だから私は初心者なんです!
もう少し、お付き合いして下さい。
佐藤くんがデートで連れて来てくれたのは、電車で40分程かかる海の街。
駅からそのまま大型ショッピングモールに入ることができて、少し歩くと海岸にも出ることができた。
「最初に海に行ってみよう。」
佐藤くんが私に手を差し出し言う。
私は、目の前にある大きな手を見つめ、佐藤くんを見上げる。
すると佐藤くんが頭をガリガリ搔き、連絡通路の天井を見上げ、あーだとかうーだとか言っている。どうした?
「まぁ~その…何だ、佳奈恵はちっさいから逸れると大変だろ?だからーー」
そう言うと佐藤くんは、私の手をすくい上げて握った。
「手、繋いで行こう。」
満面の笑みに心臓を撃ち抜かれました!
ダメだ!初っ端からこれでは、今日一日保たない!何処かできっと魂が抜ける!何?ナニ?デートって、こんなにも精神を試されるモノなの?みんな、デートする度に、こんな想いをしているの⁈ そうだとしたら、幾つ心臓が有っても毎回こんなに擦り切れてしまっては、果てはどうなっちゃうの!ーー恐ろしい。デートって、恐ろしいことだったんだ!
コンパスの狭い ( 自分の脚がミジカイなんて、口が裂けても言えません! ) 私に合わせて歩いてくれる佐藤くん。ホント、優しいしよく見てくれてる。
私ーー佐藤くんのこと、こんなに好きなんだ。
横に並ぶ佐藤くんを見上げる。優しい横顔。チョットツリ目だけど目元涼しげ?って言うのかな。身長差があるから、お兄ちゃんと妹って周りから見えたりするのかも?だけど。…う゛っっ…悲しい。
佐藤くんの大きな手に握られた私の小さな手。
この手がいつも私の気持ちを宥めてくれる。すっごく大事な手。
そう思ったら自然にキュッと佐藤くんの手を握った。
「うん?どうした?歩くの速いか?」
歩みを止めて佐藤くんが聞いてくる。
「違う。何だか嬉しくって。」
首を振って言えば、佐藤くんの顔がボンと音を立てて真っ赤になった。
握っていない手で顔を覆うと、何故か深呼吸を繰り返す。ーーヒィヒィふぅ?いや、コレは違う。
「ーー思った以上にヤバイ。殺人的だっーー」
「佐藤くんはさぁ、今まで付き合った子とかいるの?」
思わず出てしまった言葉に自分でもビックリです。
真っ赤な顔で目を見開く佐藤くん。だよねぇ。脈絡なしだもんねぇ。ごめん。
「あーーー、まぁ、ソコソコーーーなぁ。でも、何で?」
頬をポリポリ掻きながら言う佐藤くん。
「うん……前に久保くんがね、佐藤くんがモテるって言ってたの。今日も女の子達に囲まれてたしーーどうかなって、思って。」
「……真司のヤツ、余計なこと言いやがって…。」
ボソボソ頭上で何か 言ってる佐藤くんのオーラが、何故か真っ黒です⁈大丈夫かっ⁈
チョット気不味そうに私を見て、また頭をガリガリ搔きむしった。そんなに勢いよく掻いたら頭皮から血が出るよ?
「佐藤くんがイケメンなんだって、最近気付いて。だから、チョット私が隣にいてもいいのかなぁって、思ったりしてーー」
「佳奈恵がいい。」
即答だった。そして、痛いくらいに強く手が握られた。
「佐藤くーーー」
「俺は!佳奈恵がいい。他の誰でもない。佳奈恵だからーー佳奈恵だから目が離せなかった!」
キャーーッ‼︎ 何言ってるの!こんな道の往来で!ヤダヤダヤダ!何なのこの羞恥プレイ!佐藤くん分かってやってるの?だとしたら悪意を感じますぅーーッ!
恥ずかしくて、顔が熱くて、思わず佐藤くんの脛を蹴ろうとしたんだけど、さすがに身体のもっていきかたで、やろうとしたことがバレて、素早く躱された。
「だから!脛はダメだってば!どうして今蹴るかなぁ!」
「佐藤くんのバカっっ!」
脛がダメなら拳で腹パンだっっ!
この状態の中でも手は繋いだままだから、空いてる手で一発お見舞いした。
「う゛っ‼︎ ……そう、きたかっっっ!」
くの字に身体を曲げた佐藤くんの手を引っ張って歩き出そうとしたんだけど、反対に手を引っ張られて、佐藤くんに抱き上げられてしまった!
「ひゃうわぁっっ!」
「コイツぅ!」
嬉しそうに抱き上げた佐藤くんに、口を尖らせて睨みつけた。
「もう!佐藤くん恥ずかしいから降ろして!」
足をバタつかせて抗議した。
と、佐藤くんの顔が近づいてきてーーー
一瞬だった。私の唇を佐藤くんの唇が掠めていった。
何が…何が…何が…何が…起こった…の?
思考が停止して、無理。ただただ、目の前にある嬉しそうな佐藤くんの顔を見つめるだけで。
私は何処?ここは誰?あなたは、佐藤くん?
「やっと静かになった。じゃっ、このまま行こうか。海もすぐだし。」
そう言うと佐藤くんは、私を抱えたままスタスタと歩き出した。
ーーーネェ、今のって………キス?なの?ーーー
ありがとうございます。




