ヒロインはイタイ人でした。
「山田 佳奈恵。お前が言ってる事は負け犬の遠吠えだっ!琴ちゃんはお前と違って心が清らかなんだ!俺達迷える子羊全員に平等に深い愛情を注いでくれているのだ!お前のような浅ましい人間には到底理解できないだろうがなっ!」
銀ブチ眼鏡男子、お前の方が何を言ってる?すでに言ってることが病んでるぞ?大丈夫か?
「羽黒君。私は普通の女の子だよ。ただ、みんなと仲良く、楽しく過ごしていきたいだけだよ。」
おっ、立ち直った。案外ポジティブ?
「佳奈恵ちゃん、私のこと誤解してるよ。私はーー」
「誤解なんてしてないよ。加賀さんは自作自演で乙女ゲームを演じているだけだよ。それに乗せられてる男子や幼馴染達もどうかと思うけど、そんな面白くもない、ただ迷惑なだけの遊びに付き合わされた私の気持ちが分かる?加賀さんは沢山の男子にチヤホヤされて、キャッキャウフフで楽しんでいたと思うけど、私はしてもいない濡れ衣で、幼馴染達から責められて、今だって知らない大勢の男子達に悪意を向けられて……私、加賀さんと今日までほとんど話したこと無いのに、どうしてここまでされるのか分からないよ。ねぇ、どうして?」
「なっ!何を言ってるの?佳奈恵ちゃん?自分がした事を正当化しようとしちゃーー」
私、加賀さんの言葉をことごとく潰します。
「加賀さん、二週間前の放課後、私の教室で博武とキスしてたよね。アレ、私に見せるためにやってたの?だとしたら加賀さんの方が悪役だよね。」
「ちょっと!止めてよこんなとこで言うの!私を貶める気!」
思わずと言う感じで出た言葉に加賀さんが、しまったと顔を歪ませる。
「キス?琴ちゃんが誰と?」
「生徒会副会長の橘 博武。」
銀ブチ眼鏡男子が、不思議そうに聞いてきたのを、すかさず答えると、加賀さんが叫んだ。
「ふざけンな!そんなことしてない!」
「してたでしょ?私はちゃんと見たよ。」
首を振る加賀さんが、銀ブチ眼鏡男子の腕に縋り付く。
「羽黒君は佳奈恵ちゃんが言ってること、信じないよね。」
目をウルウルさせて、縋るように銀ブチ眼鏡男子を見上げる加賀さん。さすがヒロイン。
「……本当に?琴ちゃん。誰ともキスして無い?」
「して無い!私がそんなこと誰とでもするように見える?信じてくれない?」
手を取り合う二人?フン。臭すぎる。
「でも、生徒会の人間を誑かす手腕があるんだから、キスの一つや二つや三つ、虜にできるならするでしょ?美少女と呼ばれる容姿でちょと目を潤ませて上目遣いで見れば、アラ!簡単。でしょう?」
「酷い!佳奈恵ちゃん、酷いよ!どうしてそんなこと言うの?私は佳奈恵ちゃんとお友達になりたいだけなのに。」
大きな瞳に涙を溜めて、溢れるか溢れないか微妙に保つている涙。ヒロインだとそういった細かい芸もしなくちゃいけないんだ。凄いね。
でも、加賀さん、周り見てる?
さっきから、その他沢山の男子達がざわめき出してるの。気付いて無いの?
「私、もう一つ聞きたいの。ウチのクラスの佐藤くんにも纏わり付いてるのはナゼ?幼馴染って言ってるみたいだけど、佐藤くんは覚えて無いって言ってる。それは聞いてる?」
「それはっ!本当にたっくんとは幼馴染でーーー」
「でも、3歳の時だよね?普通覚えて無いって。それに随分会って無いのなら、顔だって声だって身長だって変わってる。なのにどうして佐藤くんが幼馴染って分かったの?」
普通に考えればそうだよね。 フツーならね。
「分かったよ!どれだけ身長が高くなっていたって、声が低くなっていたって、笑った顔は変わってなかった!優しいたっくんのままだった!3歳でも私はちゃんと覚えてたわっ!また一緒にいたいって思うことがいけないことなの?」
必死に言葉を続ける加賀さん。でもね。
「私も幼馴染達にそう思っていたよ。ずっと一緒にいたいって。加賀さんと一緒だね。でも私と幼馴染達の関係は加賀さんに断ち切られた。なのに佐藤くんのことはそう言うんだ。加賀さん、まるで小さな子供みたい。」
気にいったモノを一人抱え込んで、誰かがちょうだいって言っても絶対にあげない。でも人が持ってるものは気になるし欲しくなる。
加賀さんが私を睨みつけ、握り締めた両手を震わせる。屈辱に歪む顔なんて、ヒロインがしてイイの?
私と加賀さんとの間に流れる氷点下の空気。
睨み合ったままの空間を壊したのは、辺りに響き渡る、誰かの手を打ち鳴らす音だった。
ありがとうございました。




