やっぱり雨の日は苦手デス。
外は雨が降っていた。
どんよりとした雲が空を覆い尽くし、生暖かな風が雨粒を凪いで行く。
「雨、まだ降るのかなぁ。」
今日は1日雨。昨日、天気予報で言ってた。雨は明日の午前中まで続くって。…明日も階段ランニング⁈
「アレ?佳奈恵ちゃんは雨嫌い?」
靴を履きながら青木さんが言う。ムムッ!屈んで靴を履く姿が犯罪です!メロンが強調されて目が釘付けです!
「嫌いって言うか、見てるだけなら情緒があっていいけど、傘を差して歩くのがチョット…。」
そう、私の差す傘の位置は、普通の身長以上の方々の迷惑となるようで、注意や舌打ちをしばしば受けた事があるから良い思い出がない。どうせならレインコートの方が良いのでは?と思った時もあるのだが、小学生と間違われるから、やめてくれと言われた…幼馴染達に。
「そうなんだ。綺麗だけどねぇ。」
出入り口に並んで、ハラハラと降り続く雨を何気なしに見ていた。ナゼか私たち以外人が居らず、とてもひっそりとしている。
「遅いね、佐藤くん。」
「そうだね、まぁその内来るでしょ。行こ。」
青木さん促され、傘をポンと音を立てて開いた。
するとーーー
「きゃっッ‼︎」
私の横側から女の子の短い悲鳴と、何かが落ちた鈍い音がほぼ同時に聞こえてきた。
咄嗟に声のした方を見る。
そこにいたのは、隣の転校生美少女の加賀さんで、雨と泥で汚れたタイル張りの上に尻餅を付き、瞳を大きく見開いて私を見ていた。
「エッ?」
状況が分からず、首を傾げる私。
しばし沈黙が流れる。お互いを見つめたまま。
それを打ち破ったのは、私のよく知る声だった。
「琴子‼︎」
未だ尻餅をついたままの加賀さんに、声を掛けて駆け寄ったのは、私の幼馴染で生徒会会長のはるくんだった。
「琴子!どうした?あーッ!スカートが!ホラ、立って。」
はるくんが、加賀さんの脇下に腕を差し入れて、立たせる。そしてスカートに目をやり顔を歪ませた。
「ダメだ、着替えた方がいいかもね。琴子、なんで尻餅なんてーーー」
と、そこでやっと私の存在に気が付いたようだ。目に険しさが増した。
「…かな、どう言う事?琴子に何したの?」
はるくんも、ゆうくんやたいちゃんと同じように私を責めるんだね。
「生徒会長の長岡先輩。ソレ被害妄想ですから。」
青木さんが、私とはるくん達の間に割って入り、視界から隠してくれた。
「被害妄想?これが?現に琴子は尻餅を付いていたじゃないか?それもこんな汚れた場所で。」
はるくんの声に身体が震える。こんな怒りを含んだ声、聞いた事がない。男の人の怒りを滲ませた声。
それが向けられているのは、幼馴染であったはずの私。
「佳奈恵ちゃんは何もしてません。私が知ってます!転こぅ……加賀さんは、自分で滑って尻餅をついただけです。現にって長岡先輩は言いますが、位置関係おかしいでしょ?そんな事見れば直ぐ分かりますよね。それとも、先輩と加賀さんは佳奈恵ちゃんが何かをした事にしたいんですか?」
そう、加賀さんが尻餅を付いていたのは私がいる場所から少し斜め後ろ。それも傘を広げた瞬間に声を上げた。狙っていたとしか思えない。
「だけど、かなは琴子に嫌がらせをしてると、された本人が言っているんだ。今だって、君がいたからと言って、かながやっていないと断言するのは、軽率なのでは?」
どうしたって、私を悪役にしたいんだ。
震える身体を片腕で押さえ、ズキズキズキズキと痛む胸を、もう片方の手で抑える。もう何度こんな辛い思いをするんだろう。
「証明なら簡単だ。」
少し、息の上がった佐藤くんの声がした。私は青木さんの後ろから少し顔を出す。チョット焦った表情にナゼかホッとする。
「…証明出来る?どうやって?」
後方から近づいて来る佐藤くんに、はるくんが嘲るように言う。
「おや?生徒会長、知らないんですか?ほらそこ。」
と、佐藤くんが指し示す庇に在るのは、防犯カメラ。
「防犯カメラ、知らなかったんですか?ああっ、生徒会会長とは言っても全てを把握している訳ではないですよねェ。すみませ。生意気な事言いました。」
満面な笑みで、ペコリと頭を下げる佐藤くん。えっ?もしかしていい負かしちゃった⁈
「でも、何があったのか直ぐ確認出来ますから。良かったな、山田。」
佐藤くんが私の頭をポンポンと叩く。
それがとっても安心できて、身体の震えも止まっていた。
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