自覚した途端、死にそうです。
私には付き合っている人がいた。小学校の時からの幼馴染で、一つ年上で、何時も私を気遣ってくれた優しい彼氏だった。
そう、付き合っていると思っていた。それは本当の意味で違っていて、そして幼馴染も私の気持ちに気が付いていたと思う。
私は好きだった。大好きだった。
でもその気持ちはとっても微妙で、私に自覚は無くってーーただ一緒にいたかった。なにも変わらず、変えずに、優しい幼馴染と一緒にいたかった。
それは〝恋〟と呼ぶには幼過ぎる、ふんわりとした思い。
いつか公園でみんなで遊んだ時の、心から笑いあった優しいキラキラした世界の中で感じた、暖かな思い。
泣き過ぎて、瞼が腫れて、声も嗄れて、そのまま強制的に保健室送りとなった私。
泣き疲れて寝ちゃうなんて、ホントお子ちゃま。
佐藤くんが私を子供扱いするのも仕方ないよね。
白い天井と、クリーム色のカーテンに四方を囲まれたベッドの中、目を開けるが、腫れが引いて無いのか、開きづらい。それに口が渇いてイガイガする。
ゆっくりと上体を起こして、腕を上に伸ばし伸びをする。
なんだか気持ちが軽い。スッキリした感じ。
学校最後の日に、気持ちがハッキリして良かったと思う反面、気付いてしまった恋心。
でも、気が付いた途端に離れるなんて、本当に間が悪過ぎる。
明後日には、転校先の学校の寮に入る事になっている。
この芽生えたばかりの思いを閉じ込めて。
「気が付いたら気が付いたで、厄介だなぁ。」
初心者としては持て余してしまう。
クスリと笑いが漏れる。こんなにも、気持ちが持って行かれてるなんて、どうして気が付かないでいられたんだろう。姿を思い浮かべるだけで、胸に甘い痛みが走る。それと同時に身体に熱が発生する。
「これがーー」
これが、〝恋〟をしていると言う事。
出し尽くしたはずなのに目頭が熱くなる。ジンワリと涙が出るのが分かる。
「本当に厄介だ…。」
両手で顔を覆い上を向く。大丈夫。大丈夫。大丈夫だから、これ以上泣かないでーーー
と、突然、ベッドを囲むカーテンが勢いよく引き開けられた。
驚いてそちらを向くと、同じように驚いた顔の佐藤くんが立っていた。
「…あっ…。」
ヤダヤダヤダやだ!今はダメだよ。今はダメっ!
我に返って、慌てて布団の中に潜ろうとしたけど、佐藤くんが私の腕を掴んだ。そのまま引っ張られて膝立の状態で抱き締められた。
「ひゃぁっ‼︎」
思わず出た声と、引っ込んだ涙と、全速力で走る鼓動。うううっ!死ぬ!心臓がもたない!
「軍曹に泣かされたのか?顔が酷いことになってるぞ。一緒にに仕返ししてやるから、山田、泣くな。大丈夫だから、俺がついてるから。」
子供をあやすように背中をポンポンと叩きながら抱き締める腕に力が入る。
気持ちに気が付いたばかりの私には、今の状況が飲み込めない。ただ嬉しいやら恥ずかしいやら、悲しいやらで、心の処理が追いつきません!
「……ヤッパ小さいのな。こんなに小さいのに、一端なんだから、タチが悪い…。」
小さく息を吐き、佐藤くんがゆっくりと身体を離すと、私の頬に手を添え視線を合わせる。
「山田、俺お前に頼みたい事があるんだけど。」
親指の背で頬撫ぜながら、視線を揺るがさないで言う。
「明日、俺とデートしてくれないか?」
はぁ……い?
「デェ…ト?」
「ダメか?」
眉を寄せ、縋るような表情。
「どうしてーー‼︎」
と、佐藤くんが私の額にキスをした⁈ エッ?キス?
「俺、山田が好きだ。」
一瞬心臓が止まったように感じた。息が、上手くつけない。あああっ!もう!
「わっ!私を殺す気でしょう‼︎」
この言葉に佐藤くんが固まった。
「今も心臓が壊れそうなぐらいドキドキして、どうしていいか分かんないのに‼︎ 佐藤くんがそんなこと言うからっ!」
そう言うと、佐藤くんが私をまた抱き締めた。
「それって、期待していいのか?俺、諦めなくてもいいって事か?」
佐藤くんに包まれている事が、こんなに気持ちいいなんて、思わなかった。
「私も、佐藤くんのこと…好きです。」
抱き締める腕に力が籠る。私はおずおずと佐藤くんの背に腕を回す。うっ、全然届かない。だから、制服のシャツを握ってみた。
「やったぁ…。」
佐藤くんの絞り出すような声が聞こえた。
ありがとうございました。




