回想して悟りました。
「…たいちゃん、おはよう。」
「おはよう、かな。」
「はよぉ〜。泰輝、誰?そいつ。」
「おはよう、はるき。コイツおれン家のとなりにひっこしてきた……アレ?なまえ、なんだっけ。」
「おはよう!かなちゃん、たいちゃん、はるくん。その子、ダレ?」
エントランスに集まるいつものメンバーの中に、見慣れぬ顔。
4人の視線が1人の男の子に集まる。
「…ひろむ…。」
「「「「?」」」」
4人が同じように首をかしげた。
すると、男の子の顔が、一瞬で茹でタコのように真っ赤になった。
「ひ…ひろむ!たちばな ひろむ!」
なかばヤケクソのように叫んだ男の子に、キョトンとする4人。
反対に男の子の方は、恥ずかしいやら、悲しいやら、惨めだはで、唇を噛み下を向いてしまう。
「…たちばな ひろむくん?何年生なの?」
聞かれて肩をビクッとさせた。
「……3年生。」
ボソッと答えると、少しだけ顔を上げた。
「じゃッ!たいちゃんとはるくんといっしょだね!あっ、私はやまだ かなえって言うの。お家はここの3かいだよ。よろしくね。」
ニッコリと笑って右手を差し出され、出された手と女の子の顔を数回視線を彷徨わせた。
そしておずおずと手を出し握手した。
「ぼくは、ながおか はるき。おなじ3年生で7かいだよ。」
「ぼくは、みうら ゆうと!一年生です。イッチバンうえの12かいです。よろしくおねがいします。」
「そんでおれが、きのうも言ったけど、いわさき たいきだ。おまえとおなじ3年生だ。」
それぞれ出された手に握手をして行く。はにかみながら。
「おれたちいつもココにあつまって、いっしょに学校行ってんだ。だからおまえも…ひろむもいっしょに行こっ!」
「おなじ3年生だしね。学校終わってからも、あそこの公園でいっつも遊んでるんだよ。」
「ひろくんもいっしょにあそぼっ!」
「たいちゃんやはるくんがいっしょだと、友だちすぐできちゃうから!ひろむくんも遊ぼうね。とっても楽しいンだよ。」
ぎこちなく頷く男の子を中心に、4人の子供達が一斉に話しかけ、エントランスを出て学校へと歩き出す。
博武と初めて会った時のことは今も覚えている。
仲良くなるのに時間はかからなかった。それは小さければ小さい程、直ぐに友達になれた。
「ひろむくん。今日も呼び出しあったでしょ。」
中学生の時、私以外の幼馴染達は大変モテた。それは少し怖いぐらいに。
私が幼馴染なのは知れ渡っていたから、手紙を渡してくれだとか、アドレスを教えてくれだとか、チョコや誕生日プレゼントなどを渡してくれだとか、それはもう色々絡まれた。
イジメは目立って無かったように思う。…気付いて無いだけかもしれないけど。
「あぁ、なんで?」
「ウチのクラスの子が見てたみたい。ワザワザ教えてくれた。」
「…そう。」
珍しく帰りが一緒になったこの日、日替わりで幼馴染達の誰かが告白されているのは、既に日常だったのだが(それを断る事も)、相手が相手なだけに気になって、いつもは聞かない事を聞いてみた。
「2年の平野さんでしょ?あの子可愛いから男子に人気なんだって。」
「ふ〜〜ん」
「えっ⁈ひろむくん断っちゃっーー」
「ねぇ、かな。ぼくと付き合わない?」
私の言葉を遮って博武が爆弾を投下してきた。
「なっ‼︎」
くるっと振り返ると、いつものようにやさしく微笑む。
「ぼくと付き合って、かな。大好きだから…ねっ。」
「どっっ⁈」
「かなは、僕のことそんな風に見れない?僕じゃ、イヤ?」
困ったように、チョット悲しそうに言うひろむくんはズルいと思った。私が好きなこと、分かっていて聞いてくるんだもん。今の私の顔は爆発しそうなぐらい真っ赤になってる筈だから。
「かな、右腕挙げてみて。」
俯いて地面を見ていた私に、博武が言った。
右腕を挙げる?
暫しボーーっと考え、おもむろに腕を挙げる。
すると博武がパシンと音を発てハイタッチをしてきた。
「ひぇっ⁈」
「成立!かな、今から僕たちは恋人だからね。」
ニッコリと笑う博武は、あの時とってもカッコ良く見えた。
コレが付き合うようになった馴れ初め。
今思えば、やっぱり私は当て馬だったんじゃないかな…今更だけど、思う。
真に受けた私がバカだったんだ。博武の言葉で舞い上がっていたんだ。
「さぁ、こんな感じだけど。大丈夫?まぁ、後悔しても戻してあげられないけどね。」
今私は美容院にいた。もちろんカット。
「ずっと長かったからすっごく軽い!サッパリ!」
鏡に映る自分の姿が何だかヘン。見慣れないからだと思うけど。
「思い切ったけど、とっても似合うよ。可愛い。」
私が座る場所の周りには大量の髪の毛。生まれてからずっと伸ばしていた髪の毛が落ちていた。
ありがとうございました。