ヒロイン至上主義ですか?
泣くのを何とか我慢してる間に、電車が高校の最寄り駅に着いた。
佐藤くんに知られたくなくって、早足で改札に向かうと( 私が早足でも、佐藤くんは通常。…理不尽なっ!) そこでまさかのイベントが、私達を待ち受けていた。
改札の向こう側には、誰かを待つ加賀さんがいた。
そこに佇む加賀さんの姿は、まるで絵画のようで、風も無いのに、艶やか髪がサラサラと流れる。
湿気なんて、全く通用しない。何故なら、そうなっているから。加賀さんがヒロインとして存在しているから。だから彼女がそこにいるだけで、辺りが華やぐのだ。
彼女は頬をほんのり色付け、雨が降り続く外を眺めていた。
一瞬、引き返そうか迷って、歩みを止めた。
「山田?」
立ち止まった私に気が付き、佐藤くんが声を掛ける。
その声に反応して加賀さんがこちらに振り向く。嬉しそうに微笑み、小走りに改札口に近づいて来る。
すでに改札を抜けていた佐藤くんが、そこでやっと加賀さんの存在に気が付いたようだ。
「えっ⁈加賀ッ?」
焦る佐藤くんに、加賀さんはニッコリと笑う。
「おはよぉ、たっくん。」
おおっ、ここにきて初めて加賀さんの声を聴いた!
ヤッパリ、ヒロインだけあって可愛らしい声だ。
それに、はにかみながら頬を染めて、上目遣いで言うところはさすが、ヒロインと言えるだろう。
「どうしてーー」
何故か挙動不振な佐藤くん。加賀さんを目の前にして、アワアワしている。…ふん…。
「たっくんと一緒に学校行こうと思って。待ってたの。」
首を傾げて一緒にい行こっ、なんて言われたら、行かない選択はできないでしょう。男として。
改札を挟んで向こう側は、パステルで彩られたキラキラな世界。片や私がいる側はドンよりとした雨模様色。
私はただ、見ていた。
心の中がグチャグチャだ。再び鼻の奥がジンとして、我慢していた涙が復活しそうだ。
でも泣かない。ここで泣くなんて絶対にイヤ!
手を握りしめグッと堪える。
「あっれぇ?山田先輩だぁ。おはようございまぁ〜す。」
チョット眠たげな声で挨拶してきたのは、バスケ部1年の久保くん。
「どうしたんでェーーーーーーツ‼︎」
久保くんが自分の口を慌てて押さえ、目を見開く。
「……マズイっすよぉ…何しでかしてんですかぁぁぁっ!これじゃぁ、軍曹に土下座した意味無いじゃないですかぁぁぁぁっ!最悪ですよ!僕にはこの先の地獄が見えますぅぅぅぅッ!」
その場にしゃがみ込み、口を塞いだまま騒ぐ久保くん。何やってんでしょうか?
そこでふと思った。
「久保くん、お願いあるんだけど。」
肩を叩いて言う。
しゃがんで、口を塞いだまま振り向く久保くん。心なしか青ざめているが、風邪か?
「私と一緒に学校に行きましょう。」
ニッコリ笑って久保くんの腕を持ち立ち上がらせると、そのまま嫌がる久保くんを引っ張って学校に向かった。
後ろから佐藤くんの声が聞こえたが、全力でムシした。
振り返ればきっと泣いてしまうって、そう思ったから。
学校に着くと、久保くんを解放した私が向かったのは、テニス部が雨の日に朝練をしている西館校舎。
「山田先輩おはようございます。今日は瑠美先輩、朝練来ないって言ってましたけど。」
後輩ちゃんが申し訳け無さそうに教えてくれた。
「うん、知ってる。私、朝練参加させてもらうのダメかなぁ。」
その場にいた子達が顔を見合わせ、そして首をブンブンと振る。そんなに必死で振らなくても…。
「ありがとう。」
結局いつも?通りにテニス部の朝練に参加させてもらい、教室に戻ったのはギリギリだった。
1時間目が終わると教室を飛び出し、瑠美ちゃんのクラスへ向かう。
2時間目の終わりも3時間目の終わりも、瑠美ちゃんのクラスに逃げて、ギリギリに戻るを繰り返した。
そうしてお昼休みーー何故か新聞部の部室にお邪魔することに。
護衛無しの、私と瑠美ちゃんと沙樹ちゃんの三人で。
「では聞こうか。かな、佐藤と何があった。」
お弁当を食べ始めてすぐ、瑠美ちゃんの尋問が始まった。……ひぃやぁぁぁぁっ!
失速気味ですが、最後まで頑張りますので、よろしくお願いします。




