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コンコンコン
少し早めのノックが響く。
「どうぞ」
思わず背筋を伸ばす。ドアが開くと、「失礼いたします」と声がした。そこにいたのはジゼルさんだった。急に安心して肩の力が抜けた。
「ジゼルさん、どうしましょう」
彼女の顔を見たら安心して泣きそうになる。ジゼルさんは小走りでくると隣にしゃがんでくれた。
「大丈夫です。ひとまず私は屋敷に戻り、エイミー様の服など取って参ります。その際に旦那様に私から説明いたしますので」
「あっ、どうぞ、座ってください」
ソファの空いたスペースに目をやると、ジゼルさんは首を振って、私の耳元にくる。
「ここでは誰がどこにいるかわかりません。アメリア様は今からエイミー様です。私に敬語を使う必要もありません」
そう言われてはっとした。確かに誰かにバレてしまえば、元も子もない。
コクコクと小さく頷くと、ジゼルさんはニッコリ笑って立ち上がる。
コンコンコンとまたノックが響く。また背筋が伸びた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
大きな声が響くと同時にドアが開く。
「エイミー様の護衛担当になりましたイーサンと申します。よろしくお願いいたします」
先ほどの騎士たちとは違い、鎧はないものの剣を腰に携えている。ガッシリとした体型の男性が一礼する。手には何やら手紙を持っていた。銀髪にブルーの瞳がよく映える。
「エイミーです。よろしくお願いいたします」
本当は立ちたいところだが、ガマンして座ったまま挨拶をする。
「私はエイミー様の侍女、ジゼルです」
ジゼルさんが一礼をすると、イ-サン様をがこちらに歩み寄り、手紙をジゼルさんに差し出した。
「こちらはオースティン王子からランドルフ家への手紙です。お屋敷にお戻りになる際、ご一緒にお願いいたします」
手紙には国の紋章が押されていた。
「かしこまりました。では、エイミー様、私は一度屋敷に戻ります」
ジゼルさんは一礼する。先ほどまでのにこやかな笑顔が消えていた。
「私もジゼル殿が部屋から出るのであれば、廊下で待機しておりますので、何かあればお申し付けください」
イ-サン様が礼すると、こちらも、軽く礼をする。というか、それしかできなかった。
2人が部屋をあとにすると、大きなため息が出る。
この先、どうすればいいんだろう。