神様は、私に無情でした。
私の住んでいるマンションから、瑠美ちゃんがバイトしているファミレスまでは自転車で、約10分程。
このマンションから、通学で使う電車の最寄駅までは5分位。駅を通り越した所にファミレスはあった。
途中、本屋に寄る為に自宅を30分前に出る。
エレベーターは逃げ場が無いので、非常階段で降りることにした。
時間が時間だから、まず大丈夫だとは思うのだけど、用心に越したことは無いからね。
ちなみに、マンションは12階建で、私の家は3階。たいちゃんと、博武は6階で、はるくんは7階。ゆうくんは12階だ。
エントランスに着くと、人がいない事を確認し、自転車置場に向かい再度確認をする。
…不審者だよね、私…。
この不審ぶりは、防犯カメラにもバッチリ映っている事だろう…う〝ぅ
無事にマンションから脱出した私は、軽快にペダルを漕ぎ、駅前にある本屋に到着した。
店の中に入ろうと、自転車を止めてガラス越しに店内を見て、身体が固まった。
壁側の棚の前に、優しく微笑む博武と、頬を桜色に染め話す加賀さんの姿があった。
……何て間が悪いんだろう……。
2日連チャン何ンて、私試されてる?
今日は、博武がサッカーの試合だったから、加賀さんもその試合を見に行っていたのなら、終わってからずっと一緒に?こんな時間まで?
あぁ、また胸がズキズキする。心臓がおかしな鼓動を打つ。
暫くすると、博武が背を屈め加賀さんの耳元に顔を寄せる。甘やかな表情で。私には見せたことの無い、色気をまとった男の顔を…。
見たく無い。もう、何も見たく無い。
自転車から手を離し、一歩後ずさる。視線は2人を捉えたまま、外せない。
戦慄く口を両手で押さえ、更に一歩後ずさる。
と、博武の顔が僅かにこちらに向き、視線が上がり、目線が合わさる瞬間、私は顔を背け、猛然と走り出した。
「かな?」
既にバイトを終え、外で待っていてくれた瑠美ちゃんに、なけなしの体力で駆け寄り、体当たりするように抱きついた。
「え〝ーーッ⁈どうした⁇」
私の全力を、よろめきながらも受け止めてくれた瑠美ちゃん!大好きだッ!
「かな、ここまで歩いて来たの?自転車じゃ…」
「瑠美ちゃん!私、別れるの……。」
瑠美ちゃんの言葉に被せるように言うと、抱きつく腕に力を込める。
「…ゆっくり家まで歩こう。」
小さく息をつき、私の背中を優しく叩き促す。
私は頷き、瑠美ちゃんから身体を離した。
「行こ。」
瑠美ちゃんが、自分の自転車を引き歩き出すその後を、トボトボと付いて行く。
真っ暗な月の無い夜だった。
私も瑠美ちゃんも一言もしゃべる事なく、家に着いた。
瑠美ちゃんの家は一軒家で、前面に庭がある。瑠美ママがお花が好きで、綺麗に手入れされている。
家に入ると、リビングの瑠美パパと瑠美ママに挨拶をして、2階の瑠美ちゃんの部屋に向かう。
瑠美ちゃんがお風呂に行っている間に、パジャマに着替えて、私のお気に入りの丸い大きなクッションに倒れ込んだ。
脳裏に焼き付いて離れてくれない、さっきの2人。
親しげで、それはまだ、付き合い始めの恋人同士のように見えた。
私は?……私の時はどうだった?小学校の2年生からほぼ毎日一緒にいて、それが中2の時に付き合うようになって何か変わった?周りから見て、恋人同士に見えた?
昨日からずっと自問自答を繰り返して、思考が纏まらない。
でも、惨めになりたく無いから、転校までの間、幼馴染達とは関わり合わないようにしたい。
クッションにうつ伏せていると、お風呂から瑠美ちゃんが戻って来た。
「じゃぁ、洗いざらい吐いてもらおっか。」
ショートボブの髪を、ワサワサとタオルで拭きながら、ニッコリと微笑、仁王立ちした瑠美ちゃんの背に、ドス黒いオーラが見えたのは気のせいだと思う。
ありがとうございます。