店内はほどよく空席があり、忙しさも落ちついている。まかないを持って創の席に近づくと、目で「座れ」と示されたので、彼の向かい側の椅子に座る。創はいじっていたスマートフォンの画面を実里に見せる。
「遊び相手、消した」
「はい!」
「だから連絡先教えろ」
本当に男遊びをやめて実里だけにしてくれたことが、まだ信じられない。胸がいっぱいになって言葉が詰まる実里に、創がスマートフォンを出させる。
連絡先を交換して、実里は自分のスマートフォンの画面をじっと見る。夢ではない。これからは創と連絡が取れる。まるで恋人みたいだ、と口もとが緩んでからはっとする。「みたい」ではなく、本当に恋人だ。
「遊ぶのやめさせたんだから、頑張れよ」
創が意味深な瞳を向ける。
「なにをですか?」
「なにしてもいいって前に言っただろ。満足させろ」
たしかに言った。今さら思い出して、なにをどう満足させたらいいのかと想像したら、頬がぼうっと熱くなった。
「が、頑張ります」
とは言ってもそういう経験がないので、実里で満足してもらえるかは不安だ。なんとなく心もとなくなり、スプーンの柄を指で撫でる。
「僕にできるでしょうか」
「さあな」
突き放した声なのに瞳が優しくて、頑張らなくちゃ、と思わされる。ひとり奮起する実里に、創が苦笑した。その頬にはもう傷がなく、痕も残っていないのでほっとする。もし傷痕が残っていたらと考えると怖い。創はそれでも実里を責めたりしないだろうけれど、頬なんて目立つところに傷痕が残ったら、実里は自分を責めるどころでは済まない。
「仕事終わったら、ママにも報告していいぞ」
「します!」
本当にこの人は創さんかな、と申し訳ないが疑ってしまう。
そんな実里の疑念を読んだような顔をした創が、自身が食べるステーキライスをスプーンにのせて実里の口もとに差し出した。
「ほら」
本当にこの人は創さんなのか――ますます信じられなくなる。
頬が熱くなりながらおずおずと口を開けると、スプーンが優しく運ばれる。
ひと口分のステーキライスは、幸せの味がした。




