没(地上に石)
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それから少しのあと、〈古い人類〉は〝特別〟居留地へ引っ越した。彼らは、その地で安心と安全を約束された。
チャーリーも都子も、その子供も地上から消えてずっとずっとあとになって、何故かボイジャー一号が太陽系に戻ってきた。
さらにずっとずっと時間が経った。
今度はボイジャー二号が戻ってきた。飛び立った順で考えれば逆であるが、たいした問題でなかろう。ゴールデン・レコードは何者かによってつるつるに研磨され、積み替えられていた。その頃の地上には、それの意味するところを理解する術は無かった。
ディスクには微細な情報がみっしりびっしり書き込まれていた。解析するには、探査機が旅した時空間に匹敵するテクノロジーの革新と霊感、ひらめきが必要であった。故に、無価値と同等。しかし、誰か/何かが塗布した保護層は、途方もない時空間に耐えるものである。誰か/何かは、この探査機が飛び立った頃の技術から逆算し、持ち主へ戻る頃に到達しているであろう技術水準に合わせたのである。
調査船が戻ってきた。
この船は、宇宙の穴にハマって、遥か遠い時代に押し出されたのである。
地上に彼らの知る〈人類〉はいなかった。知らない〈人類〉がひっそりと暮らしていた。
船のナビゲーター、メンタル・フィジカル両面のケアも兼ねるサポート・メカノイド、アレックス(またはアレクサンドラ、或いはアレクサンドロス)は、彼ら〈知らない人類〉から渡された変換コネクタを〈人間〉で呼ぶヘソのI/Oポートに接続し、空の上のエーテル層のアーカイブに接続した。
層は、長い歳月の間に、多分に希薄になり、情報は連続性に欠けていた。しかし、「あら」クルーのひとりを呼んだ。「あなたの家族の記録があるわ」
ミヤ・ミヤコ技官は髭の大男で、グローブをはめたような大きな手をしているが、見た目に反してたいそう器用であった。
彼には家族がいなかった。出発の時、別居していた妻と正式に契約を解除し、娘は妻の元にいた。元妻は、彼が彼女を思うほどの未練はなかったが、故郷に帰った彼は、二度と会えない時空間的隔絶の残酷さを胸に抱いていた。
だから、アレックスの発見を聞き、文字通り心臓が止まった。アレックスがすぐに手当てしなかったら、貴重なクルーを失うところであった──と、旅は終わっていたが、船長はその日の航海日誌に書き綴った。
光の速さで飛ぶような船である。出発にあたって同時代に戻れる保障はない、と、何度も何度も、しつこいほど説明を受けた。が、よもや北極星が変わる程の歳月の後とは誰も思わなかった。
「詳しく教えてくれ」ミヤコは云った。
アレックスは答えた。「地上に。石版」
他のクルーも熱狂した。石版!
彼らは船外活動服で探検に出て、それを見つけた。人類の痕跡!
風雪に曝され、長い歳月を経て、石そのものも、刻まれた文字も、だいぶ崩れていたが、読めないことはなかった。彫られたものは反転文字であることはすぐに分かった。一方で、知らない文字もあったが(いったい何語だ?)、三種の言語から成っていることはすぐに理解できた。
その石は(墓石)のようで、まさしく墓場のように連なっていた。たくさん!
悲しいことに、期待は裏切られた。
たいしたことが書かれていなかったのである。後世に伝えるのなら、もっともっと、別の、何かこう、有意義なものがあったろうに。
さらには、しっちゃかめっちゃかで、どう並べ直しても正しいのか判断つかぬ。
失意のまま、昔〈人類〉は、残りの歳月を夕日と朝日と星と月を見て過ごし、やがて誰もいなくなった。石版はそれより少し長くあったが、やがてすっかり削れ・崩れ・そして埋もれた。
(了)




