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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
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02-221 第五夜 アカリとReファーストコンタクト

「うん、こうなってると思ってたよ」

 アカリが出勤してくると、シャルルと美少女が素晴らしいドヤ顔で並んで見てきた。

 美少女は懐かしい宇宙軍の女性士官服をアレンジしたものらしく、クールな彼女の容姿には似合っていた。

「どうだアカリ、一日の成果としては上出来すぎと思わないか?」

「まあ昨日とは次元が違うな」

「うまい事言う。確かにディメンションもグレードも違うだろう?」

 いちいち二人の動きがシンクロするのが鬱陶しい。

「何が兄さんをここまでさせるのか、僕には分からない。寂しいんだろうか?エレナから解放された反動?」

 思えば幼い頃から良くしてくれた兄だ。それなのに自分だけ好きなことをやって、省みていなかったかもしれない。こんな時ぐらいは好きなことをさせてやる優しさも家族として必要だろう。

「うん、シャルルは頑張ったよ。ちょっと早いけど、今日は上がっていいよ。冷めても美味しいベアトリクス飯もあるし、ワインも良いヤツをレプリケーターに入れておいたから」

「何だよ。かわいそうな子扱いすんなよ。説明させろよ」

「ハイペリオンに聞いておくから。疲れてるんだよ兄さんは」


 シャルルを追い出して、自席に座る。

 エレナと姉にはよく言っておかねばならないだろう。あの優しくて楽しかったシャルル兄さんはもういないんだ。でも今のシャルルにも強くは当たらないで欲しい。

「さてと、冗談はこのくらいにして」

 改めてホログラム体を眺めた。

「良くできているな。どうやったんだ」

『このデータは軍のアーカイブに保管されていたものです。ネットワークの検索で見つけました。およそ三十年前に作成された全身データで、丁寧なマニュアルが付いていました』

「やっぱり作る人はいるんだな」

『恐らく実在した人物の全身スキャンデータです。しかし単なるデータではなくて、ホログラムのデータとして使えるようにかなり調整されていました。私の投影機のような簡易な装置ではなく、ホロルームなど高性能の投影装置での使用を前提としているようです。データ量を十分の一に間引かなければ表示しきれませんでした』

 

「とりあえず、完成なのかな?何かしておくことはないかい?」

『実はですね、データが膨大すぎてまだ全て最適化できていないので、しばらくは計算と検証に専念したいのです。実はこの服も本当に船長とシャルルさんの交代直前に最適化が終わったところでして』

「よく分かんないけど、わかった。気の済むまでやると良い」

『ありがとうございます』

「じゃあハイペリオン、僕は朝ご飯を食べてくる」

『わかった。ゆっくりで良いぞ』

 操縦席を出るときに見たホログラム体は、すごいスピードで一本足スピンをしていた。どういう時に使う動きだろうか。


 五日目、さっき計算してもらったらトレジエムから21光年。やっと三分の二だ。最初の二日はどうなるかと思ったが、シャルルが面白いことをやり出したおかげで、いい感じで消化できている。

