第1章「後宮編」ep.1
絹のように柔らかな雪の降る朝、目が覚めた。白い息は部屋の寒さを物語っている。毎日、手入れを欠かさない黒く艶のある髪のうねりを櫛で直しつつ、今日の予定を確認する。
(確か今日は宮廷で祝宴があるわね。淑妃が皇女をご出産なさったとか。徐家の人間はみんな参内することになっている。姉や義母たちはお前など来たところで恥だわ、なんて言っていたけれど、参加しなかったらしなかったで他家の者たちに咎められるはず。仕方がない、どうせ馬車に乗せてもらえるわけがないのだから、歩きでいきましょう。早起きしてよかった。間に合いそうね。)
徐小楓は自室を出て、台所へと向かう。屋敷の者たちに、ちょっとした木の実や乾燥果実をもらい、門を出た。5分ほど歩くと、一気に街の様子が明るくなった。よく見てみると、ずらりと並んでいる露店の商品のなかに刀削麺がある。これは小楓の大好物だ。庶民の中で今流行りの食べ物で、小楓もはじめて食べた時以来、お気に入りとなっていた。その刀削麺が今日限定で半額なのだという。そういうわけで、みんな並んでいたのだ。
(なるほど、祝宴の日限定にしているってわけね。)
まだ、少し時間があったので、小楓は刀削麺を食べて、宮廷へと向かうことにした。
「おじさま、刀削麺一人前ください。」
「はい、お代は3元だよ。嬢ちゃん、今日も1人かい?こんな寒い中、大変だねえ。どこに行くんだい?」
「宮廷に。」
「そうかい。本当に徐家の使用人は大変だねえ。こんな寒い中、歩きで宮廷まで行かせるなんて。おまけで少し多めについであげるから、しっかり温まってから、行きな。生姜も入れとくから。」
「ありがとうございます。」
麺をもらって、席につく。さっきのおじさまは最近出会った感じのいい人だ。彼を信用していないとは言わないけれど、徐家の令嬢だなんて言ったら、よそよそしくなるかなと思ったから、使用人ということにしておいた。その方が向こうも私も気をつかわなくて済む。
食べ終わって、店を出た。宮廷へと向かい、門の前に着くと、立っている武官に尋ねられた。
「貴殿は?」
「徐小楓と申します。祝宴へと参りました。」
「ふむ、門を開けよう。」
武官が門を開けると、華やかな世界が広がる。とは言っても、ドロドロした覇権争いなどが渦巻いていることには間違いないのだけれど。
そんなことを考えていると、幼馴染の唐明杰と会った。彼はこの国の東宮である。
「おはよう、小楓。昨日はよく眠れたかい?おや?指先が真っ赤ではないか、歩いてきたのかい?」
「おはようございます。ええ、歩きで参りました。待合室まで案内していただけますか?」
「ああ、もちろん。それよりも君早く体を温めないと。温かい飲み物を用意させよう。寧、あとで待合室に持って来させよ。」
「はい、承知しました。」
護衛の欧陽寧が他の従者にその旨を伝える。
「また、お姉様方に意地悪されているのかい?」
「いえ、そのようなことはございません。」
「だって、馬車で来ていなかっただろう。君は名門貴族の令嬢なのだし、馬車で来るものでは?」
東宮は小楓の幼馴染だ。故に小楓の置かれている状況を知っていた。




