やっぱり雨の日は苦手なんです!
「佳奈恵、新聞受けにあなた宛の手紙、入ってたんだけど。」
金曜日の朝、ご飯を食べていると母が差し出して来た。
私の名前が書かれた、薄い水色の封筒だった。切手が貼って無いと言う事は、誰かが直接入れて行ったんだろう。
ご飯を食べ終えると、封筒を持って部屋に戻った。
【今日の放課後、お話したい事があります。園芸部の花壇で待ってます。 加賀 琴子 】
中には、こう書かれた便箋が一枚入っていた。
最後の最後に来たかぁ。ヒロインからのお誘い。行きたく無いな…行ってもきっと碌な目に遭わない。
大きく息を吐き、封筒を破ってゴミ箱にすてる。
「行かなきゃいいのよ。」
カバンを持って家を出た。
最近の天気予報はハズレない。
外はどんよりとした雨模様。傘をさしての自転車は怖いから、徒歩で駅に向かいます。
人も少ないから、迷惑をかける心配もないし、車も少ないから、泥水飛ばされることも無いしね。
でも、最後の日に雨って言うのは、チョット悲しいけど。
「あっ…。」
駅、改札口前。
ここ数日で見慣れた巨人が、携帯を触って立っていた。
その姿を、見つめていると、携帯から視線を上げ雨の中立つ私を見つける。
「おはよう、山田。」
ニッコリ笑い、携帯をズボンの後ろポケットに入れる。
「…おはよう、佐藤くん。」
私は再び歩き出し、庇の下で傘をたたむ。
「今日、杉野と代わってもらったから。」
そう言って、改札を一人入って行ってしまう佐藤くん。
そっ!そんな連絡瑠美ちゃんからきてない、きてない!
カバンから携帯を取り出して確認する。でも瑠美ちゃんからメールも電話も無い。
「山田!行くぞ!」
佐藤くんが改札の向こう側から声をかけて来る。
ああああっ!何だろう!にわかに緊張してるよ、私っっ‼︎
すると再び佐藤くんの声。
「山田?何してんの?」
アンタにビビってんだよぉーーーっっ!
携帯を持つ手に力を入れて、自分に気合を入れて、改札を抜けた。
ホームにある屋根の下、二人並んで電車を待つ。
もうもうもうもうっ‼︎どうした私!相手はふざけた巨人だぞ?この状態はおかしいだろ?
佐藤くんを見ることができなくて、雨に濡れた線路をジッと見ていた。
屋根を打つ雨音がやけに大きく聞こえる。私のドキドキとシンクロするように。
「…山田、ごめんな。結局警護からも外れて、守る事ができなくて。俺ーーー」
「大丈夫。みんなが私を警護してくれてるから。佐藤くんは、大丈夫?」
佐藤くんの顔を見ないで言う。すると、頭をポンポンと叩かれた。
思わず顔を見上げてしまった佐藤くんの表情が、困ったような、悲しそうな、そんな複雑な感じで私を見ている。
「俺の周りって、昔からデカイやつばっかでさぁ、高校入って山田を見た時、コイツこんなんで生きて行けるのか?って、何だか怖くって。でも実際はチョコチョコとよく動くは、なのに走るのは遅いは、きゃんきゃん煩いは、ホント無意識に目が山田を追っちゃうんだよなぁ。」
複雑な顔で無理に笑おうとする佐藤くん。
それは見ていて痛い。
「だから今回山田の警護担当になって、見ていただけの鬱憤が出ちゃったんだろうなぁ。構い倒してたら、杉野の爆弾くらってさ…。調子こいてたから、罰が当たったんんだな。警護からも外された。」
ホームに電車の到着を告げるアナウンスが流れる。
佐藤くんはポンポンからグシャグシャに切り替え乱雑に掻き乱す。
私はただ、されるがままで、電車が到着すると、頭に載っていた大きな手が離れていって、それがとっても淋しく思えて……。
電車に乗ると、反対側の扉に挟んで立った。席は空いているのに。
「加賀が俺に寄って来るのは……加賀が昔住んでいたマンションの隣人で、知り合いだったからなんだ。俺は憶えて無いんだけど、加賀は憶えているみたいで…。」
ーーーそれって、佐藤くんも加賀さんの攻略対象ってコト?そうなの?
「そんな俺が山田の側にいれば、必ず嫌な思いをする。杉野が警護から俺を外した理由だ。」
佐藤くんは、加賀さんの事憶えていないの?」
違う。こんな事を聞きたい訳じゃ無いのに。
「うっすらと憶えているぐらいで、加賀みたいに名前の呼びかたや何処で遊んで、その時どうなったとかなんて全く覚えて無いんだ。だって、3歳だぜっ?幾ら何でも無理だよ。」
でも、加賀さんは憶えている。そして佐藤くんを攻略しようとしている。
体育館で見た加賀さんを思い出す。お人形のように可愛らしかった。男の子なら誰だって心を動かされるだろう。夢中になるだろう……幼馴染達みたいに。
「でも……嫌な気はしないでしょ?」
思わず出した自分の言葉で、胸が痛む。鼻がツンとして目頭が熱くなる。
えっ?どうして?何で今、私泣きそうなの?
「ーー山田?」
博武の時だって泣けなかったのに、どうして今?
ありがとうございます。




