私がバグ?
進み方が焦れったいですが…暖かく見守って頂けると、とっても嬉しいです。
翌日の日曜日は、お昼を大きく過ぎた頃に仲良く起床し、パンケーキもどきを作った。何故もどきかと言うと、携帯で調べたにも関わらず、沢山作ろうと欲をかいた為に分量を見誤り、膨らみのないクレープを何枚も重ね上げ、ミルフィーユのようになってしまったからだ。
まぁ、これはこれで、生クリームとアイスとキャラメルで誤魔化されたから、良しとしましょう。何事も結果オーライです。
瑠美ちゃんが、この日もバイトが入ってると言う事で、食後少しマッタリとしてから、家を出る事になった。
私をマンションまで送ると言って聞かないので、甘んじて受ける事に。途中、本屋に寄ってもらい自転車を回収した。駅前だし、鍵も掛けていなかったから、盗られているかもねと、思ったけど案外大丈夫だった。日本人バンザイ!
「明日から10日間は朝、一緒に学校行こう。私、朝練あるから、かなも私に合わせるように。いいね。」
瑠美ちゃんがニタリと笑ったのを見た途端、私の背中をぞぞぞぞっと寒気が走った。
「えっっ?イヤ、別にそれは……」
「ダメ!決定事項だから!駅に6時30分集合!」
「えーーっ⁈横暴!」
「ちがいますぅ〜!コレは〈愛〉です!一緒に学校行くのも、残り10日間しか無いんだよ?濃密な2週間って、言ったでしょ?バイトのシフトも変えてもらうから、遊び倒すわよっ!」
ああっ、瑠美ちゃんの瞳がキラキラしてる。コレはアレだ、否定の言葉は絶対に言っては駄目なヤツだ。
でも、そうだよね…高校生で一緒に居られるのも今だけだし、転校したら長期休み以外、外に出ることもないからね。それに、瑠美ちゃんと一緒だと、嫌な事忘れて居られるから。
「…分かった。瑠美ちゃんのお任せで、お願いします。」
言いながら、頬が引き攣るのが分かった。
「瑠美ちゃん、ありがとうね。」
マンションに到着し、瑠美ちゃんに声を掛ける。
でも、私の声が聞こえなかったのか、少し後ろで立ち止まっていた瑠美ちゃんが、マンション前の公園を難しい顔で見ていた。
その視線の先を見て、息を飲む。
「…あながち、噂もデマって言う訳じゃぁ無いんだ。」
瑠美ちゃんが小さく呟いた。
カラフルなサッカーボールを、私のよく知る3人の男の子が、じゃれるように追いかけていた。それを少し離れた場所から笑い声を上げて見ている、女の子と男の子。
楽しそうにふざけ合う幼馴染達の中に、今までなら私が居たはずなのに、今その場所は転校生の加賀さんに取って変わっていた。
私が幼馴染と言うよりも、加賀さんが幼馴染と言った方が周りが納得だろう。それぐらい5人は馴染んで見えた。
「私がイレギュラーだったのかなぁ。」
ボソっと漏れた心の声を、瑠美ちゃんが耳聡く拾い、足をダンダン踏みならしながら、私の横に並んだ。
「ウンな訳あるかぁッ‼︎かなは、私の心の友で、ばぁちゃんまで続く友情なんだから、そんな事言うなっ!」
顔を真っ赤にして怒る瑠美ちゃんに、力なく笑い返す。
と、その時公園から、加賀さんの短い悲鳴が聞こえた。
ボールが3人の頭上を越えて、加賀さんに向かって落ちて行くのが見えた。
まるでスローモーションのようだった。
加賀さんの華奢な身体を引き寄せ、落ちて来るボールの軌道から逃す博武。表情は見えないが、大事なモノを護るように、加賀さんを包み込んでいた。
その時、私の中で、何かが壊れる音がした。
「瑠美ちゃん……私ね、博武に抱きしめられたり……キス、した事無いの。可笑しいでしょ?付き合ってたなんて、言えないでしょ?確かに告白されたのに、される前と何も変わってないの。それで恋人って、無理でしょ。」
「かな……。」
3人の幼馴染…たいちゃんとはるくんとゆうくんが、慌てて加賀さんの元に駆け寄る。すると博武が3人に危ないだの何だのと言い、3人が加賀さんに向かって頭を下げる。
「私じゃ無かったんだよ。きっと。」
「そんな事ーーー」
「私の錯覚だったんだよ。だって、こんなに胸が痛いのに、やっぱり涙は出ないもん。」
胸を押さえた手が震える。見たく無いのに視線を外すのがとっても難しい。
でも何とか外して、大きな瞳をウルウルさせる瑠美ちゃんに不恰好な笑い顔を見せた。
「瑠美ちゃん、ありがとう。明日からお願いします。」
私は頭を下げて言った。
ありがとうございました。