敵もしぶといのです。
今日は土曜日。
瑠美ちゃんの家に今週も行く事になっております。
…行く事になっているのです。駅に11時と、待ち合わせなのです。
現在の時刻、9時54分。
家を出るのが10時50分頃。
まだ小1時間あるんですが、問題が発生しております。
「佳奈恵、お母さん、疲れちゃった。ねぇ、何で居留守使うの?転校する事も内緒にしてなんて、誤魔化すのも大変なんだからね。」
「うっ、ごめんなさい。」
リビングのソファーの上で正座をし、頭を擦り付けるように下げる私。本当にすみません。
「お母さん、10時には家を出るから、後は自分で何とかしてね。」
そう言うと、母はリビングを出て行った。
実は朝から、幼馴染の襲撃にあっていたりする。
8時過ぎ頃にたいちゃんが。
そして9時30分過ぎ頃に、はるくんが。
携帯も今朝からまた大変な事になっていて、着信拒否設定にさっきしたばかりだ。
いや、いっそ消すか…どうせ明日には携帯を変えるし、昨日のゆうくんを見てるだけに、話しなんてまともに通じないと思うから。それが早いよね。
つらつらと考えていると、玄関の方から母の声がした。
「佳奈恵、お母さん出るけど、泰輝くんまた来るって言ってたから。」
言って来るねの母の声と玄関扉の閉まる音が聞こえた。…アレ?
「‼︎‼︎ やだお母さん!鍵して行ってよ!」
ソファーから飛び降りて、玄関までダッシュ‼︎
二重ロックを素早く掛ける。フゥ〜ッ…。
とその時、チャイムの音がリビングの方からした。
ああっ、なんてタイミング!
足音を立てないようにリビングへ戻り、モニターを見る。
そこに映し出されていたのは、ゆうくんだった。
とても不機嫌な表情で、若干イラついている事が見て分かった。
『かなちゃんいるんでしょ?いつまでも隠れてないで、ぼくにちゃんと説明してよね。』
さっき出て行った母が私を売った?
イヤイヤ、さすがにそれは無いでしょう。母を疑ってはダメ。
『自転車が駐輪場にあったから、かなちゃんがいるのは分かってるんだよ。ねぇ、良い加減に観念したら?』
う〜ん自転車で所在が分かるなんて!盲点でした!
やはり、伊達に幼馴染じゃ無いわね。
なんて感心してる場合じゃ無い!
瑠美ちゃんとの待ち合わせがっ‼︎ どうしよう!
『ねぇ、そこで聞いてるんでしょ?かなちゃん、琴ちゃんの事苛めてるの?どうして?何で苛めるの?琴ちゃんが何か、かなちゃんにしたの?』
ゆうくんまだ言ってるんだ。
『それは無いよね。琴ちゃんが、かなちゃんに何かするなんて、あり得ないよ。じゃぁどうしてかなちゃんは琴ちゃんを苛めるの?琴ちゃん、とってもいい子だよ。それにすっごく優しい子なんだよ。仲良くするなら未だしも、苛めるなんて、可笑しいよね。』
私が加賀さんを苛めてるのが前提なんだ。そこは疑わないんだね、ゆうくん。
『ねぇ、かなちゃん。ちゃんと謝ろう。許してくれるように、ぼくも一緒に琴ちゃんにお願いしてあげるからさぁ。』
ゆうくん…酷い。
身体が震えた。どうして信じてくれないんだろう。何か私やらかした?博武やたいちゃんやはるくんやゆうくん、後加賀さんにも何かした?
一方的に言われ続けると、私が何かやった錯覚になる。
本当は私、苛めてた?
『かな、話そう。家から出て来い。』
気付くとモニターには、ゆうくんの隣にたいちゃんが映っていた。
『春輝も博武も今回の事を心配してる。だからちゃんと話そう。俺も一緒に琴子に謝ってやるから。いつまでもこんな事続けていられないだろう。』
たいちゃんからもこんな言葉を聞くなんて…。
「もう…無理。」
ダイニングテーブルに置いてあった携帯を持ち、電話を掛けた。
耳に携帯をあてるが、手が震えて定まらない。
「早く、早く出て…。」
祈る気持ちでコールを聞く。
『もしもし?かな、どうした?』
瑠美ちゃんの声が聞こえた途端、震えが治った。
「瑠美ちゃん、助けて。」
『どうかしたの⁈』
瑠美ちゃんの声に焦りが滲んだ。
「玄関の外に、ゆうくんとたいちゃんがいて、出れない。」
『分かった。今行くから、待ってて‼︎』
瑠美ちゃんの言葉に安心して、その場にへたり込んだ。
ありがとうございます。