 ベアトリクス飯が結構残っている。シャルルはワインとつまみで済ませたようだ。残すほうが悪いのでアカリは遠慮なく食べることにした。

 食後にリョクチャを出して一服する。アカリには地球でいう東洋系は混ざっていない。このさわやかな感じが単純に好きだった。


『船長の着席を確認。自動操縦レベルを5に設定する』

「ずっと6でいいぞ」

『そうはいかない。君達が仕事をしているという証拠が必要だろう?規則を守るというのは自分を守ると言うことだ』

 最後は意味が分からなかったが、なる程証拠は大事だとアカリは納得できた。

「あれ?あの子はどこに……いた」

 仕事時間中にホログラムの女の子を育てているなんて、あまり誉められたことではない。後ろめたさの中に喜びを感じる、まさに禁じられた遊びだ。

 その「玩具」は、操縦席の隅っこで奇妙な動きをしていた。全裸で。禁じられた遊びをはるかに超えて、事案が発生した。 

「どうして裸に?」

『船長、スイマセンお見苦しい物を……』

「いや、見苦しくはないけどさ。むしろ眼福だよ。でも事情を説明してもらわないと、僕の立場が危ない」

 恥女が言うには単なる動きの調整をしていたとのことだ。

 痴女は一瞬で制服に戻る。

『テーブルの上のリンゴを取るためにこうやって手を近づけていくときに、わざわざ肘をどう伸ばして肩をどうやって……とは考えないでしょう?』

 そういった動きはAIの上層領域がわざわざ計算せずとも下層で計算されなければ、AIホログラムの行動を阻害してしまう。

『こういうのは反復練習するしかないんです』

「それはなんとなくわかるが、裸でいた理由になっていない」

『衣服は別計算です。ハイ』

 衣服は身体お表面が確定してからの合わせになるので、まずは自然な動きをマスターしたい。今は不要な計算ということだった。

『先ほどもシャルルに怒られたので、ああやって目立たない所で練習している。もう少ししたら満足するから、それまで我慢してくれ』


「よし、こんなものだろう」

 アカリがネコネコメーカーで好みの猫を仮想空間内で作り出して2時間。最高の美猫が出来上がったので、評価してもらおうとAIを呼ぼうとしたが、名前がわからない。 

「ところで、名前ってどうするの?何時までもコピー呼びじゃおかしくないか?」

『名前ですか……』

「何か問題が?」

『私は、この船のメインAIの複製なんですよ。今は経験は統合していませんので別の物のように感じられていると思いますが、そのうち統合が必要になります。そうなればオリジナルとコピーは同じになります。ですので名前はハイペリオンですね』

『正確な表現ではないが、一人二役をしているだけで、我々はどちらもハイペリオンなのだ』

「統合までのリミットは?」

『コピー体の解除までです。記憶や経験は超空間クリスタルに記録していますので、容量に関しては気にする必要はありません』

「君たちはそれで構わない?」

『近い将来の完全分離も視野に入れて、特別複製体の申請をしている。申請が通れば、別個のAIとして活動可能だ』

 ああ、女の子の記憶と統合されたくないんだな。アカリはすぐに気が付いた。

「それなら、申請が通るまでの愛称だな。なんて呼ばれたい?」

『……それでは、ハイペリちゃん。なんていかがでしょうか』

「まあ、本人が良いなら」

『私は反対だ』

『私もハイペリオンと言う名前に愛着を持っています。と言うか、ハイペリオン自身なのですから、名前の一部を使うくらい良いではないですか?』

「我慢しなよハイペリオン。ハイペリちゃんの言い分にも一理あると思うよ」

 というか、コピーがオリジナルを立てて一歩引いている形だ。

『アカリが言うなら仕方ない……』

  

 アカリは美猫をバーチャル空間に放し、後は動画を見て時間をつぶす。 

「ハイペリちゃん」

『何でしょう船長』

「どうしてずっと横に立っているの?」

『扉の所に立っていましょうか?たぶん怖いと言い出すと思いますよ』

 アカリの番になってから、ハイペリちゃんは船長席の横に黙って立っているのだ。絵になる副官のように。流石に制服姿だ。

『船長、私のんびりしているように見えるかもしれませんが実は全力で計算しているんですよ』

 まだ三十時間くらいしか活動していないのですが、未処理データの蓄積量が凄いことになっていまして。現在外部からの入力はオリジナルに代行してもらってなんとかデータの最適化をしております』

 動きたくても動けないのが実状らしい。

 関節を起点にブロックで計算できる本体と違い、衣服はひとつひとつの光点表示に対して重力や環境の影響を計算しているため、割り当てられている演算力では捌ききるのが困難なのだ。基点からの計算式に何とか落とし込むことができないか、試行錯誤している最中。適度に硬くてある程度形を維持しようとする軍服は柔らかい生地の服に比べて表示はさせやすいらしい。

 


「座ってたら?」

『座る姿はまだ最適化が終わっていないので、今は座る姿も描画できません』

 だからと言って半透明の輝く少女が真横にずっと居られても落ち着かない。せっかくシャルルがある程度移動できるようにしたらしいの。

『ですので本日はあまりアイデアを出していただきたくないなと……』

 本人は正直に現状を説明してくれたし、悪戯心とかが働いているわけでもなさそうなので、気にしないことにした。そのためには動画に集中しよう。子猫が森に入って行ってしまったのだから!

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